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覆水が盆に帰った日

結局楽しくなっちゃった。

多分次こそ君のソナタを投稿するつもりですが、行き詰まったら多分ここに戻ってくる。

逢夢(あいむ)悠亜(ゆうあ)という突然の視覚を操る刺客を掻い潜り、僕という羅和(あみら)千里(ちさと)は今日もまた二人の仲間と行動するのであった。


「前言を撤回しよう。」

そう切り出したのは昨日仲間に加わった桜走(おうわし)(みだり)だった。

「ああいうギミック系というか、直接能力で攻撃してこない場合は、俺っちの交差する心象(スクランブル・ハート)で能力をバラして、空想日記エンプティー・ライターで後の先を取るっていう方法でどうにかなるとして。君たちの言う獅海馬児(しとどに)益荒男(ますらお)のような奴が攻めてきたらひとたまりもない。」

黙って聞いているが別に反論が無いわけでもない。あまり乗り気ではないが、僕の過程ばかりの量子力学(ラプラス・スキップ)は、何の意味もない何をすることも許されない能力ではあるが、ジャイアントキリングを狙えないというわけではないのだ。なんて僕の考えあぐねる心の声は桜走には届かず、彼は話を続けるのだった。

「というわけで、俺っちの仲間全員と合流するつもりだったけどそれは後回しにしよう。一刻も早く俺っちたちは隔多里(へだたり)という人物と接触する必要がある。」

「そりゃ俺たちも隔多里と協力できるならそれに越したことはないけど、場所も連絡先もわからない。その上強力な攻撃性の能力と戦うためにそれに勝てそうな奴と今の状況で戦いに行くって、そりゃあもう本末転倒どころじゃないぞ。」

僕としても綴に同感だ。万有斥力の蓄積リレーション・テクトニクス、大凡察するに『近づいてきた物をそれ以上の力で吹き飛ばす』というものだ。確かにそれ自体で戦える能力じゃない。現にそんな代物なら僕達と協力するまでもなく獅海馬児と戦って正面から逃げるだろう。しかしだからと言って僕達が彼女に勝てるというわけでもやはりない。

「その為に俺っちの人脈があるんだよん。」

そう言って桜走は今僕達が話しているホテルの部屋のドアを指さした。

「み、妄君!そんな期待を煽るような事言わないでよ!」

いつからドアの後ろに居たのか、扉が開くとぱっと見女性にすら見える程華奢な男が居た。

整井(ととのい)纏割(まとわる)。俺っちの友人さ。能力は傾くことのない天秤イブネス・プラットフォーム、物を等間隔に並べて固定する能力だよ。」

「よろしくお願いします…あんまり役に立たないだろうけど。」

「よろしく頼むよ。俺は認目綴、こっちは羅和千里だ。」

傾くことのない天秤イブネス・プラットフォーム、一見何気なく感じるが、相手を強制的に拘束することもできるのか。桜走といい何とも敵にいてほしくない能力。そして尚更協力プレー向きの能力であるのに定められたあのルールが不可思議になってくる。

「二人ならもう察してるだろうけど、整井君の能力なら隔多里君の万有斥力の蓄積リレーション・テクトニクスを無効化できる可能性大だよ。」

確かな理由に基づく勝算。乗らない手は勿論存在し得ないが…

「一つ聞いて良いかな?」

「なんだい?羅和君。」

「二人は僕達…というより僕が今まで見てきた能力の中でも破格の性能を持ってる。当然攻撃型の能力持ちなら率先して君たちを勧誘という名の隷属をさせると思う。ただでさえ一般人からも忌み嫌われる僕達なのに、どうやって二人は自由に行動できているんだ?」

桜走も整井も答えようとしない。綴もやはりそこは気になるらしくスタンスは僕と同じようだし、ここは二人が折れるのを祈るしかなかった。そうして静寂の後に声を出したのは、意外なことに桜走だった。

「俺っち達はとある人物の連れだった。君たちはまだみたいだけど、いろんな人を殺したよ。能力者も非能力者も、老若男女国籍問わず。目的のために人を殺して歩いた。俺っちが君たちに声をかけたのは卑怯な話あいつから逃げるため、ひいては君たち二人を巻き込むためだった。」

「っ!?」

「……」

綴はある程度桜走を信頼し始めていた分過剰に驚いていたが、僕からすればなんら驚くことはない。そもそも非戦闘能力者でチームを組むというのは、妙案に聞こえる只の愚行だ。もし仮に、最終的に残るのがそのグループだとして、最後の一人はどうやって決めるというのだろうか。そんな血みどろで泥沼な争いをするより、例え死ぬ運命だとしても強力な攻撃性の能力をもった人物に傅くべきだろう。最悪自分にも経験値が来るのだから暗殺だって夢ではない。そんな中その愚行を率先して行おうというのだ、前記した事で失敗して次のフェーズに移ったか、自分たちの代わりになるような人を探していると考えるのが自然だ。

