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09.勇者ファレス(2Pカラー)

 一向に目を覚ましそうにないフランに困っていると、酒場まで迎えが来た。

 

 勇者が住む邸宅に向かう道中、二人まとめてこってりと説教を食らった。こちらに反論する余地は無く、甘んじて受け入れるしかなかった。


 普段は礼儀正しかったゲイルが額に青筋を立てている姿は正直面白かった。


 

「良いですか? ファレス様は大変お怒りです。これ以上失礼の無いようにお願いしますよ。では主人を呼んで参りますので、少々お待ち下さい」


 ゲイルは俺達を迎賓室へと案内し、呆れ顔でそう言うと勇者を呼びに向かった。


「う~、頭痛い……。一生の不覚だわ」


「だから無理して飲むなって言ったのに」


 そう言うとルビ姉は頭を抱えた。


「仕方なかったのよ。……それにしても、酒場の店員はなんで私達を起こしてくれなかったのよ」


「マスターから寝かしてやれって言われてたみたいだ。フランの友人みたいだし、気を遣ってくれたのかな」

 

 今回に関しては無神経に起こしてくれたほうが良かったが。


「あの女に関わったせいでこんな醜態を晒すなんて……。二日酔いで予定に遅れるなんて、人生の汚点よ」


 まだフランに敵対心を持っているようだった。昨夜はあんなに仲良さそうに会話していたというのに。


「でも楽しかっただろ?」


「黙って」


 一蹴されてしまった。


「それはそうと……良い? 勇者からは私が話を聞き出してみるから、余計なことは言わないこと」


「はいはい。なにか聞かれない限り喋るつもりはない」


 そうこう話していると、この部屋へと近づいてくる足音が聞こえた。


 ついに勇者との対面だ。妙に緊張する。

 以前に一度遠目で見たことはあるが、直接対峙するのはこれが初めてだ。


 足音は部屋の前で止まると、室内にノック音が響いた。


「失礼する」


 偉そうな声とともに、偉そうな服に身を包んだ男が入ってきた。

 俺ってこんな顔だったっけ? 風呂上がりに鏡で見たときはもうちょいイケてたと思うんだけど……。


「久しぶりだなルビナ」


「えぇ、お久しぶりです勇者様」


 勇者はルビ姉への挨拶を済ますと、俺の方を見た。


「こちらが?」


「従者のユティです」


「ユティか。……ふむ」


 勇者はそう言うと、俺の全身を舐めるように見渡す。何か気色悪いぞ。


「僕の事は知っているだろうが、一応。僕はファレス。皆からは勇者と呼ばれている」


 勇者は自身をそう評すると、持っていた大剣を壁へと立て掛け、改めてルビ姉の方へ向き直した。


「やっと来てくれたね。いつも手紙を送っているのに返事が来ないから心配していたんだよ」


「……すみません。多忙ゆえ、あまり自宅に戻っていなかったので」


 その割には酒場によく顔を出していたがなぁ。


「今日だってこんなに遅れてくるとは思わなかったよ」


「すみません」


「だが僕は君を許そう。君とは良好な関係を築きたい」


「……ありがとうございます」


 何かうぜぇなこいつ。いちいち鼻につくというか……。


「それで、今回は何の要件で私をお呼びになられたのでしょうか?」


 ルビ姉がそう質問すると勇者は鼻で笑った。


「わかっているだろう。僕との結婚の話だ」


 勇者の答えに、ルビ姉は目を伏せる。


「その話は以前お断りしたはずですが」


「……何が不満なのかな? 僕には地位があり、力がある。いずれはこの国の騎士団長に任命されるだろう。そうなれば君は国有数の貴族の妻だ」


「前にも言いましたが、私にはやらないといけないことがあります。少なくとも、それを成し遂げるまで誰かと結婚など考えられません」


「ふむ、その成し遂げなければならないこととは?」


「それは……」


ルビ姉は俺の方に視線をやった。


「……」


「……どうした、何が引っかかる? もしや姫との噂話の件か?」


噂話というのは、王都の姫が勇者を大層気に入っているというものだ。俺も聞いたことがある。


「彼女とは何も無いから安心してくれ。僕に相応しいのは君だけだ」


「そうですか。……でも噂になってましたよ? 勇者様が夜な夜な色んな女性の家に入り浸っていると」


ナイスだルビ姉!

俺が何よりも聞き出したかったことを訊いてくれた。


「なんだ、そんなことが気になっていたのか。彼女たちとは遊びだよ。本気になんてなるものか」


こいつやっぱり頭おかしいだろ。せめて隠せよと言いたい。


ていうかやっぱり俺の体で好き放題やりやがってたんだな!! 人生における大きな目標の一つを失った気分だ。

 

「……まぁいい。そうだ、そういえば少し面白い話を聞いてね」


勇者は席を立つと、扉の方へと歩きながらそう言った。


「面白い話とは?」


「いやね、ただの噂話なんだが……」


妙に含ませた言い方をする奴だ。気取っているというか。


「この国のギルドにはフランという天才魔術師がいるんだが、知ってるかな?」


「……えぇ、有名人ですから」


「君たちは昨晩彼女と随分盛り上がったみたいだね」


「……」


ルビ姉は何も言わなかった。


「それについて何か言うつもりはない! 君が誰と食事しようがそれは君の自由だ」


ただね、と勇者は続ける。


「僕が聞いた面白い話というのはルビナ、君じゃなくそっちの従者についてだ」


勇者は俺を指さしてそう言った。


まるで探偵が犯人を追い詰めるが如く、ゆっくりと話を進める。言いたいことがあるなら勿体ぶらずに言って欲しい。


「どういうことでしょう?」


「僕はこの立場上、命を狙われることも多くてね。そこら中に部下を忍ばせている。そのうちの一人から聞いたんだが……」


はよ言えや。


「あの天才フランが無名の女剣士に手も足も出なかったらしい。そして面白いことに、その女剣士はファレスと名乗っていたそうだ」


あ〜……、ギルドでフランを呼ぶ時に名乗ったなそういえば……。


ルビ姉は物凄い形相で俺を睨んでいた。あれだけ身分を隠せと言われていたのを無視した訳だし、しゃあない。


「さて、君の目的を聞かせてもらおうかな?」

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