05.魔術師フラン
「私に会いに来たファレスというのは君か?」
警備員に押さえつけられていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声のした方に目をやると、ルビ姉と張る美人がそこにいた。
金色の髪に翠色の眼。間違いない、フランだ。
「久々だなフラン。まずはクズ呼ばわりした理由を聞こうか」
フランは顎に手を当て、何かを考える素振りを見せた。
「……すまない、本当に覚えがないのだが」
あぁそうか、見た目どころか性別が変わってたら混乱するよな。
「君は何故勇者ファレスの名を騙る? 私に何の用があってここに来た?」
当然だがかなり警戒されているようだった。
恐らくすぐには納得してくれないだろうが、俺がファレスだという事を一生懸命説明してみよう。
「君がファレス本人だと? ……にわかには信じ難いが……」
まぁそうそう信じられる訳が無いよな。あ、そうだ。
「なぁフラン。お前俺と手合わせする度に小屋の裏で泣いてたよな」
「んな!?」
「謎の物体を手作り料理とかいって食べさせられたし、」
フランは驚愕の表情を浮かべていた。
「その事は他の誰も知らないはず……」
もう一息かな?
「トイレに行きたいとかで夜中に叩き起されたこともあったっけなぁ」
「なっ……本当にファレスなのか……?」
どうやら納得してくれたようだ。こんなんで信用するのは如何なものかと思うが、フランは昔からチョロかったしこれで大丈夫だろう。
「少し混乱しているが…………。ともかくあの勇者ファレスが偽物だと分かったのは良かったよ」
「どういう事だ?」
「私の初恋の相手があんなクズになったのは残念だったからね」
勇者ファレスってのは一体何をやらかしてるんだ?
ていうか初恋って……そうだったの?
「……で、そのクズに会いに行く前にここに顔を出したって訳か。把握した」
「勇者様を随分嫌ってるんだな」
俺がそう尋ねると、フランは眉をひそめた。
「あぁ、何度断っても食事に誘ってくるんだ。いくらか会話したが、見た目は君でも中身があまりに醜悪だった。正直気でも触れたのかと思っていたよ」
決して俺の事を言われている訳では無いが、どこか複雑な気分だ。
「もっと早くに会いに来てくれれば良かったのに。色々と力に慣れたかもしれない」
「王都には来たくなかったんだよ。当時はまだ現実に向き合うってのが難しかったし」
そうか……とフランは目を伏せる。
「今となっちゃどうでもいいがな! ……それにしてもフランは随分有名人になったな。俺たちの町まで評判が届いてたよ」
俺の言葉にフランは表情を明るくした。
「君と別れてからも鍛錬を怠らなかったからな!」
「それに、物凄く綺麗になった」
「ふふっ、やめてくれ。恥ずかしい」
そう言って頬を赤らめるフランには、とても劣情を掻き立てられた。マジで可愛い。
「一つ聞いていいか? その……恋人とかいるの?」
「久々に会った旧友に聞くことがそれなのか?」
俺の質問は一蹴されてしまった。まぁここまでの美人を周りの男たちが放っておくわけないか。
「ごめん、本当に綺麗になってたから」
「君こそ随分美人になってしまったじゃないか」
フランは冗談ぽく笑っていた。
「それに対して俺はどういう反応をすればいいんだ?」
「ふふ、気を悪くしないでくれ」
「お前の性格はほんと変わらないな。胸部は随分様変わりしてるが」
当時フランの胸部は俺と変わらない程度の起伏しかなかったハズ。
よくここまで育ったものだ。
「……相変わらずデリカシーの無い男だな君は」
二人の間にドスの効いた声が響く。
「……そ、それにしても王都始まって以来の天才魔術師とまで言われてるんだもんな。昔は一緒に修行してたのに、随分差をつけられたもんだ」
「君には一度も勝てなかったけどね」
そうだ、とフランは続けた。
「勇者に会うのは明日の昼だったな。どうだ、久々に手合わせでもしてみないか?」
「私に勝てたらさっきの質問に応えてやってもいいぞ」
「乗った!!」
「よし! 私がどれだけ強くなったか見せてやろう。ここの裏に訓練所がある。着いてきてくれ」