「二人には申し訳ないと思ってる。でも今俺っちがこの話をする理由がわかるかい?俺っちたち四人と、その隔多里君が加わればアイツに勝てると思ったからだ。」

「僕としても、人数は多いに越したことはないし、認目さんの空想日記エンプティー・ライターならきっと上手くいくと思うんです!」

綴は目を瞑って考えている。当然僕(一人称が被ってしまった、キャラ変をするしかないだろうか)の答えは綴の答えだ。黙って待つしかない。

そうしてたっぷり5分使って、ようやく綴は口を開いた。

「相手の能力は把握してるのか?」

「勿論。名前は御手洗(みたらし)足染(あしぞめ)、能力は後ろの正面ビハインド・オブ・ユー。背中に触れると高圧の電気が流れる能力だよ。」

綴はただ笑って首を縦に振るだけだった。

「やろう。」


改行一つ、空白一つ、それではとても表し切れないほどの時間が経った。正確にどれくらいかはわからない。多分3日と10時間程だろうか。僕達は東奔西走し津々浦々を駆け巡り、遂に隔多里甘劇を見つける事に成功したのだった。そう端的に結果の一部をポジティブに、限りなく前向きに捉えるならそう、僕達は彼女を見つけることには成功したのだ。ただ単に、それ以降全て失敗しただけだ。

「で?男四人で寄って集ってか弱い乙女を囲んだみたいだけど、何しに来たの?」

彼女の声が低く僕達にのしかかる。比喩ではなく物理的にだ。僕達は全員地面に突っ伏していた。何故こうなったのか、理由は単純だ。整井の能力で隔多里を拘束し、話を持ちかけようとした。しかしそれが間違いだった。正確には僕達の彼女の能力万有斥力の蓄積リレーション・テクトニクスへの理解度が間違っていた。僕はてっきりこの能力を、『物体が近づく事で反発する力がたまる』のだと思っていた。しかしそれは違った。『近づく』という行為そのものが反発力を蓄える要因だった。つまり、傾くことのない天秤イブネス・プラットフォームで移動できなくなっても、実際に足踏みになろうとも彼女が僕達に近づこうとするだけで僕達は簡単に吹き飛ばされてしまうのだ。

「しかしまぁ、面白い能力の仲間が増えたみたいね。気に入ったわ、そこの白髪じゃない新参の子、その子を譲るなら経験値にはしないであげる。恩を一つ程買ってもらうけどね。」

僕は綴の方を見た。顔だけ見れば言いたいことは鮮明に伝わるが、それが得策でないと理解している分声にはしていない。

「綴、今から僕が一方的に喋るから、例え信じがたくてツッコみたくなっても、黙って聞いてほしい。」

不意に声をかけられた綴は先程の強張った弦のような筋を納め、目で首を振る。

「僕の能力は名も意味もない能力ネームレス・ノーミーンという名前の微弱な念力じゃない。本当の名前は過程ばかりの量子力学(ラプラス・スキップ)。時間を映像フィルムと解釈して、起承転結の『承と転』にあたる部分を切り取って無理やり未来を現在に貼り付ける能力だ。飛ばした時間の中で僕は何もできないけど、僕が本来していた行動に則った未来になる。そして僕の本来していた筈の行動は誰にも認識できず記憶できず、しかし認識出来ているという前提での起こるべき結果が起こる。それが僕の能力だ。」

綴は約束を守って黙っているというより、大量の情報と疑問によって言葉を発する暇もない様子だった。

「つまり…キング◯リムゾンってことか…?」

「…。大方間違ってないけど少し違う。僕はキン◯クリムゾンみたいに飛ばした時間を自由に動けない。言ってしまえば僕の能力は、只のビデオにおける10秒スキップなんだ。」

だから故に、なるべくして必然に、この能力は名も意味もない能力ネームレス・ノーミーンなのだ。一通り話を聞いた綴の顔の歪みが克明に『それでどうすんだ』と嘆いている。

「でも、あたかも何もできないような能力だけど、一つだけとっておきの初見殺しがある。」

「っ!それが初めて能力を見せた時の謎の念力ってことか。」

約束こそ破られたが察しのいい返答に僕は頷く。

「兎に角僕を信じて真っ直ぐ隔多里に突っ込んで欲しい。そして空想日記エンプティー・ライターで一度無かったことにして、すぐに能力を解除して。」

「分からねぇけど分かった。」

そう言って直ぐさま綴は隔多里へ駆け出した。

「あんた、そんな無鉄砲だったっけ?万有斥力の(リレーション・)──」

彼女が手のひらを突き出し、2人の間が短くなる。距離が大凡5m程になったとき、綴は自身の日記に文字を記した。そうして僕も敢えて注意を引けるように、手と手を勢いよくぶつけある人物の名前と能力名を叫んだ。

