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幼馴染は死に急ぐ

作者: もさ餅

 高校一年生の春、入学式の朝に俺は事故で死んだ。


 独り、クラスの端っこで本を読んで過ごしていた自分とおさらばするために、春休み中に金髪に染めた。ファッション雑誌を読み漁った。

 華々しい高校デビューを飾ろうと、いろんな努力をした。でも、全て無駄になった。俺は青春の一ページ目にすら入り込むことなく、終わったのだ。


 そんな俺は今、教室に居る。一人で教室に残って黙々と勉強に励んでいる幼馴染を、教卓の上に座ってぼーっと眺めている。


 ……気づけば、俺は幽霊になっていた。自分の体は半透明で、服装は死ぬ直前に着ていた学生服。極め付けは、誰も俺を認識しない。というか、すり抜けてしまう。

 生前、幽霊という存在は信じていなかったが、自分がそれになってしまえば信じざるを得なかった。


「……真面目だなぁ」


 俺の幼馴染は所謂、完璧な奴だ。勉強もできて運動神経も抜群。性格も良く、容姿も優れている。これは俺の偏見なんかではない。実際、かなりモテている。告白された話だって何回も聞いたし、見たことだってあるのだ。

 それでいて、彼女は努力を欠かさない。今も一人で教室に残って黙々と勉強している。欠点があるとすれば、俺の存在だろう。


 俺は至って平凡だ。勉強が得意という訳でもなければ、運動が凄いできる奴でもない。人に自慢できるような特技も思いつかない。顔は……あまり悪くないと思いたい。

 彼女はそんな俺の存在を嫌がらずに接してくれていた。例えば、朝、家を出る時間が偶然合った時は一緒に登校したり。普通は周りの目を気にして時間をずらしたりするものだと思う。


 俺? 俺は可愛い幼馴染と登校できて内心ウハウハだったよ。当たり前だろ。


 まあ、そんな感じの近い距離感で接してたから、彼氏と勘違いされることもあった。流石にお互い否定してたけど。


 ……それでも、俺が死んだ時、彼女は泣いてくれた。恋人ですらないのに、涙が枯れるまで、ずっと。一時間ぐらいは泣いていたと思う。

 不謹慎だけど、正直嬉しかった。私のお墓の前で泣かないでください〜なんて歌もあるが、俺は泣いてほしい派だ。その方が、自分が大切な存在と思われていたことが伝わってくるから。


 で、何で俺の存在が幼馴染の彼女の欠点になるのかの話に戻ると、彼女は毎日のように俺の墓参りをしに来るのだ。

 墓参りをするなとは言わないが、来すぎだ。限度がある。それが理由なのか、彼女は高校で部活に入っていない。どんな部活に入っても大活躍間違いなしの筈なのに、非常に勿体ない。


 ……まあ、高校は部活が全てではない。リア充になってプライベートが充実してるようなら俺も安心できた。

 しかし、彼女は男を作ろうとはしなかった。毎週のように告られている現在も、全ての告白を一刀両断している。難攻不落なんて二つ名が広まるレベルで。


 顔良し、頭良し、運動良し、性格良しと幼馴染の俺ですら認めた学校一のイケメンですら玉砕していた時は、もしかして女子が好きなのだろうかと真面目に考えたが、次の週に女子から告白されても変わらず一刀両断していたので違うらしい。

