ウィリアムの願い
「もし、僕が負担になるのなら…神殿に向かいます。」
本当は言いたくなかったけど、みんなが辛い思いをするのであれば、仕方が無いよ。 運が良ければ、侯爵家に利益が生じるかもしれない。僕が神殿に向かうことで、みんなが幸せになれるのなら。
けど正直、顔を上げられない。神殿には行きたくない。
「…ウィリアム。」
少しの沈黙の後、ルーカスがただ一言"ウィリアム"と名前を呼んだ。その声は、微かに震えていたかもしれない。
ウィリアムは、顔を上げた。
「ウィル、そんなことを言わないで。父上も、母上も負担を感じたり迷惑だとも思っていないよ。もし、やむを得ない事情があっても僕が絶対にウィリアムを守るから。」
「…お兄様。」
お兄様は、僕の頭を優しく撫でていた。その表情は微笑んでいながらも、悲しみが含まれていた。
「ウィリアムは、可愛い私達の子ですもの離れたりしないわ。」
「二人の言う通りだ。気にする事はない。言うなれば、子供であるウィリアムは私達に沢山迷惑をかけてもいい存在なのだよ。当然ながら、ルーカスもな。」
皆、僕と離れたりしないんだ。まだ、神殿の事は安心出来ないけど、ほんのちょっとだけ視界が明るくなった気がする。
「ありがとうっ。」
ウィリアムは、今言える力いっぱいの感謝を述べた。
(ウィルは、今でこそ平気な顔をしているが僕たちが少しでも表情を曇らせてたら、一人でも神殿に名乗り出るだろう。普段、明るい性格ではあるがウィルは周りの顔色を伺う癖がある。洞察力が人並み以上だ。その場の空気感に合わせる事をしてしまうから、悩みの種を早急に対処しなくてはならない。ウィルの不安要素をひとつでも無くせるように___。)
ルーカスは、これまでのウィリアムの行動を考え神殿に対しての対策を練ることが必要だと、強く思っていた。
パンっ。
神殿についての話が終わると、お母様が切り替えるために手を一度叩いた。
「さぁ!ウィリアムの魔法属性も分かったことですし、街でお買い物をしましょう。お腹も空いたしね!」
「やったぁー!」
お母様は、さっきの雰囲気を変えるためにも明るい声で話題を変えた。みんなで街にお出掛けするの、すっごく楽しみだったから嬉しい。
神殿を出ると、直ぐに街が広がっているためお父様から降りて歩いて街まで行った。
神殿の窓からからヴェスター家一行の後姿を、神官長テネブラと神官モリスが2階から眺めていた。
「ウィリアムと侯爵家の動きを逐一報告しろ。あれは、是が非でも欲しい。」
神官長は、ウィリアムがどうしても欲しくモリスに監視をつけるように命令した。
「かしこまりました。しかし、相手はヴェスター家です。侵入を許さないかと。」
「外からではなく、中から攻めるのだ。誰かしら、ヴェスター家に嫌気が指している者、また恨みを持っている人物がいるだろう。」
「手配いたします。」
モリスは、神官長から離れ命令通りヴェスター家に仕掛けようと動こうとしていた。
「ふわわぁ!人が沢山います!」
「ここは、外国からの輸入品もあるからみんなそれを求めてここに来たり、ご飯がとても美味しいことで有名なところなのよ。」
お母様が説明してくれた。歩いている人を見ると、高価そうなお洋服を着ている人も多々見かけた。ここは、貴族もよく利用する場所なのかな。あ、所々警備の騎士さんもいる。厳重警備が施されている街なんだ。帝都はすごい!
「ウィル、人が多くてはぐれたら大変だから手を繋ごう。」
「ありがとうございますっ!」
お兄様は、手を差し出してくれた。お兄様の手は凄く暖かいから癒されるんだよね。僕は、直ぐにお兄様の手を握った。