空想日記エンプティー・ライター!」

過程ばかりの量子力学(ラプラス・スキップ)。」

ここで僕はテンポを冗長にするだけと分かっていながらこの能力の更に詳細な効果を述べなければならない。先程僕は、この能力をは僕の過程を誰も認識出来なくなると言った。それに嘘はないが、不足した情報はある。正確には僕を中心とした過程が認識出来なくなるのだ。だからあの時、綴の頭上に雪を落としたときは僕が隔多里に『木を蹴るよう』指示をした。故に彼女は自分が何を何故したのか知らぬまま時が飛ばされた感覚を味わった。勿論これは僕の指示に従ってくれる事が前提となるため、味方を欺く能力だ。しかし一つ例外的な使い方がある。反射を利用するのだ。無意識に反応してしまうようなもの、そう今回で言えば『隔多里が思い出したくもないほど恨んでいる人物の名前』を不意に叫べば、彼女は少なくとも反射的にこちらを向くだろう。だからこれは意味のない能力だ。相手をびっくりさせることしか出来ない(獅海馬児や逢夢の攻撃も一瞬びっくりさせる事で威力を下げてはいたため気休めにはなる)。表に戻るのではなく更に裏側へと逆説の逆説をするならば、今回はその例にも当てはまらないほど超例外的なのだ。メタい話、距離が近づいた分強く弾く能力なのに何故名前は『関係(リレーション)』なのだろうか。僕はこう考えた、彼女の能力は物理学的なものじゃ無くて、もっと精神的なものなのではないかと。彼女に近づくというのは何も物理的じゃなくてもいいのではないだろうかと。いわばこの能力をは万有斥力の蓄積リレーション・テクトニクスは、彼女の有り余る反骨精神の象徴であり、全てを拒む彼女の願望や意志そのものなのではないかと。

だから僕は叫んだ

「御手洗足染!!」

そしてその結果は、未来は先程綴が空想日記を発動しかけた今に成る。

「捕らえた!!!」

近づいた事を一度無かった事にし、斥力(反発心)の蓄積を軽減した綴が、完全に隔多里を抑え込んでいた。語るまでもなくゼロ距離から始まれば彼女に為す術はなく、僕が彼女の過去や深層心理に近づく事で、能力の矛先を突然(さなが)ら知らぬ間にある結果の存在する未来に飛ばされたように切り替えた事で最後の抵抗を防いだ。つまりそう、時を飛ばして、過去を無かったことにして、異能力による人知を超えたスピード勝負をしていたとは思えないほど多くが僕の語りで埋め尽くされた、爽快感もヘッタクレも有りはしない戦いは、僕たちの勝ちで終わった。しかし何とも僕としては釈然としない。何せ彼女の恨んでいる人物を、トラウマを暴いたのは桜走で、その隙を作ったのは整井だ。しかも三人の恐れる人物が同じだったから相手にバレず情報を抜け奇襲が出来たという奇跡付きだ。やはり結局僕には何をすることも許されなかった。


隔多里を一旦眠らせ、僕たちはもう一度拠点にしていたホテルに戻った。既に綴に能力を明かしてしまい、隔多里の能力すらも桜走にバレてしまった以上、僕たちは彼らを放っておくわけには行かない。

というのは全て建前で、照れ隠しで、僕は単純に桜走妄という人物に興味が湧き始めているだけなのかもしれない。兎にも角にも、こうなってしまった以上次の僕たちの目標は御手洗(みたらし)足染(あしぞめ)の討伐だ。

最近魔女の泉rを始めたのですが、無事パイベリーとセラの百合カプ以外を許さないエルフの騎士となりました。


なにげにこの作品では初めてですが、ここでもやります「ちこっと小話のコーナー」

今度の今度こそ長くならない予定なので多分20話も行かずに終えられると思います。例にも漏れず構想は中学時代に考えたもので能力とか人名は高校入ってから決めました。予定が狂わなければいいんですけどね。

さてしも今回のネーミングセンスは中々酷いですね。自覚はあります。特に整井纏割と隔多里甘劇、そして逢夢悠亜。ヒロアカシステム(有名だから名前を使っただけで元祖の作品は知らない)を導入して能力と名前を紐付けているんですが、やはり本職の人にはどうしても負けますね。

整井は説明するにはまだ描写が少ないので割愛しますが、どいつもこいつもフルネームで見れば一見まともなくせして名前だけに注目するととても人の名前とは思えない。

間隙かんげきを名前に使いたくて無理に当て字にしたのもそうだし(音の時点で悪い)、逢夢(I'm)悠亜(you're)とか深夜テンション以外の何物でもない。その点認目綴と桜走妄、御手洗足染は気に入っているほうです。

さくらに走(run)で錯乱っていうくだらない洒落ではあるんですけどね、まだ人名の体を保っている。


余談ですが私は能力の仕組みや弱点を看破して敢えて強いところや条件を利用して勝つ展開が好きです。多分ずっと戦闘はこんな感じになると思います。



というわけで次回予告

次回、「化け物が人間だった日」

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