ep.4
ピーンポーン。
静かな部屋に、インターホンの音が鳴り響いた。
(……誰だ?)
配達を頼んだ覚えはない。
そもそも、会社の同僚にこの部屋の住所を教えたこともない。
一瞬、さっき考えていた嫌な想像が頭をよぎる。
——もう、バレたのか?
そんなはずはない、と自分に言い聞かせながらも、
胸の奥に小さな不安が残る。
少しだけ間を置いてから、
僕は意を決してドアを開けた。
すると、そこには——
見知らぬ少女が立っていた。
年の頃は、十代後半から二十歳そこそこだろうか。
整った顔立ちに、どこか現実感の薄い雰囲気。
思わず、言葉を失う。
(……誰だ、この子)
「すみません。有村裕二さんのご自宅はこちらでしょうか?」
年齢にそぐわない、妙に品のある丁寧な物言いだった。
儚げな声に、肩まできれいに伸びたロングヘア。
明るい茶色の髪が、廊下の照明を柔らかく反射している。
——いや、それより。
(……今、僕の名前呼んだ?)
こんな綺麗な子に心当たりはない。
そもそも、知り合いの女性自体がほとんどいない。
困惑が頭から離れない。
今日は一日で、一生分驚いている気分だ。
「あの……?」
僕が黙り込んでいるのを見て、
少女が少し不安そうに首を傾げた。
「は、はい。僕が有村裕二です」
若い女性と話すのは久しぶりすぎて、
声がわずかに裏返る。
(……これ、変なふうに思われてないよな?セクハラとかじゃないよな?)
そんな僕の内心を知る由もなく、
「やはり、そうでしたか!」
少女の表情が、ぱっと明るくなる。
「やっと、あなたに出会えました!」
その言葉を聞いた瞬間、
僕の脳はさらに困惑で膨れ上がる。
「……僕を、探してたって。どうしてですか?」
動揺を隠しつつ、できるだけ平静を装って問いかける。
すると少女は、少しだけ申し訳なさそうに視線を伏せた。
「あの……突然押しかけてしまって、申し訳ありません。
ただ、少し立ち入ったお話になりますので……中に入っても、よろしいでしょうか?」
そう言うや否や、
彼女は半歩、すでに玄関の内側へ足を踏み入れていた。
あまりにも自然な動きで、
断る隙など与えてくれない。
(……え、待て)
気づいた時には、もう遅かった。
(若い女の子を、三十歳の男が一人暮らしの部屋に入れるって——
これ、普通にアウトじゃないか?)
胸の内で必死に焦るが、
そんな僕の動揺など、少女はまったく気にしていない様子だった。
少女はソファに腰を下ろし、
僕を手招きするように、じっとこちらを見つめている。
(……仕方ないか)
半ば諦めた気持ちで、
僕は彼女の向かいに座った。
「突然押しかけてしまって、本当に申し訳ありません」
そう前置きしてから、少女は小さく一礼する。
こちらとしては、正直なところ早く帰ってほしい。
だが、なぜ僕の名前を知っているのか。
どうして家まで突き止めたのか。
聞きたいことは山ほどあった。
それに——
もしかしたら、僕の能力に気づいているのかもしれない。
「そういえば……まだ名乗っていませんでしたね」
一瞬、間が空く。
「私の名前は、笹本優花といいます」
そこまで言ってから、
彼女は何でもないことのように、続けた。
「——吸血鬼です」




