表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/19

【16】

「ーねえ、市場に行かない?」

散歩の途中で凛が雅巳に提案した。

「何するつもりだ?」

「内緒。行こう」

袖を引っ張ると、雅巳が大人しくついてくる。

市場は夕方でも盛り上がっていた。値段を交渉する人や、パフォーマンスをして客を呼ぼうとする店主など、色んな人達の集まりだった。

「えーっと…」

凛は買い物客の合間を抜けながら、目当てのものを探す。雅巳も人を器用に避けながら進んでいく。

「…あ!! あった!!」

目当てのものが見つかり、凛が足を止める。雅巳は興味深そうに覗き込み、

「ー柿か?」

そう言ってきた。凛は「正解!」と答え、微笑む。

「柿はね、医者いらずって言って、栄養などを豊富に含んでいるの。今の雅巳さんには、最高の食べ物よ」

凛は知識を披露すると、店主に向かって言う。

「柿、ください。いくつにしようかな」

「何個でもいいよ。お姉ちゃん、まけとく」

「そうなの、お兄さん? じゃあこれだけ」

「毎度あり」

袋に入れてもらい、凛は満足そうに雅巳に手渡す。

「もっとよくなりますように」

「…。ありがとう」

雅巳は文句を言わず、柿の入った袋を見つめる。

「本当にいいのか?」

「いいの。いつもお世話になっているから。ーじゃあね、お兄さん」

挨拶すると、凛は雅巳を振り返る。

「散歩の続き、行こうか」

「ああ。そうしよう」

2人は仲良く歩いて行くのだった。


それから日は過ぎ、日中でも寒くなった頃。

「ー凛、おつかいを頼む」

大雅に言われ、凛は近づいていく。

「何? どんなおつかい?」

「すまないが、これを役所に届けて欲しい」

渡されたのは、封に入った書類だった。凛は素直に答える。

「分かったわ。行って来ます」

「気をつけるんだよ」

「うん!!」

胸元に書類を抱き、外へ出る。今日は生憎、曇っており、雨が降りそうなくらい暗かった。

ー早く行って帰って来よう。

そう決めると、足早に歩いていく。通り過ぎる人達はまばらで、皆、うちにいるようだった。

ー洗濯物が気になるわね。

黒い雲を見上げ、気になってくる。その時、

「…きゃあ! 何?」

急に背後から襲われ、ばさりと音がした。何の音と思っていると、簪が道に落ちる。何が起こっているのか、分からないうちに、紙が舞い降りてきて、相手は去っていく。凛は何もできず、呆然と突っ立っている。

ー何? 何? 何?

雅巳から貰った簪を拾おうとした時、髪が前に垂れてくる。「え」と思ったのは一瞬で、どうやら髪を切られたようだった。

ー髪!! 私の髪が…!!

乱暴に切られた髪が、肩を滑って道に落ちる。慌てて犯人を見ようとするが、もう誰もいなかった。

「そんな…。ひどい!!」

目に涙が浮かんでくる。せっかく綺麗に伸ばしているのに、変な風に切られるなんて、あまりにも酷だった。しかも落ちた紙には、

「これ以上、雅巳に近づくな」

そう書かれていた。またしてもの警告に、凛は憤る。

ー何が目的なのよ!! しかも髪まで切って!!

涙が一粒こぼれた。しかし雅巳のせいだとは思わなかった。

ー絶対、犯人を捕まえてやる!!

悔しさで腸が煮えくり返りそうだった。髪は母親の定に綺麗にしてもらおうと決め、頬を拭う。嫌がらせに負けてたまるかと、奮起したのだった。

「覚えておきなさい!!」

大きな声で叫ぶと、周囲の視線が集まってくる。しかし凛は気にせず、渡された紙をくしゃりと潰したのだった。


「ーお前、どうしたんだ、その髪!!」

いつも通り、雅巳とおちあうと、すぐさま言われた。

凛の髪は短くなり、淋しい姿になっていた。

「それがー」

経緯を話し、紙を見せると、雅巳が紙をくしゃりと握りしめる。

「誰がこんなこと…!! 絶対に許さない」

悔しそうに唇を噛みしめる。雅巳が怒ってくれたことで、もやもやしていた気持ちが少しだけ晴れていく。

「犯人、捕まえようと思って」

「ああ。でもお前は危ないからやめておけ」 

「嫌よ。私も巻き込まれたんだから、最後までやる」

強い決意に、雅巳が怒ったように言う。

「馬鹿。髪を切られたんだ。お前の身のほうが危ないかもしれない」

「…」

本気で怒って心配してくれているのが伝わり、凛は嬉しくなる。

「ありがとう、雅巳さん」

「くそ…。俺が一緒にいれば…!!」

雅巳は悔しそうに道を蹴る。それだけで十分だと凛は改めて、雅巳がいてくれて良かったと思ったのだった。

「行こう。髪はまた待てば伸びてくるし」

「いいのか? 俺といると危ないぞ」

「いいのよ。乗りかかった船だし、私も許さないんだから」

2人は重くうなずくと、決意を固くしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