カシを作った日
あとちょっとで終わりそうなのでもう少しこっちが続きます
傷忌月小瑕疵肉は生まれついてから肉が付きにくい体質だった。体が弱く活発でない故に同性に無視され、その不気味な面で異性に嫌われた。彼の瑕疵が、人としての欠落が何だったのかと問われれば、それはきっと上記の内容ではない。彼の最も歪んだモノは端的に言えば性癖だった。無論これは生まれついての性格等の辞書的な意味合いではなく、もっと俗っぽい代物だ。女性に嫌われ続けた少年は、それでも生物学に基づいて異性を好いていた。しかし人には何回か捻くれる時期がある。中学3年生の秋、受験を控えていたストレスと相まって、少年の欲求は依然よりも高まり、その凄惨な過去によって間違った方向に進んだのだ。彼は女性を征服したいと考えるようになった。そしてそれが最も実現に近づくのは、女性を妊娠させる事だとも考えていた。当然それは現実的ではない。ぞんざいに扱われていた少年は女性に対して恐怖心が洗っても取れないほど染み付いていたからだ。そこで少年は別の方法を見つけた。女性の憧れてやまない程の美少年、それを征服する事が自分を無差別に差別してきた愚か者共への最大限の復讐になると考えた。201x年、当時高校二年生だった1男子生徒は、一年生の男子生徒に不同意猥褻を行い、それを記録した映像をネットに流出させた。
3週間後、体重が20台を下回りそうになるほど痩せこけた状態で少年だった者は見つかった。
僕は立ち尽くしていた。何が起きたのかも分からない内に立っているのは僕一人とその原因の二人の人でなし。心配になるほど細かった白雪は虚ろな目で腹を膨らまし、隔多里も同様だった。綴と整井は全身の骨が抜き取られたように自立を保てなくなって地面に伏せている。この状況、恐らく彼らが直接的に僕たちを殺せない今、僕に出来ることは一つしか無かった。綴の代行日記なら白雪と隔多里のどっちかなら救えるのだ、無論綴がどっちを選ぶのかは火を見るより明らかだけれど彼には自分で決断してもらわなければならない。故に僕は未だ弛緩した身体を起こそうとしない綴の肩を揺らす。
「起きろ綴!言っただろ!?君にしか救えない、君が選ばなきゃいけない事なんだ。犠牲を選ぶか、偽正を選ぶか、君じゃなきゃ駄目なんだ!!」
「無理だよ…出来ない。何にも気力が湧かないんだ…」
「早くしろよ綴!このままじゃ桜走の狙い通りだ!」
いくら訴えかけても綴は首を縦にどころか動かそうともしない。やるせなさと、自分の無力さに腹が立つ。懐のピストルに手を伸ばし、一人で瑕疵付き達を殺そうとするも、何故か照準を二人に向けるようとすると身体から力が抜けてしまう。
「無駄だ。吾輩の能力独活乃大木の前には、吾輩に憎悪を抱く愚か者共は無力。」
「それと、お友達を心配してあげたら?多分もうそろそろ目に見えて効果が出るんじゃないかな♡?」
横の女がそう言うや否や、背後から粘度の高い液体がこぼれ落ちる音と、痛々しい咳が聞こえた。案の定振り返ると血を口内から止めどなく溢れさせる整井の姿があった。
「姦染って言うの。人間程度の大きさの生物なら大きめのカップ麺が作れる頃には皆死んじゃうから、暑苦しいやりとりは早めに切り上げた方が良いかもね。」
