04.そんな奴しらない
翌日、俺達は王都へと向かう馬車の中に居た。
勇者ファレスの許しも出て、俺はルビ姉の従者という形で同行する事になった。
出発してから半日が過ぎた。
その間狭い馬車の中でじっと座っていたが、そろそろ臀部の痛みが耐え難くなってきた。
「あぁ〜、ケツが痛い」
「文句言わないの。あとケツとかやめて」
「そんな事言われてもなぁ。俺と違ってルビ姉はケツがデカいから痛くないのかもしれな……」
「死にたいの??」
ルビ姉の手は身の丈ほどもある杖へと伸びていた。
いつでも俺を殺せる射程だ。
「冗談ですごめんなさい」
「はぁ……。ねぇ、参考程度に聞きたいんだけど」
「ん?」
「ファレス君はおしりの大きい子が好きなの?」
まさかルビ姉がこんなことを聞いてくるとは思ってもいなかった。
俺は考える。ここはどう答えるのが正解だろうか。
個人的にはでかケツが大好きだ。だがそれをそのまま言ってしまうのは如何だろう。
女の子というのは望んだ答えが返ってこないと納得しないものなのだ。
恋愛マスターの俺には分かる。
となると、この質問に対する最善の答えは……!
「確かに好きだけど、女の子の価値はそれだけじゃ測れないよ」
「……気持ち悪い。あくまでも紳士的に振舞おうとする浅はかな考えが」
精一杯足りない頭で考え抜いたのに……。
「とりあえずケツの話は置いといて……」
「ケツって言わないでよ」
「あとどれ位で着くんだろうか」
「そろそろじゃない? ……そうだ」
何かを思い出したようだ。
「いい? 王都に着いたら大人しくする事。間違っても騒ぎなんか起こしちゃダメよ」
俺を子供だと思っているのだろうか。騒ぎなんて起こす方が難しいだろう。
「それと、ファレス君の正体は絶対に隠しておくこと。不用心に名乗ったりしちゃダメよ」
話題沸騰中の勇者と同じ名前だったら少なからず目を引いてしまうしな。これも仕方ないだろう。
「名を聞かれたらユティとでも答えとくよ」
「……分かったわ」
それからしばらくすると馬車が止まった。
どうやら王都に到着したようだ。
そこからはゲイルに大層豪華な宿屋まで案内された。
「ファレス様との面会は明日の昼を予定しています。また明朝にお迎えにあがりますので、こちらの宿でお休みください。それまでは自由にして頂いてかまいません」
ゲイルはそう言うと王城の方へとそそくさ姿を消した。
「さて、どうする?」
「私は教会の司祭様に用事があるの。夜までには終わらせるから、夕食は一緒に食べに行きましょう」
「オッケー。俺は冒険者ギルドに顔を出してくるよ」
ギルドへ? とルビ姉は疑問を浮かべる。
「昔馴染みの友人がここのギルドに居るんだ。フランって名前聞いた事ない?」
「フランってあの天才魔術師のフラン? いつの間にそんな有名人と知り合ってたの?」
「昔剣聖の所で修行してた頃にちょっとな。1年弱の付き合いだったが」
「ふ〜ん」
ルビ姉はあからさまに不満げな表情を浮かべる。他の女の子を話題に出すといつもこうだ。
「……会うのは良いけど、くれぐれも騒ぎは起こさないでね。絶対よ」
これはもう騒ぎを起こせというフリなのだろうか。
「分かってるって。俺はもう大人だぜ? 信用してくれよ」
俺はルビ姉と別れてギルドへと向かった。
王都へ来るのは3年ぶりだったが、何とか迷わずに目的地へと辿り着けた。
フランと最後に会ったのは5年前だったか。昔からあいつは可愛かったし、今は大層美人になってるんだろうな。
俺は多少の緊張と期待を抱いて、ギルドの扉を開いた。
「ようこそ“七本目の棘”へ! 本日はどういったご用件でしょうか?」
受付へと向かうと、弾けんばかりの笑顔で迎えてくれる。
王都の有名ギルドともなると、流石に受付嬢のレベルが高い。
「フランに会いに来た」
「フランさんですね。失礼ですがお名前をお伺いしてよろしいですか?」
ルビ姉からは正体を隠すようにと言われているが、名前を伝えないと会ってくれそうにないよな。
「ファレスだ。クレスタ村のファレスと言えば分かると思う」
「ファレス様ですね。少々お待ちください……」
受付嬢はそう言うと石を耳にあてがう。
音声転送ができる魔石だろう。
「はい……はい……分かりました」
「すみません、覚えがないと仰っているのですが……」
まさか忘れられているとは思わなかった。結構ショックだ。
「えーっと、5年前に一緒に修行したファレスだと伝えてもらっていいですか?」
再度受付嬢は魔石を手に取る。
「……はい。……え?? そのままお伝えするんですか?」
受付嬢はバツが悪そうに俺を見て言った。
「ええっと……そんなクズの名前は知らないと……」
「フランを出せーーーー!!!」