【10】
帰り道、凛は悔しくてたまらなかった。
ー悔しい! 悔しい! 悔しい!
浮かぶ顔を踏みつけるように進む。雅巳と繋いだ手は解放されていた。
ー何なの、あの家族!! 全員、ひっぱたいてやりたい!
物騒なことを考えた時、凛は肩をぶつける。
「すみま…」
「ー嘘つき女」
「…は?」
一瞬ためらっているうちに、ぶつかった相手は去ってしまった。急いで振り返ってみるが、誰だか分からない。
ー女の人の声だと思うんだけど…。
ぶつかった肩に手を置くと、雅巳が気づく。
「どうした?」
「え…。ああ、何でもない」
手を左右に振り、心配ないと伝えると、凛は真剣に聞く。
「あの…。言ってもいい?」
「…何だ?」
「その…あの家族の元に戻って大丈夫?」
あの3人と暮らしているなんて、ぞっとする。寝ているうちに、変なことをされそうだとまで考える。
「何だ、そのことか」
雅巳は凛の心配などよそに、強く言うと、
「別の部屋を借りているから大丈夫だ。心配ない」
肩を竦めた。
「そうなの…。良かった」
安堵すると、今度は雅巳の家がどこなのか気になる。しかしそれは教えてくれなさそうなので聞くのをやめた。
「それより、お前、大丈夫か?」
「へ? 何が?」
「何がじゃなくて、さっきから殺気を放っているから、何かやりはしないか心配で」
「あー」
雅巳の観察力はすごいと感じ、ほどけた髪を耳にかける。
「大丈夫、私なら。何もしないから」
「そうか? あの…ありがとうな」
「え…」
礼を言われ、びっくりする。雅巳も照れくさそうに続ける。
「また婚約者の役、やらせて悪かったな」
「そんなこと…。別に、その、いいんだけど」
正直なことを言うと、雅巳は全身から力を抜いたようだった。凛が何かやらかさないか、心配して警戒していたのかもしれない。
ー雅巳さんったら…もう。
自分のせいで悩んでいたとしたら、申し訳なかった。凛こそ礼を言う。
「こちらこそ、ありがとうね」
「いや、いいんだ。お前が礼を言う必要はないのに」
「その、嫌じゃないから。婚約者の役」
最後は小声で言うと、聞こえなかったのか、雅巳が大きく伸びをする。
「さてと、甘味処に戻るか」
「そうね。そうしましょう」
努めて明るく言うと、2人は歩き出したのだった。




