僕たちの反撃
実質有言実行
とあるホテルの一室、机を囲む人数に僕を除いた2人が困惑しつつも、揃うが否や間髪入れずにとある物をそこに置く。僕がこの計画を建てたきっかけ、昨日落とし穴に落とした桜走のスマホだ。特に画面に何かが映っているわけでもないのに、2人はそれの持ち主に気づいたようだった。口裏を合わせたように2人が同じような事を言う。
「ソレ桜走が持ってたやつだよな?」
「はい、妄君が定期的に手にしていました。でも結局コレが何なのか分からなかったんですよね。」
念のためもう一度念押ししておくが、僕が彼らの前に出したのは何の変哲もないスマホだ。スマートフォンの略称で2009年辺りに普及された。確か僕が生まれた頃には既にそうだった気がする。2人がスマホを知らない貧困な家庭に生まれてきたというのは些か無理があるだろう。綴はアイドルのライブに度々行くことが出来て、整井はモデルガンを収集していたのだ。一般家庭か、普通よりある程度裕福とすら言える。そして僕だけはスマホを正しく認識できている。この事から考えられること…それは
「落ち着いて聞いてほしい事が有る、多分僕たちは元々存在しない人間なんだと思う。」
2人の顔を僕は直視できなかったが、息を呑む音がありありと聞こえた。
「確かに俺たちの存在はなかった事にはなっていた。俺の親は俺のことを忘れていて、羅和の死んだはずの父親は生きていた。でもそれは、俺たちがちゃんと存在していたって証拠じゃないのか!?」
「存在しないものは消せない。僕もそう思います。」
「そうだね、元からないものは消すことができない。僕もそれに異論はないよ。でもあるんだよどっちも成立するような物的証拠がね。有るより居たかな。」
「白雪──のことか…?」
真っ先に答えにたどり着いたのはやはり綴の方だった。それも当然だろう、本来は僕より先に彼が答えにたどり着く筈だったのだから。
「綴は本人から、整井はもしかしたら隔多里から聞いてるんじゃないかな?『白雪れむ』なんて人間は存在しない、もっと言うならそれの正体は蔵見詩亜の『瑕疵』の一つだともね。もう僕が何を言いたいかわかっただろう?僕たちは誰かの『願望』で『欠陥』、能力そのものが僕たちを存在たらしめていたんだ。」
言葉を飲み込むのに数秒かけ、次第に整井の顔が白んでいく。当然僕はその理由を知っている。
「そうだよ整井、隔多里は今彼女の存在自体が消えようとしているんだ。彼女は白雪れむと君に心を許してしまった。反発の能力の隔多里が反発しなくなった。それは縮んで戻らなくなったバネの様なものだ、ただの金属。君だってそれは避けたいだろう?」
「待てよ羅和!それはただの仮説にすぎない、結論を急ぐべきじゃないんじゃないか?」
整井を気遣ったのか、僕に話の主導権を握らせすぎない為か綴はカットインを差し込むように僕の話を
さえぎる。
「君だって知っているはずだよ綴。本人が生まれることになった『願望』と本人に生まれた『思い』に齟齬が生まれて自己矛盾を起こし、能力をまともに使えなくなった人物を、君なら知っている。」
彼が今思い出しているのは他でもない白雪れむだ。自分を一番に愛さなくてはならない『自己愛の瑕疵付き』が恋愛と親愛、二つの愛を他人に捧げてしまい自身の能力で仮死状態に陥ってしまった哀れな少女を。そして僕も知っていた、自分は自分であると言いながら他人の流れに便乗し、自分には何をすることもできないと知っておきながら何かしようと藻掻く、そんな自己矛盾した存在を僕は知っている。
「別に僕は二人を動揺させて楽しんでるわけじゃない。だから本題に入ろうと思う。僕は昨日統率者を落とし穴に落としてきた。」
「は!?」
さっきまでの暗い雰囲気はどこに行ったのか綴は素っ頓狂な声を上げる。穴の使用用途を初めて聞かされた整井は言葉を失っていた。まさかあの時掘らされた穴が人に対する罠だとは思わなかったのだろう。そのくらい原始的なものだった。
「そして統率者の正体は桜走妄だ。」
「「はぁ!?」」
今度は二人の声が揃った。桜走が統率者で、僕が昨日殺してきた。要点だけを絞ったが逆効果だったようだ。今までにないくらい長いシンキングタイムを経由して僕は彼の正体に気づいた理由を列挙する。
桜走だけがスマホを持っていたのに参加者にルールが伝わっていたこと。
交差する心象なら位置情報の交換、殺害人数の把握ができるということ。
現に桜羽の死後、位置情報の公開はされなかった事。
