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静かな夜

 アンヌが《聖魔の剣》を暴発させた、その日の夜……。


 クロたちは、再び酒場で日中起きた出来事を笑いながら喋っていた。


「ほんと、今日は特にスリリングな日だったよな~」


 キラーベアの肉を食いちぎりながら、クロは楽しそうに言った。


 逆に、そのスリリングな状況を生み出した張本人アンヌは、少しうつむいた表情で、ポシャっと呟いた。


「……ごめん。クロとオーレンがいなかったら、多分私、大怪我してた」



 *    *    *



 《聖魔の剣》が暴発する直前、先に動いたのはクロの方だった。


 クロは素早くナイフを構えると、一分の隙もない動きで、《聖魔の剣》目掛けて投げた。


 見事、直撃したナイフは甲高い金属音を立てると、アンヌの手から《聖魔の剣》を弾き飛ばした。


 そしてそれに続くように、オーレンが《神術》を使い、仲間それぞれに防御結界を張ったのだ。


 こうしてクロたちは間一髪のところで、魔法の暴発を受けずに済んだのだった。



 *    *    *



「大怪我で済むお前の耐久力すげぇな」


 肉をむしゃむしゃと咀嚼しながらツッコんだクロは、続けて『フレイムリザードのしっぽ』に手を伸ばしながら言った。


「モンスターをお前一人で全滅させたんだ、作戦通りいったじゃねえか。なら結果オーライだろ」


「それに面白かったし」という次のセリフが、しっぽを噛みちぎるのに苦戦して聞き取り辛いものになっていたクロだったが、事実、彼の中ではフォローでもなんでもなく、『面白ければ全てよし』の精神に集約されていた。


 そんなクロに続くように、フィルが言った。


「そうだよアンヌちゃん……。私もいい勉強になった。魔法理論の構築もなく、適当にごちゃ混ぜにした魔法の暴発なんて、滅多に見れるもんじゃないし」


「フィル? それフォローになってないぞ?」


 クロが注意するのをよそに、オーレンが続く。


「確かにいいものが見れましたね。まさかあの後、暴発した辺りの草原が虹色に変色するとは。いまだに、色とりどりの光を代わる代わる発光してますしね」


「お前、それは言わない約束だろっ……ふふっ……」


 さすがのクロも、その現場の光景を思い出してしまったのか、吹き出してしまった。そこに、すかさずアンヌが抗議を入れる。


「今、途中まで慰めてくれてたよね!? クロの裏切り者!!」


「いや、わりぃわりぃ。でも、笑うなって方が無理だろ。だって、あんな……」


 なんとか堪えつつ、アンヌを説得するクロだったが。


「……草原イルミネーション」


 ポツリと呟いたフィルのせいで、ダムが決壊した。


「おいっ、フィルっ! それはズルいぞっ……だっはっはっは!! ダメだ、もう無理、ひーっ、ひーっ……ひーっひひっ!!」


「あーっ! フィルまで裏切った! 親友だと思ってたのにーっ!!」


 泣きながら掴みかかるアンヌに、フィルが謝罪の意を何度も表明しながら逃れようとする。


 が、さすがに魔法使いと魔法騎士では筋力の差があるのか、抵抗空しく、いつものようにフィルは揺さぶられる形となった。


 そんな中、オーレンだけが静かに紅茶を(すす)りながら、ふと、疑問を口にした。


「それにしても、中型モンスターが町の周辺まで迫るのは珍しいですね」


 コトリ、とカップを置く音に、クロたちの顔付きが少しだけ変わった。アンヌもなんとなく空気を読んだのか、とりあえず神妙な顔を作りつつ着席し、話に乗る。


「そういえばクロも、クエスト受けた時にそんなこと言ってたよね」


「ん? あー、確かに『最近こういうクエスト多いよなぁ』、みたいなことは言った気がする」


「そんなに珍しいことなの?」


 不思議そうに小首を傾げるアンヌに、クロは「そういや……」と説明を始めた。


「お前は一応“お嬢様”だったから、こんな辺境のモンスター事情なんか知らなくて当然か。このサイラスって町は、こう見えてそこそこギルドが発達してんだ」


「うん。だから私はここを選んだのよ。できるだけ実家から離れるために」


 貴族令嬢の逃亡発言に、やんわりと闇を感じながらも、クロは構わず続けた。


「ギルドが発達してるってことは、冒険者もそれなりにいるわけだ。そんなモンスター狩りの巣窟に、モンスター共が(みずか)ら近付くなんて、自殺行為も(はなは)だしい。あいつら、なんだかんだ本能で危険な場所には近付かないようにしてるからな」


 なるほどぉ~、と、ポンと手を打つアンヌに、こいつ本当に理解してんのかなと思いつつ、クロはオーレンに尋ねた。


「お前、その件でなんか気付いたことでもあるのか?」


 オーレンは残りの紅茶を飲み干すと、再びカップを()()()()()()()


「……酒場なのに、やけに静かですよね」


 普段の(にぎ)わいの半分くらいの“音”しか繰り広げられていない、酒場の異常を指摘した。


「た、確かに……みんな、ぐったりしてるような……」


 フィルが小動物のように、辺りをキョロキョロと見回す。そこには、机に突っ伏している者や、ほとんど食が進んでいない者ばかりが映っていた。


 クロたちにダル絡みしたあの中年男ですら、今日は大人しくしている。この場にいるほとんどの人間が疲弊しているのは、一目瞭然だった。


「……みんな、中型モンスターの処理に追われてんのか」


「モンスター駆除の割には、それなりの報酬でしたからね。みんな、こぞってクエストを受けたことでしょう。逆に言えば、報酬を増さねばならない程度には、ギルドもこの現状に参ってるともとれます」


 オーレンの推測に、クロたちが固唾を飲む。ただのモンスター繁殖期とは違い、町に近付いてきているという事実。果たしてそれは、ただの偶然なのか、それとも____


「……ま、まぁ、みんな、とりあえず今日は美味しくご飯食べてさ____」


 ざわつく空気を払拭するため、アンヌが立て直そうとしたその時だった。


『緊急警告、緊急警告! サイラス周辺に、大量のモンスターの反応を確認! 町の人々はすぐに避難を、加勢可能な冒険者の皆様は、どうかお手をお貸し下さい!』


 酒場の静けさを打ち破るように、ギルドから魔法で拡声された放送が響き渡った。

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