【2】
「ーただいま」
うちに戻った凛の声音は元気がなかった。それもそのはず、ずっと雅巳に無視され、完全に拒絶されたのだった。
ーいいじゃない、少しくらい遊んでも。
自分は凛をからかうくせに、その番が自分だと納得しないようだった。何か不公平だと思いながら、とぼとぼ帰ってきたのだった。
ーあとでもっと謝るしかないか。
雅巳で遊ぶのは危険と察し、肩を落とす。とりあえず暗くなった外から脱出し、明るい我が家ー雑貨屋なのだが、帰ってこられてほっとする。しかし返事がない。
「あの! ただいまってば!!」
凛がようやく顔を上げ、強めに言うと、父親の葉大雅と母親の葉定が何か見ながら固まっている。
ー何? 何があったの?
雑貨屋には人はおらず、家族のみだった。凛は近づくと、2人に声をかける。
「ただいま、お父さん、お母さん」
「…ああ凛か」
大雅が見ていたものー何か紙らしきものを背中に隠す。凛は何だろうと後を追おうとするのを、定が止める。
「こら、凛!!」
「何? お母さん? 2人で何を見ていたの?」
気になる凛に、2人は口を割るまでひく気はなかった。大雅の周りをうろつくと、彼がしっしと追いやる。
「お前には関係ない。ほら早く手洗いしてきなさい」
「嫌だ。教えてくれるまで動かない」
「全く、この娘は…!!」
大雅は呆れたように言い、定を見る。定も困ったように大雅を見る。
2人だけの隠しごとなんて水くさいと、凛は前に出る。
「何? 私に見せられないもの?」
「…。そうだ。あきらめろ」
「駄目。気になるから見せて」
凛が負けず嫌いなのは、両親もよく知っており、2人とも顔を見合わせ、息を吐く。観念したようだった。
「ー実は」
大雅が後ろに回した手を前に出し、定と見ていたものを出してくる。それはしわくちゃな紙だった。
「…。何これ…!!」
紙を見、凛が叫ぶ。紙には墨で「殺す」と書いてあった。凛はずいっと前に出、大雅に言う。
「誰がこんなことを…!! ひどい!!」
「それが…投げ文なんだよ」
「投げ文…!? 誰がしたのか分からないの?」
凛は興奮し、つばを飛ばす。基本的に店は客が入りやすいように、戸は開かれていた。だから誰が投げ文してもおかしくない状況だった。しかし今までこんなことはなかったのだ。
ーこんなことをする人の気がしれない。最低!!
ついに凛は怒り出し、父母に言う。
「私、気にしないから。こんないたずら…!!」
「それはそうなんだけど、万一のこともあるし。ねえ、お
父さん?」
「ああ、そうだな。気をつけるに越したことはない」
2人とも深くうなずく。凛もうなずき、強く言う。
「犯人の奴…! 許せない」
「こら、凛。大きな声で言うものじゃない」
「そうよ。誰が聞いているか、分からないんだから…!!」
2人が凛の肩に手を置く。その温もりに安心し、凛は返す。
「私も気をつけるから大丈夫。それよりもお父さんとお母さんも気をつけてね」
「もちろんだ。なあ、定?」
「はい、お父さん」
2人のやりとりに、凛はすっと心が温かくなるのを感じる。2人の愛情があるから安心できるのだし、行動に移せるのだった。
「さあ、中に入りましょう」
「そうだな。もう店じまいするか」
「うん!! 今日のご飯、何?」
凛はぱっと表情を明るくすると、2人に甘えだしたのだった。




