表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂たちの放浪旅 0 星雲を越えた世界へようこそ  作者: Hs0
第一章 知らない世界
8/24

0-4 放浪旅のはじまり

 上半身だけ起こした千道は、周りを見渡した。どの方角へ顔を向けても、澄んだ海が必ず見えた。ゼントム国は島国で、隣国が無いと言っても良いほど辺鄙な場所に浮かんでいる。

 人口は五百前後、面積は約三千平方キロメートルで大半が平坦な地である。主な町はマキミム――今、千道たちがいる場所――で、この国の首都である。他には、ハワーポル、リベイ・ウット、ディユーなどに住民が集まっている。


 外国人がこの土地へ踏み込む方法は、基本的にはタクシーだけだと美少年は指を差した。その先には、とても小さなモセント駐車場が設置されていた。崖側にあるので、これ以上は開拓されない。

 そこに、灰色のタクシーが二台停まっていた。しばらく眺めていると、その内の一台が崖に向かって走り始めた。墜落するのではなく、宙に浮いたまま走行を続け、そのまま空の果てへ消えた。


「空に道なんてないよね?」

「飛行機みたいに、ルートが決まっているんだよ。この国って貧乏だからさァ、交通機関があれしかねーの。まぁ、一週間もあれば徒歩でも一周できる広さだけど」


 景色だけだと、どこか異国の地という認識で終わる。しかし骨の彼は、地球の存在すら知らなかった。そもそもこの世界には、「に」と「じ」から始まる名前の国が一つもないと付け足された。出身の惑星すら違う二人が意思疎通できるのは、〈言語訳魔法〉のおかげである。

 加えて恐ろしい怪物のせいで、やはり異世界転移したのだと認めざるを得なかった。『もしも転生だったら魔力もあるだろうし、わざわざ魔法に頼らなくとも言葉を交わせただろうに』と、千道はため息をついた。


 誰がどう見ても、絶望的な状況に陥っていた。漂流したその日の内に死にかけ、運良く助けてもらっただけでは意味がない。

 風呂にも入れないし、食事――いつもは適当な野草を拾ってやり過ごしてたが、この国に生えている雑草に害が無いとは言い切れないので――を取ることもできない。このままだと、シニミに殺されるか餓死するかの二択だった。


「君は、どうして俺を助けてくれたんだ?」

「たまたま通りかかったからだよォ」


 骨の彼は肩を回して、腕を高く突き上げながら答えた。騒ぎを聞きつけて様子を見に来たら、シニミが住民を追いかけ回していた。発見してしまった以上放置できなかったので、自主的に助けた。

 怪物を倒したら、本来の目的地に向かおうとした。だが千道が気絶してしまったので、面倒を見ることにしたと、これまでの経緯を教えてもらった。


「ごめん」千道は頭を下げて謝った。「俺のせいで、予定が狂ったよな」

「別に良いよ。アンタ、面白いことを言うから。団長は許してくれるよ」

「団長? 君の職業名は、なんて言うんだ?」

「ソフィスタ。国際世界調査団が正式名称だけど、どっちでも良い」


 当然ながら、千道にとっては初めて聞く職名だった。仕事内容は人助けだと、とても単純で大雑把に言われた。だが先ほどのように、予測不能な出来事にも対応しなければならない。

 調査団と言わたので、彼は『探偵のようなモノか』と推測した。しかし怪物を倒したりもするので、武装警察のような部分もあるように思えた。

 美少年は、自身の職場の本部へ向かおうとしていた。どこにあるのかと聞いたら、この地味な国に似つかわしくない、豪華な建物を指した。


「行き場所が無いなら、来てみる?」骨の彼が提案した。「一般人も普通に入れるし、相談くらいはできるよ」

「聞けば聞くほど親切だな。そんな職業があるなんて、この惑星は平和なんじゃないか?」

「そうかな。手が届いていない場所も多いし、最近はシニミが増えているし。むしろ、アンタの惑星のほうが羨ましいよ。怪物がいないなんて、超良いじゃん。そっちに移住したいくらい」

「あははっ、お互いにないものねだりになっているな」

「そうだね。ほら、行こうよイモくん」


 急に変な渾名で呼ばれたので、千道は戸惑いの声を出しながら自身を指した。骨の彼は笑いながら、アンタ以外に誰がいるのと言い、左手を差し出した。


「誰にも真似できない夢を持ってるんだからさ、この国から歩いてみてよ」


 このまま何もしなければ、千道はまた泣き虫に戻ってしまう。いや、もっと言うとすれば、野垂れ死にしているに違いない。何か一つでも行動を起こしたら、その未来を変えれるかもしれない。

 彼は笑みを浮かべ、美少年と握手をした。もう涙は止まっており、清らかな気持ちに変わっていた。彼にはまだ名乗っていなかったので、自分の名前を伝えた。


 この出会いが、ユーサネイコーを放浪する始まりとなった。どれだけ地球を羨望されても、先ほどの言葉を取り消すつもりはなかった。ここにて、理想郷を見つける。


 つまりこれは、千道が数々の国を放浪し、理想郷を見つけるまでの旅という、とんでもない物語なのである。これから彼が味わう悲惨な冒険の数は、星よりも多い。

 第一章をお読みいただき、ありがとうございます。

 少しでも興味が出たら、ぜひ☆を入れてくださると幸いです。


 よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