【12】
雅巳と話した結果、散歩の道順が変更になった。今まで人数の少ない場所を選んで歩いていたが、今回から街中を歩くことになったのだった。
「この格好で恥ずかしくない?」
迎えに来た雅巳に言うと、彼は素直な意見を言う。
「大丈夫。派手な格好したほうが田舎者だってばれるから」
「そう? じゃあ行こうか」
「ああ」
2人が行こうとしたその時、父親の大雅が止める。
「待ちなさい。2人とも気をつけて行くんだよ」
本当に心配そうな面もちに、凛と雅巳はしっかりうなずく。
「じゃあ行って来ます」
外に出た途端、頬を撫でるような風がふいた。気持ちいいと目を細め、雅巳の後をついていく。
ーまだ視線を感じるのかしら?
雅巳のことが心配で、袖を引っ張る。
「何だ?」
「大丈夫? その、後をつけてくるとか…?」
「今のところ平気だ」
ぽんと肩を叩かれ、凛は安堵する。進むにつれて、人が多くなっていき、店やそこに勤める従業員の声が増えていく。
ーまだ知らない世界がたくさんあるのね。
見たことのないものばかりに、凛は興奮する。人混みまではいかないが、大勢の人が動く世界に、やや緊張気味だった。それに比べて、雅巳は平気なもので、彼を見て息をもらす女性達がいるにもかかわらず、興味がないようだった。
ー何かむかつく。
雅巳の背中を手で叩くと、彼が振り返ってくる。
「何だ?」
「何でもない。行こう」
訳を言わず、歩き出したその時、雅巳が叫ぶ。
「危ない!!」
「え…?」
何が起きたのか、凛は瞬時に理解できなかった。人の叫び声がする。
ー何? 何? 何?
混乱状態の耳に、言葉が入ってくる。
「お前を刺すつもりだったのに…!! 邪魔、死ね」
悔しそうに立ち去った声に、雅巳の言葉が追いかけて言う。
「お前が死ね。…痛っ!!」
「どうしたの? …これ!!」
どうりで人が集まってくるはずだ。雅巳の腰辺りが小刀で刺されていた。血が袍に滲んでいく。
ーどうなったの?
声の主はどこと捜そうとするが、姿は見えない。むしろ心配してくれる人の集まりで邪魔されてしまう。
ー誰がこんなこと…!!
凛は手巾を出すと、血に触れようとする。しかしそれよりも早く周りの人が止める。
「大丈夫か!? おい!!」
「あの…お医者さんを…!!」
凛が叫ぶと、周りの人間が動き出す。手巾を持ちながら、おろおろする凛の頬に冷たいものが当たる。
ーえ? 雨?
にわか雨なのかもしれないが、こんな時に降ってくるなんて不吉のような気がした。しかし凛は首を振って否定する。
「雅巳さん…!!」
「大丈夫だ、これくらい」
「でも血が…!!」
「そうなんだよな。全く、情けない。お前は大丈夫か?」
「大丈夫よ。何ともないわ」
「犯人は…?」
雅巳の言葉に、無言で首を振る。残念ながら、取り逃してしまったようだった。
ー本当は私が刺されるところだったみたいなのに…!!
雅巳が体を張って守ってくれたことに泣き出す。綺麗な体に傷が残ったらどうしようかなど色んなことが頭を巡る。
「おい、医者がきたぞ!!」
「はい。ありがとうございます!!」
凛は礼を言い、様子を見守ったのだった。




