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14.リサの日常は、壊れ続けています。

 ◇◇narrator─Lisa◇◇


 カウンターに置かれた肉串の串を、三番倉庫の鼠よりも速く処理すると、自分にできうる最大の笑顔で言う。

「いらっしゃいませ。本日は、どのようなご要件にごじゃりましょうしゃ」

 噛んだ!

 噛んだかどうか分からないくらい、盛大に噛んだ!


 ── クスッ

 笑った!

 メイド様が微笑んでくれた!

 噛んだ私、グッジョブ!

 ああ、その微笑みも尊い。

 あっ、ダメ。ちゃんと仕事しなきゃ。

 気がついたらメイドに対して〝様〟付けになっている自分に気付かず、再度、いつものセリフを言い直す。


「申し訳ございません。本日は、どのようなご要件でしょうか?」

「冒険者の登録をお願いできますか」


 うっわ、落ち着いた声。見た目通りだわ、想像通りの声。声だけでも癒やされる。

 ダメよ、リサ。仕事、仕事なんだから。ちゃんとしなきゃ。

「あの、メイド様が登録されるのですか?」


「わ・た・し・です」

 頬に溜め込んでいた肉を呑み込んだ、女の子が精一杯に無い胸を張りながら、メイド様に代わって喋った。


「お嬢さまが……ですか?」

「そう、私です。九歳になったら登録できると聞いたんですけど──ダメですか」

 『ダメですか』のところで首をちょこんと斜めに傾ける仕草。あざとい!あざといと分かっていても可愛い。女の私が見ても可愛すぎる。持って帰って、部屋に飾りたい。


「あっ、だ、大丈夫ですよ。えっと、あ、私、冒険者ギルドウォウグレイブ支店カウンター担当リサが承ります。この用紙に必要事項を記入をお願いします?あっ、カウンターが高過ぎて書きにくいようでしたら、代筆もいたしますし、あちらの──」

 あちらの待合いで記入されてもと、言おうとしたところで言葉を止める。チラと待合いを見たら、薄汚い冒険者達が興味津々な面持ちでこちらを見ている。ダメ、あそこに行かせられない。それに……うわっ、ゴブ狩りエイトとイケメン護衛さんは、さっきの場所で呆然と固まったままだ。


「プリエラ様」

「は~い」

 メイド様とプリエラ様と呼ばれたお人形さんが二言言葉を交わした後、トントンと台を登るような動きで、プリエラがカウンターに肘をすけれる高さまで上がり、用紙に記入を始めた。

 カウンター前に踏み台なんてあったかな?

 ちょうどカウンターの陰になって、こちらからは見えない。ただちょっと、こちらを注意深く覗っていた待合いの方からどよめきが聞こえるのが気になる。


「おいおい、何だありゃ?」

「銀の円板が現れたぞ!」

「魔道具か?」

 マニマニが魔道具である〝アルくんの愛情リング〟という銀色のリングから発現させた銀の盾を階段にして登っただけなのだが、知らない人にとっては仰天の技だろう。

 当然、リサには見えていないから、ビックリのしようもない。


 プリエラ様、プリエラちゃん、お人形さま、どの呼び名で呼ぼうかと考えている間に、どんどん用紙に記入が成されていく。字は幼さが残るものの、とても丁寧で、キチンとした教育を受けているものと理解できる。

 やっぱり、貴族さまの縁者さんなのかしら?

 アリアドル家にいらっしゃるなら、噂くらいは流れてるでしょうし…………。


「書けました」

「えっあっはい、それでは、簡単に説明させていただきますね」

「お願いします」

 やっぱ、可愛いわ〜。

「はい。冒険者は、その貢献度、能力、強さによりAからFランクに分けられています。貢献度は、クエストとも言われる依頼をこなしていただき、ポイントを貯める事により評価されます。当然、依頼にもランク分けがなされており、ご自身のランクの依頼までしか受けることはできません。これは、討伐等の依頼もある為、自身の能力以上の依頼を受け、怪我をしたり、最悪、死んでしまうような事態を防ぐ為の措置と理解してください。ここまでは宜しいですか?」

「はい!」

 ん〜〜、いい返事。

「エホンッ。続けます。今回、冒険者登録をしていただきましたが、これは冒険者として最低ランクのFランクを証明するものではなく、〝仮登録証〟です。ギルドで行っている実技教育を受け、王都内で雑務と呼ばれる簡単な依頼を何点か受けた後に、実技試験を合格すると、Fランクとなります。だいたい、この期間が半年から一年かかるのが通常です。そして、Fランクからが正式な冒険者となるわけです」


「確か、例外がありましたよね?」

 メイド様が問われました。

「はい。冒険者ランクにして、Bランク以上の人が推薦する場合、〝仮登録証〟の扱いではなく、Fランクからのスタートとなりますね。ただ、Bランクの冒険者というのは、王都でも人数が少なく、更に推薦をもらうとなると、難しいでしょう」


 メイド様が首元の第一ボタンを外し、首に掛けられた白銀の鎖に指を掛けられました。

 さ、鎖骨が〜!

 はぁ、美人さんは鎖骨も美人さんだ〜〜。ほっそりとした首、そして鎖骨。もう死ぬの?私、もう死んでしまうの?

 なんて、ヤバ気な妄想をしている間に、鎖は全貌を顕にし、そこに取り付けられたタグ。

 タグ?

 白銀に輝くプラチナタグ。


「私、Aランクなので」


「「「「「エーーーーーー!」」」」」

 大合唱!

 待合いの冒険者達、こちらをチラチラと伺っていた先輩受付嬢、その奥で耳をそばだてていた事務員まで、揃っての大合唱!


 他人の声か、自分の声か分からない大声に耳がキーンとなりながらも、タグを凝視する。

 ギルド職員教育のテキストでしか見た事のなかった、白銀のAランクタグ。お預かりして、専用魔道具で確認してみたら、紛うことなき本物。『〝悪魔に愛されし者〟魔道具使いマニシュマニ』と表示された。 

 うっわ〜、本物だ〜。

 二つ名が表示されてるよ。Aランクは二つ名が付くって本当だったんだ…………。


 奥から副ギルド長が走ってくる。

「こ、これはこれは、Aランク様、よくおいで下さいました」

 誰かが伝えたんだろう。でも、副ギルド長がこんなに慌てるなんて、やっぱりAランクは凄いんだ〜。

 もう、感動しすぎて頭がついて行けません。

 副ギルド長は、タグの確認用魔道具に表示されている名前を見て、額に汗。

 どんどん流れてくる汗。

 人って、こんな一瞬でこんなに汗かけるんだ…………。

「あ、悪魔に愛されし者……魔道具使い……マニシュマニ…………!えっ、あの……最年少Aランク冒険者の?」


「「「「「エーーーーーー!」」」」」

 本日、二度目の大合唱。


 あ〜。汗だく副ギルド長はキモいけど、微かに照れてるようなメイド様は麗しいわ〜。

 眼福、眼福、感謝、感謝。


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