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06.実力の片鱗

「君は私を馬鹿にしているのか!?」



 半刻ほど遡る。


 訓練所に着いた俺達は、早速手合わせを始めようとしていた。


「君相手なら手加減は必要ないだろう。初めから全力で行くからな」


 嬉しい信頼だが、果たして今の俺にフランの攻撃を捌ききれるのだろうか。

 自己研鑽を積んできたフランに対し、鍛錬どころか不摂生しかして来なかった俺だ。


「ちょっと待て、勝ち負けの判断は何でつける気だ?」


「そうだな……参ったと言わせたら勝ちで」


「それだと俺に勝ち目ないじゃん」


 昔の彼女はとんでもない負けず嫌いだった。少なくとも自分から負けを宣言するような性格ではない。


「……何だその目は。私ももう大人だ。いざという時には潔く負けを認めるよ」


 ……信用するしか無いか。

 俺は負ける訳にはいかないのだ。フランに男がいるのかどうかを確認するという使命を果たす為にも。


「では始めようか」


 フランはそういうと俺から距離を取った。こちらの出方を伺っているようだ。


「先手はやるよ」


「そうか。なら遠慮なく!」


 フランが手を振り上げると、鳥を模した炎が数発こちらへと向かってくる。


 俺は大きく後退するこでそれを躱す。炎が着弾した箇所には大きなクレーターが出来ていた。


「すげ……無詠唱で撃てる威力じゃねーな」


「まだまだ!!」


 今度は電撃だ。速度はさっきの比じゃない。だが、それでも逃げ回る俺を捉えられる程ではなかった。


 そうして矢継ぎ早に放たれる魔法を避け続けていると、フランが吠えた。


「ファレス! 避けてばかりでなぜ攻撃してこない!? ふざけているのか!! いい加減刀を抜け!」


 実際のところ、俺の勝利条件はフランの魔力切れしか無かった。

 彼女に手を上げる気にはなれないし、寸止めなどしようものならブチ切れられるのは想像に難くない。


「いいからいいから、早く当ててみろよ」


「……そうか。お前がそういうつもりなら乗ってやる。いつまで避けきれるかな!!」


 フランは両手を掲げると、先程と同じ炎魔法を繰り出そうとする。


「そいつの威力は確かにすごいが、俺には当てられないぞ」


「それはどうかな?」


 フランがそういうと、炎弾の数がみるみる増えていく。

 30、40……まだ増える。


「フランさん、それはちょっとやりすぎだと思うの。ここが壊れちゃう」


「大丈夫だ。頑丈だから」


「そんなの当たったら僕が死んじゃいます」


「頑丈だから大丈夫だ」


 何言ってんだコイツ。


「さぁ! 避けてみろ!!」


 炎弾が一斉に俺の方へと向かってくるが、流石にこれは避けきれない。

 こんなの喰らったらただじゃ済まない。


 できれば使いたくなかったが……。

 仕方ない。


「ユティ、やるぞ」


 放たれた炎弾は、轟音と共に大爆発を起こした。




「はぁはぁ……やったか!?」


「やったか? じゃねーよ。俺を殺すつもりか」


「なっ!?」


 素早くフランの両手を魔法で縛り上げる。


「これでさっきのは使えないな」


「くっ、これは魔族の邪法じゃ……それにその手に持っている刀も……何故君が……」


「半分魔族だからな。……さて、これはもう俺の勝ちでいいよな?」

 

 ここから逆転されるなんてことはまず無いだろう。

 また勝ってしまったよ。敗北を知りたい。


「……ふん! この程度で私が負けを認めるとでも?」


 ほらな言った通りだ。昔と変わってないじゃないか!


「私が無詠唱で魔法を使っていたから油断したのか? 魔術師は口を塞がれなければいくらでも、むぐっ!?」


 フランは喋っている最中だったが、手を縛りあげている魔法を口元にもかける。

 猿轡をしているようでちょっとエロい。


「わざわざヒントをくれるとは……。さぁ、負けを認めて貰おうか?」


「わへふぁふふは!!」

 

 目を見れば分かる。誰がするかと言っているようだ。

 

 どこからどう見ても俺の勝ちだが、フランが負けを認めなければ意味が無い。

 そうでなければ俺の目的は果たせない。


 うーん…………。仕方ない。これは勝つ為だ。決してよこしまな考えがある訳では無い。


「……フラン。早く負けを認めないと恥ずかしい目にあうぞ?」


 俺は両手をワキワキさせながら、フランの胸元へと手をやる。


 何をされるか理解したフランは物凄い勢いで体を捩らせた。

 当然だがよっぽど触られるのが嫌なようだ。


「んんんんん!!!」


「ちょっ、暴れるなって! 嫌ならもう降参しろよ」


「…………」


「じゃあ失礼して……」


 俺は再度手を伸ばす。それに呼応するかのようにフランはゆっくりと目を閉じた。



 

「…………はぁ、もういいよ」


 俺の言葉にフランは目を丸くしていた。

 

 正直めちゃくちゃ触りたかったが、今にも泣きだしそうな表情を見ると冷静にならざるを得なかった。


 フランを縛り上げていた魔法を解除すると、彼女はその場にへたりこむ。


「あいかわらず負けず嫌いだな。でもあれだけの魔法を無詠唱で使えるなんて、想像以上に腕を上げていたみたいだ」


「……」


 俺は彼女を称賛したが、何も返ってこない。


「……邪法を使わなかったら間違いなく俺はやられてた。だからそんなに不貞腐れるなって」


「……また勝てなかった……」


「あんなに努力してきたのに!! 何なんだ君は! いつもいつも簡単にあしらいやがって!!」


 フランは涙を流して叫んだ。


「ちょ、落ち着けって!」


 爆発した感情は留まる所をしらず、広い訓練所内にこだまする。

 数分後、やっと落ち着きを取り戻した彼女は立ち上がりながら言った。

 

「……取り乱してすまない。私の努力が足りなかったのを君のせいにしてしまった」


 やっと冷静さを取り戻してくれた……。

 それにしてもこの向上心はどこからやってくるんだろうか。フランと話していると、だらけ切っている自分が恥ずかしくなってくる。


 恥ずかしくなるだけで改善しようとは微塵も思わないけども。


「積もる話もあるし、一杯どうだ? 奢るぞ」


「ありがたいが……お前酒飲めるのか?」


「あぁ。何かおかしいか?」


「いや、そんなことはないが……」


 俺の周りにいる女性は酒がダメだから新鮮だった。

 まぁルビ姉の事なんだが。


「色々と話を聞かせてくれると嬉しい」


 フランは笑顔を浮かべてそう言った。機嫌は完全に治ったようだ。


「そうだ、その前に約束を果たさないとな」


「ん? 何の話だ?」


 フランは一呼吸おくと、少し恥ずかしそうに言った。


「恋人はいないし出来たこともない。私は5年前から君にしか興味はない」


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