化け物が死んだ日
一話にまとめるつもりでしたが主人公が何度も変わると読みずらいのでこうしました。
俺っちは何者なんだろうか。この能力を自覚した時には既にそれが分からなくなっていた。無意識に他人と自分の一部が入れ替わり、テセウスの船のように桜走妄はいつの間にか『俺っち』になっていた。アイツに協力していたのは単純に生存率が一時的にでも上がると思ったからだ。俺っちは本当の自分ってやつを見つけたかった。しかしこれを喜ぶべきか、アイツを裏切ってから俺っちを桜走妄と呼ぶ人間が増えた。自分が桜走妄である、素直に俺っちはそれを信じれなかった。だから裏切ったのだ。彼らを、仲間だと思っていたから、信じたかったから裏切った。僕は俺っちを裏切った。『桜走妄』になるために。故に今僕は俺に戻ってアイツにまた会いに行ったのだ。当の本人は俺の顔を見てニヤつきながら近くの切り株に腰を落としていた。
「久しぶりだな。ここにまた来たってことは、もう一度手を組みたいって受け取っていいのか?」
「そう答えたらお前は間違いなく俺のことを殺すだろ?そこまで愚かなつもりじゃない。」
「あぁそうだろうな、一度裏切ったやつに情けをかけるタイプじゃあねぇなぁ。」
邪悪な笑みを浮かべ彼はどこからともなくナイフを取り出し、鋭利な先端を俺に向ける。
「相変わらず血の気が多いね。僕は忠告をしに来てあげたんだよ、元共犯者としてね。」
「忠告だぁ?ナマ言ってくれるねぇ、誰かが殺しに来るっていうのかよぉ。」
嫌味たらしいというか、ねっとりしてるというか、嫌に母音を伸ばす聞き心地の悪い声が徐々に語気を強める。以前とまるで変わらない不機嫌のサインだ。それと同時に好奇心の表れでもある。
「君に今死なれては俺が困るんだ。ここに冷やかしには来ないよ。」
「それでまた仲良くしましょってかぁ?反吐が出るなぁ。」
中身のない返答ばかりを繰り返し、どうやら彼は何かを待っているようだった。貧乏ゆすりが激しくなる。これも変わらないイラついた時のサイン…いや、これは確か僕が彼にこっそりと与えたクセだったか。時間をかけると自身の命が危ないと思い、俺は持ってきた手札を彼の前に放り投げる。
「君の能力をばらすことだってできるんだ。そうなれば君が生き残る確率は今の四分の一になる。今までそれをしなかった分俺を信じてもらえないかな?」
「その脅しはもっと早くにするんだったなぁ。時間は十分に経過した、今のこの能力『完全犯罪の心得』を打ち倒せるやつはいねぇ。あの時は第2条までしか無かったが今の完全犯罪の心得は第5条まであるぜぇ?」
さっきから出たり消えたりしているナイフもその能力の一端なのだろう。態々見せつけているのは挑発のつもりらしい。
「俺を煽った所で君が楽しめる展開には成らないと思うんだが、それ以上威嚇するようならすぐにでも撤退する。」
なるべく穏便に済ませたい故の嘘も彼の前には無力に破られ、それを証明するように彼の奇妙な乾いた笑い声がクレッシェンドをつけて木霊する。
「こっちは知ってるんだぜぇ?お前が能力隠してたことも、それがどんなモノなのかもなぁ。」
「そのアリもしない能力ってのを使えば、君は満足してくれるのか?俺に自ら君へ喧嘩を売れってか?」
彼の両手を短刀が行き来する。消えては現れ、マジックのように、見せつけるようにそれを何度も繰り返す。痺れを切らして愚かにも俺は少し血がたぎってしまった。
「それじゃあ期待に応えて、君を裏切ろう。」
「完全犯罪の心得第2条『煙ゆく行く末の成りかわり』」
目の前から彼は蜃気楼のように消え、ナイフが空を切る音も聞こえなくなった。俺は彼の気配を決して逃さぬよう常に能力を発動可能にし、感覚を研ぎ澄ませる。今の所持品で武器らしきものは持ってきていない。不用心と思われるかもしれないが、性格的に彼が相手の武器を利用する能力を身に着けているとも考えていたからだ。現に即死さえしなければ俺から攻撃する必要なんてこれっぽっちも有りはしないのだった。15秒たったかそこらで背中に何かが触れた感触が有った。俺は反射的に能力を発動する。
「交差する心象!」
触れた物体同士の位置を交換し、俺は彼の背後を取ったそのつもりでいた。
「第5条『能ある鷹は爪を隠す』。」
俺の目の前に現れたのはさっきまで彼が手元で弄んでいたナイフであり、当の本人は俺より更に後ろ側にいた。彼はただ直進して歩いてきたのだ。それも背後に手を伸ばしてナイフを刺せるほど近くまで。背中を取られやっと俺は現状の危うさに気づく。これまで散々見てきた彼の能力の恐ろしさを俺は走馬灯のように思い出していた。
「第1条『後ろの正面』。」
かつて認目たちにも伝えたことのある彼の能力の1つ目、背後に目視されることなく触れることで高電圧の電流を流す。正確にはアンペアの数値は触れた時間と面積に依存する。咄嗟にそれらを思い出した俺は急いである場所との位置情報を交換した。以前整井にメッセージを残した場所だ。途切れかける意識の中俺は無我夢中で彼から逃げ出す。それでも位置情報が定期的に開示される今、俺の居場所なんてすぐにでもバレるだろう。しかし今はそんなことに構っていられなかった。
位置情報を入れ替え、俺の目に映ったのは羅和千里だった。突然の事に頭が軽いパニックを起こすが羅和は至極当然の事のように落ち着いていて、俺にとある言葉を呟く。
「悪いけど───────。」
言い終えるやいなや、俺の足元にあったはずの地面は突然細長い穴になり、俺はそこへ沈んだ。底には鋭く切られた竹が何本も刺されていて、まさに獣用の罠だった。当然の事だと思う、俺は皆を裏切って来たのだから俺が何されたって裏切りでも何でもないのだ。俺は誰の味方でもない。ただ正義の味方であり、正しさの味方であり、俺自身は正しくない。ツケが回ってきたのだろう。数日前まで仲間だった人物の手によって俺は絶命した。
マジクソどうでもいい伏線の暴露なんですが、最初の方の殺害人数が奇数なのが主人公サイド、偶数なのが敵側だったりします。(キスと奇数で白雪がちゃんと仲間っていうくだらない駄洒落だったりする)
真面目な話、流石にこの作品くらいは終わらせて3年生になりたいので構想もしっかり固まった今、1週間に1話(3000文字くらい)を投稿できたらなぁって思ってます。
最終話まで残り六話くらい?
次回予告
次回「僕たちの反撃」