 極め付けに、断る理由は決まって「好きな人がいるから」である。


 ……この好きな人というのが誰か分からないほど、俺は鈍感ではないつもりだ。だからこそ、勿体ないと思ってしまう。


「本当、俺の幼馴染なのが勿体ない……」


 俺の幼馴染であったばかりに。こうなるぐらいなら、俺のことなど忘れて人生をもっと楽しんでいてほしい。

 こんな話をすれば彼女に怒られそうだが、俺の声も、想いも、永遠に届かないから気にする必要がない。


 華々しい高校デビューのために……彼女に釣り合うような男になろうとした努力は、全て無駄になってしまった。

 俺が無駄に費やしてきた努力の時間。その時間で、彼女のために他にできる事が沢山あっただろう。悔やんでも、悔やみ切れない。


 ……俺が幽霊になったのは、生前それができなかった俺への神様がくれたチャンスなんだと思う。


 〜♪


 午後5時半、外からいつもの「良い子は帰宅する時間です」のチャイムが聞こえてくると、彼女は立ち上がる。俺も、教卓から降りた。




 彼女は毎日決まってこの時間、人が居なくなったこの教室の窓から飛び降り自殺をしようとするのだ。


 そして、俺だけがそれを止められる。




 俺は人をすり抜けてしまう幽霊だが、何故か幼馴染が自殺しようとする時だけ物体に触れるようになる。

 格好良く言えば、想いの力というやつだろうか。この力を与えてくれた神様には感謝しかない。この力がなければ、今頃、幼馴染は死んでしまっていただろう。


 今日も俺は、彼女を止める。俺なんかのせいで自殺をさせないために。

 これから先、彼女にはもっと楽しい未来が待っている筈だから。この行為が俺の自己満足だとしても、彼女の明るい未来を信じたい。


 窓から飛び降りようと身を乗り出した彼女を、俺はいつものように後ろから抱き締め、後ろへと引っ張る。


 そして、彼女を抱えて倒れ込み、背中を床に打ちつける。

 これに関しては要らなかったのだが、この瞬間だけ俺には痛覚もある。始めの頃はかなり痛かったが、もう二ヶ月ぐらい経った今ではその痛みにも慣れてしまった。


 ――起き上がった瞬間、俺の意識は立ち眩みにあったかのような眩暈が襲ってきた。

 彼女の自殺を阻止した後、俺は必ずこの現象に襲われる。この一時の間、何故か物に触れるようになるこの力の反動なんだと思う。この現象には二ヶ月経った今でも慣れない。


 眩暈が終わる頃には彼女は既に自分の席に戻っていて、荷物をまとめ始めていた。どうやら帰るらしい。

 今日も彼女の自殺を無事に阻止できた。その事実に達成感と安堵を覚えつつ、今日も俺は彼女が家に帰り着くまで見届ける。こんな毎日を繰り返している。


 ……俺が幽霊だとしたら、いつかは俺も成仏するのだろう。でも、それは今じゃない。彼女が自殺をしなくなるその日まで、俺は成仏なんてしていられない。

 彼女が自殺を諦めて、俺を忘れて前を向いてくれる日が来るまで。その日が来ることを信じて、俺は彼女の自殺を止め続けるんだ――。




 ▼ ▼ ▼ ▼




 幼馴染が死んでしまったあの日から、私の時間は止まったまま。

 最初は嘘かと思った。悪い冗談かと思った。でも、違った。彼の体は本当に、冷たくなっていた。


 もう、何もかもが嫌になった。彼の居ない世界に価値なんてない。死のうと思った。それぐらい彼が好きだった。彼を失ってから、私は気づいてしまった。

 私がテストで全教科百点を取っても、体力テストで一番になっても、中学に入ってしょっちゅう告白されるようになっても、彼だけは昔と変わらず接してくれた。勝手に周りが私に期待を押し付けてくる中で、彼だけは私に何も望まないでいてくれた。私を普通の女の子で居させてくれた。彼の隣が、どんな場所よりも心地良かった。


 そんな彼は、もう居ない。

 お父さん、お母さん、親不孝な娘でごめんなさい。そう思いながら、私は放課後、誰も居ない教室の窓から身を投げようとした。


 ――不思議な現象が起きたのは、そんな時。

 窓を開けて身を乗り出した瞬間、私は強い力によって体が後ろに引っ張られたのだ。

 そのまま勢いよく背中から床に倒れた私だったけれど、何かがクッションになって床に体を打ちつけることはなかった。


 私は誰かに自殺するところを見られてしまったと思い、慌てて起き上がって後ろを振り返った。




 そこに居たのは、半透明になった彼だった。




 私はすぐに辺りを見回した。でも、教室には彼以外誰も居ない。

 最初は、彼に会えない辛さが生んだ幻覚かと思った。その時は、すぐに彼が視えなくなってしまったから。我ながら彼の事好き過ぎるなぁと、つい笑ってしまった。彼が死んだ後、初めて笑えた出来事だった。