2つ目まででは憶測に過ぎないが、結果僕の推理は正しかった。要約すると、僕はもう後戻り出来ないということだ。
「綴、君には3つの選択肢がある。」
「待てよ!何で俺なんだ?確かにこれまでは俺の目標を中心に動いてきたが、それももう関係ないだろ。」
「整井は勝率の高い方に着く、僕は綴が何を選択しようと僕のやりたいことをする。だから君にだけ選択権が与えられたんだ。当然のことだよ。」
整井は何も言わず綴の方を向く。特に反論はないようだ。
「一つ目、これは誰にも良いことがないし僕としてはオススメしない案だ。『逃げる』だよ。このゲームに時間制限はない、桜走を殺した今これは決して難しい事じゃない。二つ目、これなら隔多里の存在の消滅する可能性はある上一番難しい。『和解』だ。さっきと同様に、時間制限のないこのゲームは誰も殺そうとしなければそれで破綻する。そして3つ目、隔多里の消滅を防ぎ上手くやれば白雪を救う事が出来る、そしてこれも二つ目同様困難になるし、君の志を無視する事になる。『僕たち4人で残った4人を殺す』。」
綴は暫く俯いた。冷静に考えれば3つ目が安牌だろう。実際僕もそうなると思っているしそうなるよう誘導している。しかし綴は直ぐには結論を出せないでいる。
「羅和、3つ目の選択肢で白雪を救えるかもしれないってのは何故だ?」
「君の能力が『特定の過去を自由に無かったことにできる』ようになればその可能性がある。」
「それはないんじゃないか?」
綴は下に向けていた目線を僕の方へ上げた。今までにないほど鋭く僕のことを睨む。
「統率者が死んだなら、能力の進化も起きないんじゃないのか?」
「それは気づいてほしくなかったね。正直僕には分からない。桜走の能力じゃそんな事は出来ないと思っているんだけど、そうなると桜走より上の存在がいる事になる。神様…的な?」
でも決してふざけた話ではないと思っている。桜走が統率者だった以上、桜走に能力を与えた存在がいなければ可怪しな話だ。少し冷静に考えれば上記の内容を思いつき、三番目以外の選択肢はなくなる筈だったが、綴は未だ考え込んでおり10秒くらい追加で黙ってから胸ポケットから一枚の紙を取り出し、僕たちが囲んでいた机の上に置く。
「これは昨日羅和がくれたものだ。『俺たちが元々存在しなかった』なんて知った以上、俺のやる事は決まってる。」
綴が置いたもの、それは手紙だった。宛名と書いた人物の名前、そして可愛らしい丸まった文字で簡潔に書かれた手紙と言うほどに思いの薄そうな唯の言伝。声を文字にしただけのようなものだ。
【認目綴に愛を込めて───3日後白雪れむと再会した場所で会おうね───倉見詩亜】
「俺たち能力者が元は存在しないなら、倉見詩亜はどうなるんだ?お前が出した桜走のスマホって奴には、倉見詩亜が確かに存在していた事を示している。だから俺はどれも選ばない、4つ目の選択肢だ。『倉見詩亜を仲間に入れ、あいつが居た世界への帰り方を見つける。』」
「それは駄目だ。桜走は死ぬ前に生き残りにどこで彼が死んだのか伝えている。桜走のスマホに日記が残されていて、自分が死んだときつながりのある人物にその位置情報を送るように能力を仕組んでいたみたいだ。時期に残った奴らがここに集まる。最後の位置情報の公開のとき、一番遠くにいて、暫く留まっていた人物は遅くても3日後には辿り着く。混戦は避けられないこのチャンスを逃して終幕を後回しにすれば、更に能力が強くなったアイツらと戦わなくちゃならなく成る。」
「タイムリミットがあるって事ですか…認目さん、それでも結論は変わらないんですか?」
整井も流石に焦り代替案を探すことにし始めた。それでも綴は真っすぐ前を見つめたまま変わらない。
「だから協力してくれ羅和、整井。俺が倉見から情報を引き抜く間、残った3人で御手洗、獅海馬児刃渡を足止めしてほしい。」
整井はため息を吐いて僕を見つめる。その表情は何処か諦めているようでもあった。
「どうするですか?僕は仲間が多いほうが生き残りやすそうなので認目さんに付いていきますけど。」
「どうするもこうするもない。僕は僕だ、自分の意思に従う事にするよ。」
そうして僕は部屋を出てとある目的地を目指して歩みだした。
桜走が統率者で、スマホを他のキャラが知らないってのはちゃんと初期設定何ですが、もしかしたら寝ぼけてスマホって書いてるかもしれないです。見逃してください。基本は携帯とかぼかした言い方をしている筈。




