【8】
翌朝、雅巳が店に来たので、早速、投げ文のことを伝える。
「…は? 俺の名前?」
雅巳は珍しく驚いた声を出し、考え込む。
「誰なんだ、一体…?」
腕を組み、天を仰ぐ。本気で犯人を見つけようとしているようだった。
「相変わらず、視線も感じるし」
「!? そうなの!?」
凛が食いつくと、雅巳は静かにうなずく。
「今も実は見られている感じがする」
外を見、小さな声で伝えてくる。凛も外を気にし、
「誰なのか分からないの?」
「分かったら苦労しない」
雅巳は雅巳で大変そうだった。次から次と凛も頭が痛くなってくる。
「私、見てこようか?」
「やめろ。危ないかもしれない」
真剣に止める雅巳に、凛は素直に従う。自分を思っての言葉に、そのまま受け取ったほうがいいと取る。
「とりあえず役所に届けるか?」
「うーん、雅巳さんがそう言うなら、考えてみるけど…。お父さんとお母さんに相談してみるね」
そう言うと、凛は雅巳に聞く。
「雅巳さんはどうする?」
「俺か? 俺は…」
深くため息を吐くと、雅巳は意を決したように言う。
「視線のことはおいといて、とりあえず」
「とりあえず?」
「両親を説得して欲しい」
「…。は?」
意外なことを言われ、凛は目を大きく見開く。雅巳は空咳をすると、真面目に言ってくる。
「ーもう一度、陳華穂になって欲しい」
「え…。私が?」
大きな声が出そうになったので、慌てて口をおさえ、低い声を出した。
「ああ。頼めるか?」
「それは、その…」
偽婚約者になれということに、凛は戸惑う。しかも今、周家は大変らしく、ひどい噂も聞く。麗と啓太のことが気になるが、凛がのこのこ出ていって役に立つとは思えない。
ーどうしようかしら?
迷っていると、雅巳が肩に手を置いてくる。
「頼む!! 俺を助けると思って」
「…。しょうがない」
本当は投げ文の件もあるので、関わりたくないのだが、犯人も気になるし、何より雅巳のことが心配だった。彼のために何かしてあげたいというのも間違いではなかった。
「分かった。やるわ」
「そうか!! ありがとう」
表情の緩んだ雅巳に対し、どきりとする。大雅達にはやめとけと言われそうなので、黙っておくことにした。
「それで、その服装とかは…?」
「美加さんに協力してもらうことにした。それなら安心だろう?」
「うん。ありがとう」
2人は握手をかわすと、早速、出かけたのだった。




