17.マニマニはダメ出しがしたいのです。
◇◇narrator─Manisyu Mani◇◇
「ねぇ、ねぇ、マニマニ。冒険者の人って面白いね」
興奮した面持ちでプリエラ様が言ってきた。
どこが面白いのか分からないので、放っておくと、プリエラ様は言葉を続ける。私の返事を期待していないみたいだ。
「みんなね、見た目以上の強さを持ってる気がするの。これから戦うトニーさんもね、T─4なんだけどね、絶対に数字以上の何かがあるハズなんだよね。面白いと思うんだ」
興奮すると語尾に〝ね〟が増えるのは、プリエラ様の昔からの癖。それだけ、楽しみにしているのだろう。
それにしても、見た目以上の強さって何だろう?
いつも〝T─◯〟って、強さを測っている基準が理解できない。と、言うよりも、相手の強さに興味がない。実際、私が戦うのはプリエラ様との訓練時くらい。それ以外は、戦いの前に無力化するのが常。
戦う事が楽しいなんて──戦闘狂よね、この小さい姫様は。
試合の審判は私がする事になった。
トニーさんが、頻りに本当に戦ってもいいのか?と心配そうに聞いてくるが大丈夫と返事。あんなに興奮した猿娘を満足させるには、目一杯本気でいってもらわなければダメ。なんなら、心を折るくらいでも大丈夫。まぁ、無理でしょうね、プリエラ様は猿だから。
予想外に集まってしまったギャラリーを背に試合開始。
試合開始早々、プリエラ様が袖口からスローイングナイフを取り出し、一投。先ずは挨拶。
「おじちゃん、真面目にやらないと──死ぬよ」
う〜ん、年上に対する口の聞き方を教えておくべきだったでしょうか?でも、プリエラ様は貴族だから良いのかな?
今度は、ジャンプして上空から沢山のナイフ投げ。
手先が器用と言いますか、服からナイフを取り出すところを見せない点については及第点。
でも、跳びすぎですね。
スローイングナイフと一緒に本人が斬り込んでいくか、自ら投げたナイフを弾いて軌道を変えるなどの手を使えば、早く決着が着くのに。興奮しすぎて、跳びすぎましたね。
それにしても、トニー様は、面白い戦い方をなさいます。妙に肉厚で幅広の大剣をお持ちですから、どのように取り回すのか疑問でしたけど──あれは盾ですね。
武器の巨大さから好戦的なイメージを持たせておいて、実に堅実な防御をなさる。防具としては、胸当てと、腕当て、脛当てくらいの軽装なので、一気に走り込んで上段から斬り掛かるのかと思ったら、違うようです。プリエラ様も、そう思って飛び道具で牽制しながらの戦いにもっていったようですけど……。
器用に腕当てを、大剣の剣身に当てて角度を調整。腕当ての小指側の面が擦り減っている筈です。実に手慣れた感じで捌かれますね。
振り上げる時には、靴と脛当てで蹴り上げる。剣技というよりも体術に近い戦闘スタイル。
確かに面白い。
大道芸としては、一流ですね。
でも、大丈夫ですか?トニーさん。プリエラ様は、武器を放出する度に軽くなっていきますよ。その上、スタミナは無尽蔵ですしね。よく耐えているとは思うのですが、もう一手、何かが欲しいところ。
「ふぅ。おじちゃん、強いね」
プリエラ様、決着をつける気ですね。
「お前もな」
「軽くなってきたし、いくよ!」
「おう!」
何故か清々しい感じになってる二人。
友情が生まれてきてます?ひょっとして…………これが、拳を交わして友情が芽生えるというやつですか?
プリエラ様が残像で三人に見える。
凄い。凄いですね。分身の術ですか。
でも、増える必要あります?相手から見えなかったら良いんですから、単純に消えた方が効率的ではありませんか?
まぁ、いいです。
どちらにしても、トニーさんには対応できないでしょうから────と、読んでいる?
慌てて〝アルくんの愛情リング〟で小さな盾を二つ創り、二人の攻撃を止めた。
トニーさんがプリエラ様のククリナイフを見つめている。
やっぱり読まれたか…………。
「良い戦いでした」
拍手の中、二人に近寄り総評を言う。
「差し出がましい事ですが、トニー様は、大剣を盾のように使用する戦闘スタイルは、意表を突いて良かったと思います。ただ、ネタバレしてしまえば、次回から容易く対策を取られてしまうのでは?ネタバレしてからも対応できる練度が必要かと……。それには、大剣に形状の変化を求めるか、サブウェポンを持つのも手かと思いますよ。体術の素養があるでしょうし、大剣で隠しながら使用するのであれば、ダガーかカタールが宜しいかと」
戦いの興奮も何処へやら、急に始まったダメ出しに、トニーは神妙な面持ちで聞いている。
「それで、問題はプリエラ様です。戦う事を楽しみすぎて、戦術というものを考えていませんでしたね。何本も見せてしまったククリナイフ。締めの段階での攻撃を突きだと読まれていたのではないですか?」
トニーさんの方を見ると、トニーさんはバツが悪そうに話す。
「ああ、ククリナイフの特徴として、曲がった刀身がある。あれの厄介な所は、正面から突かれた場合、曲がってるせいで距離感が分かりづらいというのがある。戦いの最中、ずっと薙いできてたから、最後は突きがくると思って…………」
「はい、その通り、相手に容易に気取られてしまっています。ですから、短刀も何種類か準備すべきでしたね」
「でも…………、ククリ可愛いし…………」
「武器に愛着があるというのは良いことですが、場合によります。これが、試合ではなく、本当の戦いだったらどうですか?体が大きいトニーさんは怪我で済むかもしれませんが、体の小さいプリエラ様だと、戦闘不能に陥っていたかもしれませんね」
「でも…………」
不満そうに呟くプリエラ様に、嘆息しながらも、言葉を続けようとする。
それを遮って、言葉を続ける。
「ハァ、まあいいでしょう。それよりも、後片付け大変ですよ。あんなにナイフを放出してしまって…………手伝いませんからね」
「マニマニ〜〜〜」
「手伝いません!」
「グスッ」
トボトボと、自分が撒き散らしたナイフを集め始める。
「ちゃんと磨いてからしまうんですよ」
「はい…………」
プリエラ様の着る〝MARUK〟のバイドルデザインズ。そのオリジナルは、デザイナーのサーシスタ様が、プリエラ様の為に創った服。元々は、プリエラ様の戦闘用の衣装。カットされた肩口、肘は腕の動きを阻害しない為だし、膝上で広がるスカートも動きの邪魔にならない為。服の各所にデザインされた切れ込み、ヒラヒラとしたフレアは、隠した武器を取り出しやすくする為。本来は、武器を収納するサポーターとインナーがセットになっている。
そして、店頭で販売されている物は、そのサポーターとインナーを付属していない、見た目だけの部分である。
泣きながらスローイングナイフを拾うプリエラ様を後ろに、私はギャラリーの皆さんの方を向いた。




