【3】
「ーありがとうございました」
客を見送り、凛は安堵の息を吐き出す。基本的には、店番を任せられているので、客が喜んで帰る姿は嬉しかった。
ー次も頑張ろう。
青空に向かい、腕を上げると、踵を返そうとしたその時。
「ーちょっと」
高飛車な声音だった。女の人だと思い、そちらを向けば、二十代くらいの女性と十代くらいの男の子がいた。
ー誰、この人達?
見たことのない顔に戸惑っていると、気の強そうな顔をした女がつっかかってくる。
「あんたの店、傷物を売ったんだけど!!」
女の赤い紅がついた唇が大きな声で喋った。凛は反射的にまずいと思い、女に小声で話しかける。
「何のことでしょうか…?」
「とぼけないでよ。ーほら、これ!!」
手提げ袋から出したのは、皿だった。青の花が描かれたもので、凛の店でもよく売れている品物だった。
「あの…?」
凛が恐る恐る皿を受け取ると、確かに欠けている箇所があった。ただし対応に困る。
ー嘘かもしれないし、ここは何とか上手くしないと。
凛はとっさに頭をめぐらす。
「これは失礼いたしました。他のものと交換しましょうか?」
「それよりも、お金を返して」
「え…」
店内を振り返ると、大雅がちょうど出てきた。
「お客様、大変申し訳ございませんでした」
「ふん。分かればいいのよ」
女は金を受け取ると、嫌な笑みを浮かべる。
「どうしようかな。不良品、売ったって言いふらそうかしら」
ねばつくような声音に、凛はぞっとする。そんなことをされたら、店の信用ががた落ちである。
ー売る時にちゃんと確認するのに!!
自分達には非はないと信じているが、怒る客相手にどうすればいいのか困る。謝りぱなしではなめられるような気がするのだ。
ここは父親である大雅に任せることにする。
「ではお客様、もう少し」
金を余計渡したらしく、女がふんと鼻を鳴らす。分かればいいのよ、みたいな態度にカチンと頭にくる。
ーたまにいるのよね。わがままなお客さん。
客商売だからしょうがないが、同じ人間同士、思いやりの心を持ってもいいのではないかと思ってしまう。高圧的な態度も気に食わない。
ーお金があれば何してもいいわけじゃないのに。
逆に黙っている子どもに視線がいく。周啓太と同じくらいだろうか。一見、大人しそうに見えるが、喋り出したら女と同じかもしれないと身構える。
「じゃあね」
女が最後まで攻撃的な態度のまま、踵を返す。男の子も一緒に遅れてたまるかとついていく。
2人の姿が見えなくなったあと、ようやく凛と大雅は肩の力を落とす。
「…全く。うちが本当に悪いのかしら?」
「こら、凛」
「だって、安心信頼の関係で今まで営業してきたのに」
悔しくて、石ころを蹴飛ばす。店を注目している視線はなさそうで、大雅の対応が的確だったと知る。
「色々あるね、客商売だと」
「それはそうだ。皆、同じ考えじゃないんだから。顔だって1人1人違うだろう?」
「…うん」
空を見上げると、太陽がよく頑張ったと褒めるように、日差しを伸ばしてくる。今日は暑いほうだった。
「ーさて、店に戻ろうか、凛」
「はい、お父さん」
2人は仲良く店へ戻ったのだった。




