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8.プリエラの一日。

 ◇◇narrator─Manisyu Mani◇◇


 プリエラ様の朝は早い。

 まるで平民の主婦の如く、夜明けと共に活動を開始する。

 私としては、朝はゆっくりと過ごしたいのだけれど、起き抜けからプリエラ様は絶好調。身体を動かしたいと暴れまわるものだから、仕方無しに打込みを開始する。

 先日、庭師のお爺さんに聞いておいた庭の奥の雑木林に行くと、ククリナイフを両手に持って立木に乱撃を開始する。根に足を取られながらも疾走し、嬉々とした表情で左右のククリナイフを木に叩き込む。これが地元だったら、シリウス様やサーシスタ様が立ち合いをするのだけど、私は見ているだけ。なぜって?朝イチから運動なんてしたくないから。こんな人外の猿娘に付き合うなんて無理。

 一通り疲れてきたら、シャワーを浴びて朝食。


 朝食後、午前中は座学をしようと予定を立てるも、ご飯を食べて元気になったプリエラ様は、『エネルギーチャージ』って、訳わからないことを言いながら室内で暴れまくる。

 仕方ないから、午前中は再び外に出て昨日と同じく軽くジョグ。この辺から私も参加。

 すると、今日も昨日に続いて少年エファ様が待っていた。昨日は、ただ目ていただけだったけど、今日は一緒に走りたいみたい。気持ち悪いくらいモジモジしながら『一緒に走っていいですか?』なんて聞いてくるから、『ついて来れるなら』なんて、上から目線で答えると、目を輝かせてついて来た。本当に人の目って輝くんだな……なんて感想を持ちながら、走り始めると、一刻も経つまでもなく、脱落。

 意気揚々とプリエラ様と競うように走っていた筈なのに、ゼーハーゼーハー荒い呼吸をしながら、歩き始めた。

 おい、少年。ダウンするのが早すぎないか?それにジョグだぞ。そんなに速くないぞ。

 横を見ると、プリエラ様が『しょせんT─1』と呟いていた。路傍の小石を見るような目はNGですよ、プリエラ様。


 再びシャワーを浴びて、昼食。

 その後は、本気の走り込み。それも全身を使って、跳ねる、躱す、転がる等の足捌き、体捌きを木々の中で使用しながらの全力疾走。

 森が近いドルミナクで育った私とプリエラ様は、やっぱり森の中だと安心する。全力が出せる。木々の中はホームグラウンド。

 途中、軽い軽食を挟んで、疾走り続ける。

 プリエラ様はニカッと笑って視線で『勝負!』と挑んでくる。

 こんな林の中、猿娘と競争して勝負になるはずがない────勝った…………やったよ……年上の意地を見せたよ………………疲れた……………………。


 疾走るついでに修練場の方を見ると、前当主のマキシ様とエファ少年が剣を合わせていた。

 老いてなお一本の筋が身体の正中に通るような毅然たる様相のマキシ様と、前傾で全身で挑むようなエファ少年。

「おじいさま、剣持ってもT─6か……。エファは、T─3。う~ん」

 プリエラ様が残念そうに呟いている。

 確か、マキシ様が武器無しの素手でT─5だったから、T─5─6。エファ少年が素手でT─1だったから、T─1─3。武器を持った時の伸び率は、エファ少年の方が上か。体が小さいから、武器依存率が高いのかな?

 そうしてみると、シリウス様のT─7─10は、凄いんだな──なんて考えてみる。マキシ様のT─6で残念がるプリエラ様の自己評価は何なんだろうと、以前聞いた事があるけど、『そんなの恥ずかしい』って、ハニカム笑顔でいわれたから、それっきりになっている。

 恥ずかしがるポイントなの?


 プリエラ様は、ちょっと参加したそうにしていたけど、ここは我慢してもらう。

 折角、プリエラ様は、オシャレで可愛いイメージでいっているのに、戦うイメージで上書きするのは、NGな気がする。


「そこで、上に弾いて、前に出した足を刈って…………」

 プリエラ様がブツブツとシュミレートしている。

「あぁ、なんでそこで正面に立つかな…………左脇から後方に回れば、すり抜けざまに横腹に一太刀入れられるのに…………うわっ、また…………あ〜あ」

 少年の立ち回りは、プリエラ様にとって残念なようだ。あわせてマキシ様の立ち回りも残念なよう。


「ねぇ、マニマニ。あれが騎士剣術?なんかさ、儀礼的で隙だらけだね」

「それが、シリウス様が騎士剣術を厭う理由なんでしょうね」

「父さまの戦闘は、合理的だからね」

「はぁ…………」

 あの、鬼神の如き戦いを合理的かどうかは理解不能だけど、戦いに対する基本姿勢が違うのだけは、見ていて分かる。


 たっぷりと走り込んだプリエラ様と私は、本日三回目のシャワーを浴びて、夕食へと向かう。

 何故か饒舌にお肌の事を聞いてくるアリシア様。子供が三人もいるとは思えないプルツヤ肌だと思うんだけど、貴族婦人の美に対する情熱は凄まじい。


 食事の後は、やっとの座学。

 春になったら学校が始まるので、別に今から勉強する必要なんてないんじゃないかな?なんて平民としては思ってしまうのだけど、貴族の世界は違うみたい。

 朝イチから走り続けたプリエラ様、流石にこれ以上暴れようとは思っていないようで、ちゃんと椅子に座っている。ただ、こんなに一日中身体を使い続けたら眠くなって、勉強にならないと考えるが、そうではないらしい。意外と真面目に勉強をする。地元での教育の賜物なんだろうけど、成績も悪くない。まあ、アルファディオに特別授業をしてもらっていた私には適わないけどね。


 座学の後は、湯浴みをして、マッサージとお肌ケアの時間。

 ここでも、プリエラ様は勝負を仕掛けてくる。

 どちらのマッサージが気持ち良いか?

 先攻は私。

 一日日光にさらされたお肌を、アルファディオ特製化粧水で癒して乳液でカバーする。その際に、揉み、軽く叩く。ゆっくりと、小刻みに、優しく、肌と筋肉を労るように──。

「ふ〜。あら、寝ちゃいましたね」

 今日も不戦勝。

 私は、自分用の化粧水と乳液でケアすると、ベッドに潜り込んだ。


 これが、プリエラ様の一日。

 

ありがとうございます。

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