最早本格的に僕たちの勝機は無くなっていた。より正確には間違いなく誰が一人は死ぬことになる。白雪を助ければ相手の抵抗を許す前に倒せるだろう。あと数時間待ってもらえば隔多里も助けられるかもしれない。しかしそうなった時、整井を助ける方法を見失う。整井を『代行日記』で助ければ白雪と隔多里の症状は悪化し、彼らを攻撃できない僕を戦力に入れられない今、整井一人で彼らを倒すのは難しい。そしてそれは綴を治した所で同じだ。つまり今僕は、整井の後遺症と治療法の実践に使う時間を考慮して、あと一分以内に治す方法を見つけ、白雪を綴に治させ、隔多里には腹を括ってもらう。そしてそれらを二人に邪魔されないようにする。この4つだ。不可能だと悟った、僕に医学の心得は無いし分かった所で道具も薬品もない。せめて脈の強さで彼の力がどのくらい残っているのか知ろうと、素人ながら手に触れた。その時だった。整井の口からしとどに流れ続けていた血流は収まり、脈は次第に安静になった。それと引き換えに僕の喉と肺、言い方に迷うが生殖器を中心とした下腹部に猛烈な熱と化した痒みが襲った。
「おっ!正解だよ。でも次は君が数分で死んじゃうから気をつけてね♡」
パチパチとわざとらしい拍手を女が繰り返す。どうやら感染した人間に触れる事で病状が移るらしい。症状から察するに性病の類だろうが、保健の授業を全て内職で過ごしていた僕には具体的な名前は分からない。行幸というべきか、余計なことをしたというべきか。もしかしたら僕はここで整井を助けるべきではないのかもしれなかった。この病気を人に触れるだけで移せるなら、あいつらに姦染とやらを移して隔多里の万有斥力の蓄積で逃げることもできる。僕が軽率に整井を助けてしまったせいでほんの少し、全員に躊躇いを生ませてしまった。だからと言って綴に決定権のある以上、だれが助かるのかは対して変わらない。運命を変えることができない。それを理解したとき本能的な無力感に襲われ、僕はここから先のことをよく覚えていない。故にこれからの内容は、曖昧な僕の記憶と鮮明な隔多里の記憶に基づくものであることを予め記しておきたい。
腹部の違和感に苛まれ、私は目を覚ました。横にはついさっきまで不貞腐れたような真顔でトランプを遊んでいた知り合いが同じようにしていた。後方に目線をやるとまともに活動できているのは一人のようだったし、最悪なことにそれは今までこれといった活躍のしていなければ、実のところ未だ仲間としてはどこか認められていない羅和だった。立ちす組んでいたのかと思えば、彼は徐にウロウロと動き出し、何か叫んでいるようだったが意識が痛みで朦朧としていて聞き取れない。薄暗い霧の中で羅和の目線は私に最終的に不時着した。言いたいことは何となく分かった。認目に決定権がある以上、私が助けられることはないのだろう。故に羅和は、私に『もう少し我慢してくれ』なんて励ましでもくれていたということだ。原こそ立つが、怒りよりも何処か安心が勝っていた。心の中で白雪が生き残れることを喜んでいたのだ。認目も今すぐにでも死にそうな顔をしているが、内心愛する人だけは守れることを喜んでいるに違いなかったし、羅和は認目が良ければそれでいい筈だ。整井はどうだろか、散々こき使った私がいなくなれば、彼の願い『人と対等になる』ことを叶えるきっかけになれるだろうか。らしくない悲観に耽り、とうとう覚悟を決めて目を瞑る。
手が触れた。薄れゆく意識の中次に私を目覚めさせたのはひやりとした人肌だった。目を開けずともそれが白雪のものだと分かる。瞬間彼女の手よりもいっそう冷たい悪寒が背筋を走った。そいつが私の悲観の原因そのものだったからだ。先刻のテキサスホールデム、何も私たちはくだらない雑談をしていたわけではない。あの時、私と整井を獅海馬児から助けてくれた時、何故檸檬接吻杯を使ったのか。私たちの安全が確保されていたあの状況なら羅和の模倣接続を使えばこっそり近づいて白接吻夢を使うこともできたんじゃないか。私にはそう思えて仕方なかった。だから私はそれを聞いたのだ。返答は至ってシンプルだった。きっと認目すらもその話を聞いていなかったのだろう、そうでなければ白雪に二人をどうにかしてもらおうだなんて考えるはずもない。しかしどうやら現実は非情らしい。光の入りすぎないようにゆっくりと網膜に外の世界を焼き付けた時には白雪は認目のノートに文字を書いていた。
