16.トニーさんは、防戦一方?
◇◇narrator─Tony◇◇
何故こうなった?
俺は、スコットと二人で、片道二日かけてクリド村のエイプ退治に行ってきた。
依頼完了の報告に来た冒険者ギルドで、三人の場違いな男女に合った。男一人と女二人。
男は女たちの護衛らしく、どこぞの貴族の紋が付いたサーコートを纏っている。こちらは問題ない。
問題なのは、女の方。
一人は、二十歳前くらいのメイド服を着てる、目が覚めるような美人。何故かAランク冒険者という。三十前の俺が(真面目にやってきて)まだCランクなんだから、その異常さは分かるだろう。いや、本当に居たんだAランク冒険者なんて……。
そして、もう一人は、九歳になったばっかりのプリエラという女の子。整った顔立ちだけど、あどけなさが全面に出てるお嬢ちゃん。
その女の子が俺の目の前で、戦う気満々の様相。
冒険者ギルドの裏手にある修練場。
いつもは若手の冒険者達が剣を振っているこの場所で、俺はプリエラと対峙。
暇を持て余していた仲間達から、いつもカウンターに居るはずの受付嬢達、副ギルド長、他職員、俺が狩ってきたボアの解体で忙しいはずの解体屋まで観に来ている。
初めは、スコットがAランクだというメイド──マニシュマニと言う名前のはず──と戦わせてくれと懇願していたのに、何故か俺がこのお嬢ちゃんと戦う流れになってしまっていた。
ここまでギャラリーが増えてしまっては、どうしようもない。愛用の大剣を構えた。
「危なくなったら止めますので、安心して下さい」
マニシュマニが審判をするらしい。
「なあ、俺、素手でいこうか?」
「大丈夫です」
マニシュマニが答える。
「せめて木剣にしたほうが……」
「大丈夫です」
マニシュマニは答えるが、本当に大丈夫なのか?
目の前のお嬢ちゃんは、ドレスのままピョンピョンと飛び跳ね、ウォームアップをしている。
「あの子、武器を持っていないみたいなんだけど……」
「大丈夫です」
大丈夫ですしか言わないのかよ。俺はもう知らねぇぞ。
「兄貴〜ファイト!」
「兄貴〜殺っちまえ!」
「トニー、プリエラちゃんに怪我させたら承知しないよ!」
「プリエラちゃん、ガンバ!」
「トニー、負けっちまえ!」
応援だか罵倒だかが飛び交う中、構える大剣を絞り込む。
五歩分程離れた所に立つプリエラというお嬢ちゃん。
フワフワと広がったスカートの女の子。
「ファイト!」
マニシュマニは、ちょっと笑って、試合開始を告げた。
開始直後、プリエラの身体がブレる。
ハッとした瞬間、目の前に現れたスローイングナイフ。
慌てて剣で払い落とす。
ギャラリーから漏れる、感嘆の声。
暗器か……。
お嬢ちゃんにしては、なかなかのスピードだな。
ちょっと真面目にやるか──俺がそう思った時、プリエラが声をかけてきた。
「おじちゃん、真面目にやらないと──死ぬよ」
獰猛な野獣の瞳。
見た目は何も変わってない。
でも、そこには獲物を狩る獰猛な野獣がいた。
プリエラが左右の手を振る。
再びナイフが飛んでくる。
二本のナイフに目を取られた瞬間、目の前にいたはずのプリエラの姿が無い。
上か!
ナイフを躱しながら見上げると、斜め上から雨のように降り注ぐナイフ。
右に大きく躱す。
いったいどこに隠してたんだよ、こんな本数のナイフ。
魔術や魔道具を使っている気配は無い。
い────
ガインッ!
ガキッ!
急に目の前に現れたプリエラが低い姿勢から跳び上がるように首を薙いでくるのを剣で防ぐ。
ちっ、考える間も与えてくれねぇのかよ。
でも、剣にかなりの衝撃があったから、少しは動きが止まるか──と、捨てやがった。
プリエラは、衝撃により手が痺れる前に武器から手を離していた。
クッ、一々両手の二刀できやがる。
プリエラは、基本的に二刀流だ。体重がない為、どうしても攻撃が軽くなってしまうという弱点を手数でカバーするのが元々の理由であったが、今では二刀の重量を利用した振り、遠心力で重い攻撃を行うという域にまで至っている。
「ちっ、ククリか。レアな武器を」
プリエラが捨てた武器を見て、つい言葉が溢れた。
ククリナイフ──〝く〟の字に曲がった刀身が特徴的な短刀である。
カッ!
右後方から振るわれたククリナイフを腕当てで弾く。
本当に何本持ってんだよ。
ギャラリー達は、想像と全く異っている戦いに、歓声も忘れて見入っていた。
「いったい……どんな運動量だよ…………」
「それに速い…………」
「…………私の目では追えません」
「何者なんだ…………あの娘は…………」
「あっ、またスローイングナイフ!」
「何本持ってんだよ」
「魔道具か?」
「……違う…………と、思う…………」
「っていうか、あの武器、変な形してるな」
「ククリだよ。ククリナイフ」
「この辺じゃ見ない短刀だな」
「って、また剣を捨てたぞ」
地面には多数のスローイングナイフと、四本のククリナイフが転がっている。
「ふぅ。おじちゃん、強いね」
「お前もな」
「軽くなってきたし、いくよ!」
「おう!」
軽い言葉を交わし、ギアをトップに入れる。
って、既に全力全開なんですけど!
軽くなってきたって言ってた?って、それ、物理的な意味ですか?
そりゃあ、これだけの刃物を放出したら軽くなるでしょ──っと、速い!
今までで一番のスピードで、駆けてくる。
身体が左右にブレ、残像が三人のプリエラの姿を作り出す。
こりゃあ、ヤマをはるしかないな。
と言っても、奴が持ってるのは、ククリだから──ここだ!
ガインンンン…………
喉を狙ってきたククリナイフによる突きを、右手一本で持った大剣で防ぎ、握りしめた左拳をガラ空きの顔面に叩き込む。
プリエラの左右時間差で放たれた攻撃。左の突きの後に薙いでくる右のククリナイフ。
──は、届かなかった。
俺の拳とプリエラのククリナイフは、白銀に輝く円板により攻撃を止められている。
「相討ちですね」
マニシュマニの言葉が試合の終了を告げた。




