1.王都は大騒ぎ
遅筆なのですが、せめて1日1話の投稿ができたらと思いながら、連載を始めてみました。
気楽に読んでいただけたら幸いです。
◇◇narratorーpeoples of Ariadoll◇◇
王都にあるアリアドル邸。
代々騎士を輩出するこの館は、数日前からソワソワとした空気に包まれていた。
トトトンと、急くようなノックが響き、扉が開かれる。
「旦那様!」
執事長のオーシが、室内にいる頑強そうな初老を迎える男に声をかけた。
「どうした、来たか!」
男の名は、マキシ・R・アリアドル。アリアドル家の前当主であり、現役は退いたものの第二騎士団の顧問を務める強者である。
オーシはフルフルと首を振ると、窓の外を促した。
「ん?──ドゥワア!」
事は、数週間前に届いた手紙から始まる。
送り主は、辺境の領ドルミナクにいるマキシの三男シリウスから。内容はシリウスの娘についてである。
基本的に、王国に住む九歳になる子供は騎士学園に通い始める事になっている。各領にも騎士学校があるが、貴族に類する子女は、王都にあるブレイブ騎士学園が通例だ。当然、王都より遠いドルミナク領に住むシリウスの娘も来期よりブレイブ騎士学園に通うことになる。
当初、シリウスは寮に入れる予定にしていたが、念の為と、王都ある本家に困った事があったら手助けしてやってくれと手紙を出したところ、孫と暮らしたいマキシの要望もあって、王都のアリアドル家に厄介となる事が決まったのだ。
ちなみに騎士学校、騎士学園は、名称にこそ騎士が付いているが、騎士を育成する為だけの学校ではなく、初等部に関しては、読み書きと四則演算、一般教養を学ぶ。
中等部は、騎士剣術、基礎魔法学、薬草学、簿記、外語学等の専門学。
高等部は、領地運営、戦術、魔法、錬金、魔道具研究などの専門分野の研究の場となる。
一般的な平民は初等部のみ。貴族及び一部の裕福な平民が中等部まで。高位貴族、継ぐべき領地を持つ貴族、そして特別に才が認められた者が高等部まで進み、その後、領に帰るか、王城内の各研究所へと籍を移す。
シリウスはマキシの三男であり、既にドルミナク領にて貴族席を持つ。シリウスの娘はマキシにとって孫。まだ産まれて間もない言葉も喋れない頃に会った事があるのだけれど、それも既に八年前。久方ぶりの孫の到来に浮かれていたのだ。
◇
始めにそれを見たのは、庭師見習いのリコ。
「じいちゃん、あれなんじゃ〜?」
孫に聞かれた庭師のトラルド爺は、手に持った鋏をしまいながら、空を見上げた。
「リコよ、仕事中は師匠と言うんじゃぞ。──と、あっ、なんじゃ〜!」
「じいちゃん、死ぬ?うちら死んじゃうの?」
「大丈夫じゃ。大丈夫じゃよ。マキシ様も居られる」
「とりあえず、オーシ様に伝えてきます〜」
「頼んだぞ~」
◇
「ねぇねぇウァス、あれ何?」
「どうしたの〜ウェス?」
「このバカ姉妹、何してんの!働きな!」
「ヒリス、ヒリス、上、上見て!」
「んっ?──うわっ!」
「「天に在します我らが主よ…………」」
「ウァス、ウェス、祈らない!世紀末じゃないから!」
メイド姿の三人娘が天を見上げて騒いでいるところに、大柄の女性が現れる。
「どうした〜。三馬鹿メイド」
「ホラック姐さん。上です〜。裁きの時が訪れたんです〜」
前掛けで手を拭きながら歩いてくるホラックに、ウァスが目を潤ませて言った。
「さぁ、ホラック姐さんも一緒に」
「「「天に居します我らが主よ──」」」
「祈らない〜!世紀末じゃないから!ホラック姐さんまで何してるの!」
ヒリスの突っ込みが響いた。
ウァス、ウェスとヒリスはアリアドル家のメイド。
ウァスとウェスは姉妹で、ウァスが一才上。何故かウェスより二才下のヒリスが纏め役を担っている。
ホラックは、それより少し上の骨太で頑丈そうな女性で、料理長をしているバラックの妻。まだまだ新婚さん。
◇
マキシ、オーシ、トラルド爺、リコ、ウァス、ウェス、ヒリス、そしてホラックが庭に集まり上空を眺めている所に、大きな腹を揺らして巨漢の料理長バラックがやって来る。
「みんな、こんなとこに集まって、何してるんです?」
皆が一斉に上を指差す。
「えっ、ドラゴン?」
「いや、前脚がないからワイバーンだろう」
バラックの声にマキシが訂正をいれる。
基本的にドラゴンは、竜種と龍種があるが、共に四本脚。二本脚で前脚が翼となっているモノは、亜竜種と区別されている。
「でも、なんで王都にワイバーンが?」
バラックの呟きの通り、館の上を亜竜種が翼をはためかせてゆっくりと回っている。
「「裁きの時です!天に在ります我らが主よ…………」」
「だから、祈るな!ウァスウェス」
「じいちゃん、やっぱり死ぬの?」
「マキシ様、館の外にも人が集まってまいりました」
「オーシ、あのワイバーンは、何をしているのだ?」
「理由は分かりませんが、明らかにこの館の上を回っているのは分かります」
マキシが問い、オーシが答えている間にも、館の外、門の前には人集りができていた。
王都内にモンスターが侵入する事は、まず無い。翼竜の生息域は遠いし、近隣の山野、森林は定期的に討伐隊により間引きされている。そもそも、王都をグルリと囲む城壁を越えられる魔獣なんて、城壁建造後確認されていないのだ。それが日中にひょいと現れたのだから、人を呼んでしまう。その上、それは、亜が付くとはいえ、竜の形をしているのだ。
その時、上空から声がした。
「姉ちゃん、やっぱりここだよ。アリアドル家」
「そう、じゃあ行きますか。宜しいですかプリエラ様?」
「は〜い!」
声の後にワイバーンから幾つもの銀色の円板が現れ、階段状に並び始める。
その階段に足を乗せる二つの影。
「カラカラ、ありがとう」
「じゃあな姉ちゃん。プリエラも元気でな!」
「うん!」
「こら!カラカラ、ちゃんと『様』を付けなさい」
「ごめんて。じゃあ、プリエラ様も元気でな!」
「はい!」
なんか、上空から気の抜けた会話が聞こえてくる。
周囲からザワザワと動揺が湧き起こる。
銀色の円板の階段を下りてくる人物を、皆が注目する。
一人は、黒いメイド服を着た若い女性。
もう一人は、可愛らしいドレス姿の女の子。
空中にできた階段を危なげもなく下りてくる二人。
地面に降り立つと、女の子が元気に挨拶をした。
「プリエラ・N・アリアドルです。学園入学の為にまいりました。お世話になります」
ありがとうございます。