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18/22

18.リサには、マニマニが理解できません。

 ◇◇narrator─Lisa◇◇


 Aランク冒険者のマニシュマニお姉さまが間に入り、試合は引き分けと裁定された。

 そこに異論を挟む者はいない。

 でも、試合内容で見てみると、明らかにトニーさんの劣勢だった。と、言うよりも、プリエラが強すぎたのだ。無数に放たれるスローイングナイフ。手から離したと思った瞬間に現れるククリナイフ。まるで一流のマジックショーを観ているようだった。その上、修練場を所狭しと駆け巡る運動量と、残像すら置き去りにする程のスピード。見る者の視線はおろか、呼吸すらも奪っていった。

 横から後ろから、忘れられていた呼吸が感嘆の吐息となって聞こえる。

 気が付けば、三十を超えるギャラリーがいた。

 受付カウンターから後方職員、素材回収カウンター、素材解体場職員まで、おそらくギルドは無人となってるだろう。冒険者の人達もここに居るんだから、無人でも問題ないといえば問題ないのかもしれない。

 ザワザワと各人が評論を始めだした頃、私は観覧席から修練場内に下りて行った。

 少しでも早く、あの少女の近くに行きたかった。

 胸を熱くする感動のまま、あの強く格好良い少女の間近に行きたかったのだ。


「プリエラちゃん強いんだね」

 口から出たのは、自分で思っていた以上に幼稚なセリフ。

 だって、目に涙を溜めて、一本一本スローイングナイフを拾っては、拭きながらドレスの中に仕舞っているんですもの。格好良いセリフなんて飛んでしまいますよ。

 あっ、気が付けば、プリエラちゃんって言ってしまった。

 まだ、『プリエラ様』か、『プリエラちゃん』かどっちで呼ぼうか決めていないのに。

 でも良いの!プリエラちゃんで!言っちゃったし!


 返事はなかったけど、楚々としてプリエラちゃんのお手伝いを始める。

 スローイングナイフを拾う。

 軽!

 スローイングナイフは、軽かった。確かに、金属特有の重量感はあるが、見た目よりも遥かに軽い。

 若干先の方が重い、透けるような薄さの金属板。

 よくこんなの投げるな〜って、想いながらも拾っていくと、プリエラちゃんが可愛い声で、「ありがとう、お姉ちゃん」って。

 『お姉ちゃん』お姉ちゃんだよ。『お姉ちゃん』

 あ〜、死ぬの?

 死んじゃうの私?

 あの可愛い口から紡ぎ出された『お姉ちゃん』。

 尊い!尊過ぎるのよ!


 それにしても、マニシュマニ様もナイフ拾いを手伝ってあげたら良いのにと、視線を向ける。

 スコットさんがいつの間にか下りてきて、話をしていた。

 そういえば、スコットさんはマニシュマニ様と試合たいって、言ってたっけ。

 周りには、程良い距離にギャラリーが集まっている。


「あ〜、勝負にならないよ」

 私からスローイングナイフを受け取りながらプリエラちゃんが呟いた。

「えっ?」

「って言うよりも、試合そのものにならないかな」

 どういう事?

 言葉にするのも忘れて、ついプリエラちゃんを見つめてしまう。

 あっ、目が大きい。

 キレイな瞳。

 お鼻もちっちゃいし、本当にお人形みたい…………。

「マニマニはね、強いとか、そういう次元じゃないんだよね」

 私は、その言葉の意味が分からなかった。



 試合をする事が決まったのか、プリエラちゃんとトニーさんに代わって、マニシュマニさんとスコットさんが修練場の中央に立つ。

 背丈程の、槍にしては短めの槍、短槍を構えるスコットさんに対して、無手で立つマニシュマニさん。その姿に、微かの緊張すら見られない。


「さあ!」

 スコットさんの気合いの籠もった声で立ち合いが開始される。

 先程までのヘラヘラとした人好きのする顔から、奥歯を噛み締めた戦う者の顔に変貌したスコットさん。

 マニシュマニさんは、ちょっと面倒くさそうな表情で一歩踏み出す。


 穂先を揺らしながら出方を伺うスコットさんの横を、そのまま通り過ぎていくマニシュマニさん。

 そのまま通り過ぎていく?

 まるで何もなかったかのように、歩いてくるマニシュマニさん。

 そして、足元に落ちていたプリエラちゃんのスローイングナイフを拾うと、一言。

「プリエラ様、そろそろお昼にいたしませんか?」

 え〜〜〜!


 皆の視線がスコットさんに集中する。

 そこには、槍ごと金色のリングに手を拘束されたスコットさんがいた。首にも金色のリング。明らかに首を絞めている。


「そうですね。私は海老などを食したいと思うのですが、王都は内陸ですし、そんなお店はありますかね?」

 そう言いながら右手を軽く振ると、後ろでスコットさんが足もリングで拘束されて、倒れ込んだ。その姿は、まるで大きな海老のよう。

 スコットさん本人も、何が起こったのか分からないようで……。えっえっえっと声を洩らしながら、ビチビチと海老のように飛び跳ねている。


「ねっ、言ったでしょ」

「…………」

 プリエラちゃんの言葉に、答える事もできずにいると、プリエラちゃんは言葉を続ける。


「試合そのものにならなかったでしょ。マニマニはね、面倒くさがりなんだよね。ちゃんと練習がしたいと言わないと、あんな感じで終わらしちゃうんだよ」


 いやいや、面倒くさがりとかってレベルじゃないです。

 スコットさんも、Cランクですよ。うちの冒険者ギルドの中では、トップクラスの実力者。それを面倒くさいって…………。


 ギャラリー達からも言葉が出ない。

 皆、スコットを拘束する金色のリングが魔道具だろうとは思ったが、いつ魔道具を起動したのかも、どのように拘束したのかも分からないようだ。


「マニマニ、首のリング、外して上げなくて良いの?」


 プリエラの声にハッとして、皆がスコットを凝視すると、真っ青な顔で泡を吹いているスコットが見えた。


「ビクビクしてるよ。死んじゃうよ」

「でも、プリエラ様、死合ですから、死んでも仕方ないかと思いますが?」


「「「「「「えー!」」」」」」

 ギャラリーの声が揃った。

 いや〜、こんなにも皆の心が一つになる事なんてあるんですね…………。私も声を揃えた一人として、遠い目で突っ込んだ。

 『死合』って何ですか?

 『試合』です。『立ち合い』、『模擬戦』、こんな所で命のやりとりをしないでください!


 渋々と金色のリングの魔道具を解除するマニシュマニ様。


 スコットさんの首には、青黒い索状痕が付いていた。


 いや、もう、死ぬ手前ですがな。

 






 


申し訳ありません。

ちょっと投稿ペースが落ちてしまいます。

頑張ってきたのですが、モチベーションが…………無くなってきてます。


皆様、出来ましたら作者のモチベーションが上昇するよう、ポイントをいただけましたら──幸いです。


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