「甘劇ちゃん、ありがとう。初めて女の子の友達ができた。」
クサいくらいの遺言。今から死にますとそう言っているようにしか思えなかった。心なしか今から生き返るための代行日記が遺書のようにも見えた。
「同性からは嫉妬されて、異性からは私の中身なんて見てもらえなかった。それでも私はアイドルだから私だけは私を本気で愛さなきゃいけなかった。」
彼女の言葉が私に現実感と違和感を与え、彼女が日記を記入している間私の手が常に彼女に触れている矛盾に気づかせた。そしてその疑問は瞬時に脳が理解する。白雪は確かに日記を書いていた、『傷忌月にマイナスの感情を抱いた事』をだ。私の手ごとペンを握って。気づけば私の醜く膨らんだ腹部が元の厚みに戻っていた。
「ほんのちょっとの間だけど。私の偽りの人生はあの20年より好きになれた。私は偽物を愛せれた。」
強く私の手が握られる。馬鹿なことにあんなにも人から離れて欲しかったはずの私は思わず叫んでしまった。
「嫌だ!私もやっと──」
反発というのは何も相手を嫌っているから起きるのではない。今回の隔多里の誤算は自分の渇望を、人としての欠陥を誤認していたことと、白雪の能力が矛盾を起こしていたということだ。それも隔多里自身の手によって。白雪に反する隔多里の感情は万有斥力の蓄積の発動条件を満たし、白雪を吹き飛ばす。着地点は傷忌月の目の前だった。
「待て愚か者!わかっているだろう!?今吾輩にそんなことをすれば!!」
「白接吻夢。」
傷忌月の忠告を無視して白雪は彼に口づけをした。倒れたのはキスをした二人だった。
白雪の能力『白接吻夢』はキスをした人物が白雪を一番に愛していなければ仮死状態になるというものだ。キスをした人物というのは当然白雪も含まれる。恋愛において、親愛において彼女は自分以外の相手を見つけてしまったのだ。自己愛の瑕疵付きである彼女が、自身の欠陥を補ってしまった。どっちにしろ蔵見詩亜の瑕疵そのものですらある白雪は、その時点で死んだも同然なのかもしれない。彼らがほかの能力者の位置情報を知れたと同時に、隔多里の意識はそこでこと切れた。
隔多里が意識を失うと同時に傷忌月の術が解けた僕は目を覚ました。認目と隔多里はショックから、整井はさっきのウイルスによってとても戦えるような様子ではなかった。そして僕もあの女の能力にかかってから2分が経とうとしている。いつ肺がやられてまともに動けなくなるかわかったものじゃない。女が白雪と傷忌月に目を取られている間に模倣接続で張りぼてを作り僕は外回りして女と距離を詰める。今まで忘れていたのがもったいないくらい使い勝手の良い能力だが、貼り付けられる空間は一つしかないというのは少し使いにくい。病状が変化していないことに気づかれれば奇襲も失敗に終わってしまうだろう。遂に気づかれることもなく背後に忍び寄ることに成功し、あとは女に触れてそのまま銃で殺すだけだった。しかし女の言葉が引くがねに込めた指先を緩める。
「ありがとうね、白雪れむを救ってくれて。一つ貸しだから。」
すっかり位置情報がばれていることを忘れていた僕に女が柔らかくタッチし、僕の体の中から悪性のものが消えていくのを感じる。そうして一人の犠牲と一人の巻き添えによって僕たちの戦いは一時幕を閉じた。
蔵見詩亜の能力疒、まぁ特別必用もないですけど一応言っておくと性病イメージです。who is ill 的な。もう察しているでしょうけど蔵見詩亜もクラミジアですね。それだけです次はもっと早く出せるようにします。もう少しお付き合いください。




