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【5】

夕方の散歩より少し早い時間帯。凛は甘味処にお邪魔していたのだった。

ー相談したほうが心強いものだものね。

ここには雅巳が勤めており、雇い主の流美加とは小さい頃から知っている仲だった。

「ー脅迫文!?」

2人が驚いたような声を出す。凛はこくりとうなずき、

「一度なら気のせいだと思えるけど、 二度目はちょっとな…。どうしたらいいと思う?」

「そうだな…」

雅巳が腕を組み、考える仕草をした。美加も頬に手を当て、心配そうに見てくる。

ーこの2人、絵になるのよね。

雅巳はもちろん、美加も年上だが、甘味処の美人主人として活躍していた。自分とは月とすっぽんだなあなんて考える。

ー駄目よ。顔は親から貰ったものなんだから。

そう思うことにし、2人の意見を待つ。

「何が目的か知らないが、とりあえず気をつけろ」

「そうね。万が一ってこともあるし。心配だわ」

美加がふうと息を吐き出すだけで、他の客が頬を赤くし、ため息がもれる。すごい影響力のある人だなと思いながら、凛は答える。

「はい、分かりました。気をつけます」

「それでいい。…ただな」

「何? 何かあるの?」

歯切れの悪い雅巳に、凛は逆に興味を持ち、聞く。

雅巳はどうしようか迷う素振りを見せたので、美加が

「言ってしまいなさい。何かあるんでしょう?」

優しく背中を押す。雅巳はごほんと1つ咳をし、口を開く。

「実は俺も常に視線を感じるんだよ」

「…。は? どういうこと?」

「分かるわけないだろう。俺自身にしか分からないんだから。その、今も見られているように感じるんだ」

「え…」

凛は解答に困り、周囲を見回す。美加に注目している視線はあるが、雅巳に注目している視線はないように思える。

「誰も注目してないみたいなんだけど…?」

「そうなんだけど、その、ねばつくようなものを感じるんだよ」

心底嫌そうに言い、体を震わす。凛は再度周りを見るが、皆、自分達の話で盛り上がっているようだった。

「…。とりあえず役所は…?」

「そこまではな。証拠もないし」

「そうよね…」

美加も同意し、3人は黙り込む。雅巳も問題を抱えているのだと知り、何だか複雑な気分だった。

ー何なのよ、もう。

何が起こっているのか、天に聞きたかった。どうして自分達だけがと言いたくなる。

ーでも普段は無視しているものね。

問題を抱えていない時はのほほんといい気なものだったと反省する。本当に当事者でなければ分からないことだった。

「とりあえず、皆、気をつけましょう」

美加の一言に、凛と雅巳はうなずく。さあ、と秋のすべらかな風が吹いていく。

「ーさあ、それはとりあえず置いといて…」

美加がぽんと手を叩き、奥へ行ってしまう。何だろうと視線を追っていると、すぐ皿を持って戻ってくる。

「何ですか、それ?」

「新メニューを考えたの、また」

「え!? そうなんですか?」

凛は皆の卓を確認する。前、試しに食べさせられたものは皆、頼んでいるようだった。とすると、今度も期待大となる。

「ーはい、これ」

「…。何ですか、これ?」

さつまいものようだが、衣がついている。油で揚げたようだった。

「焼き芋をあげてみたのよ。ーちょっと食べてみてくれる?」

美加が皿を前に出してきたので、凛だけが今回も試食する。

「素直な感想を聞かせてね」

美加の真剣な視線に、凛は深くうなずく。数回噛み、それから咀嚼する。

「どう?」

美加が期待したように前に出てきたので、凛は真面目に答える。

「美味しいです!! 普通のさつまいもよりも甘いというか」

「そうなのよ!! 普通より甘いのよ」

美加が嬉しそうに笑ったので、凛もつられて笑う。こののどかな時が今はありがたかった。

「あんまり食べるなよ。太るから」

「失礼ね!! 私だってちゃんと分かっているわよ」

ふん、と顔を背けると、美加がくすりと笑う。

「あの…?」

「いや、仲がいいなと思って」

「はい?」

雅巳と同時に素っ頓狂な声を出す。そんな風に見えるなんて思わなかった。

ー美加さんか変なことを言うから。

また雅巳のことを意識し、目を合わせられなくなる。人のせいは良くないと思い直し、美加に集中する。

「新メニューにするんですか?」

「そうね。何とかそうしたいんだけど」

美加がそう言い、雅巳にも勧めるが断られる。

「甘いものは駄目なんだっけ?」

「そうなんです。すみません」

雅巳は本当に申し訳なさそうに答えると、

「さて、そろそろ行くか?」

聞いてきたので、凛もうなずく。

「うん。美加さん、ごちそう様でした」

「はい。気をつけて行ってらっしゃい」

細くて長い手を振られ、凛も手を振り返す。

「行くぞ」

「待ってよ!!」

先を歩き始めた雅巳を追うように、凛は駆けたのだった。



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