 そして、彼が幽霊なんじゃないかと確信したのはその翌日のこと。

 私がまた同じように自殺をしようとすると、今度は窓が開かなかった。そして、窓が開かないように必死で押さえている彼が視えた。


 どうして彼のことが視えるのかは分からない。だけど、嬉しかった。幽霊だとしても、また会えたから。


 私は嬉しさのあまり話しかけた。

 すると、一瞬にして彼が視えなくなってしまった。


 彼と視線が絡む瞬間、私は彼を認識できなくなる。

 そして、声が届かない。彼の声も当然聞こえない。幻覚と言ってしまえばそれまでの現象。

 でも、一度は彼が私に触ってくれた。だから、彼にまた触れたかった。彼を感じたかった。


 どうすれば彼が視えるのか。何をすれば彼に触れるのか。その夜、試しに家のベランダから身を乗り出してみたけれど、彼は現れなかった。

 一晩中、私は彼が現れる条件を考えてみたけれど、その日は結論を出せなかった。


 条件と思われるものが何となく判明したのは、翌日の放課後だった。


 彼に会えた嬉しさはあっても、自殺願望が消えることはない。私は同じ時間に近くに人が居ないのを確認してから、今日も飛び降り自殺を試みた。

 窓を開けようとすると、窓を開けさせないように押さえている半透明の彼が見えた。


 私はそんな彼を無視して、窓を力で無理矢理こじ開けた。

 元々、彼より私の方が力があったのだ。それは彼が半透明になった後でも変わらないようだった。


 そして、私は窓の縁に足を乗せて身を乗り出そうとすると――また、体が後ろへと引っ張られた。半透明の彼が見えた初日と変わらない、私が望んでいた現象が起きた。

 すぐに後ろを振り向くと、彼の安堵したような表情が一瞬だけ視え、消えてしまった。


 嬉しかった。嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらなかった。


 そして、私は彼が現れる条件を理解した。

 私から彼には触れない。でも、彼からなら私に触れる。放課後、この教室で私が自殺をしようとするたった一時の間だけ。


 その日から、私は誰も居なくなった放課後の教室で、同時刻、毎日のように飛び降り自殺を試みるようになった。

 彼はそんな私を毎日のように止めてくれた。後ろから抱き締めてくれた。温かくて力強い、男の子の彼の身体を感じられた。


 彼が幽霊になったのは、私のせいだと思う。こんなになってしまった私を放っておけなくて、成仏ができないんだと思う。だから、彼はいつも私を止めてくれる。


「ごめんね……」


 私自身の存在が未練であることに気づいていながら、私は彼を縛り続けている。

 これからも、私は自殺をし続ける。彼をこの世に縛り続けるために。彼の未練を晴らさせないために。


「弱い私で、ごめんね……」


 お願いだから、ずっと私の側に居てほしい。狂っていると思われていても構わないから、ずっと。

 いつか、彼が私に愛想を尽かして止めてくれない日が来るかもしれない。でも、その時はその時だと思ってる。止めてもらえなかったら、死ぬだけ。


 死んでも、きっと彼に会えるから。私は怖くない。



 幼馴染を死んでも死なせたくない男の子と幼馴染に死んでも会いたい女の子の、決して結ばれない愛のお話。



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[一言] 彼女が自分を認識して行っている行為だと彼がわかった時彼女をとめるだろうか?(彼女は彼が居ない世界に未練も無い) 彼が彼女におもう現世で幸せになって欲しいと願って彼女の行為をとめているが、彼女…
[一言] 彼には何とかこの状況を打破して欲しい…
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