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だから、無能騎士ちゃんは追放されない

 そして、数日後____


 クロたちは、修理に出したアンヌの武器《聖魔の剣》を回収するために、リタの武具店の前に立っていた。


「私の《聖魔の剣》直ったかなぁ~?」


「むちゃくちゃ粉々になってたから無理じゃね?」


 無言でアンヌがクロに掴みかかりにいったのを、フィルは(またやってる……)と、目で追いながら、オーレンに言った。


「アンヌちゃんの剣の残骸……集めるの大変だったから……直ってるといいね」


「むちゃくちゃ粉々になってたんで無理じゃないですか?」


 フィルが涙目になりながら無言でオーレンの服を引っ張るのに対し、オーレンは「フッ」と、鼻で笑った。


 そんな男女二人組が、それぞれわちゃわちゃしていると、突如、店の扉が開かれ____


「あのさぁ、うちの店前で騒ぐのやめてくれる?」


 中から、武具店の店主であるリタが出てきた。


「やぁリタちゃん久しぶり。俺が《聖魔の剣》を回収しに行った時以来だな」


 クロがヘラヘラとしながら、リタに近づいていく。


 リタは無言のまま、鞘に収められた《聖魔の剣》を取り出すと、そのままクロの能天にクリティカルヒットさせた。


「いだぁっ!?!?」


「ほら、アンヌ。あんたの武器だよ。盗賊殴っても壊れないくらい、硬めに直しといたから」


 リタはくいっ、と丸眼鏡をあげると、《聖魔の剣》をアンヌの方へと投げ渡した。


「おー、私の《聖魔の剣》ちゃん! やっと入院生活が終わったんだね……! リタちゃん、ありがとー!」


「今回のは入院どころか死者蘇生レベルだろ。てか、前もこんなくだりやったな……」


 クロが頭を擦りながらツッコむと、リタが平たい胸を反らせて言った。


「うちは特殊な技法で直してるからね。そんくらいはちゃちゃっと直せるよ。それに、今回は“助っ人”もいたし」


 リタは、そこでくるっと振り向き、店の扉を開くと、中で待機していた人間を無理やり引っ張り出した。


「ほら、あんたも頑張ったんだから出てきなっ!」


「あ、ちょっと~……?」


 ロリババ……ではなく、小柄な店主によって背中を押され、前のめりになって出てきたその人物は、その身に着けたエプロンを照れ臭そうに握ったまま、クロたちの前に現れた。


 その“新人店員”の姿に、クロはにやりと笑うと、愉悦とばかりに言った。


「おー、よく似合ってんじゃないの、リーデルちゃん」


 クロの冷やかすような言葉に、晴れて『リタ武具店の店員』となったリーデルは、顔を真っ赤に染め、抗議した。


「うるさいっ……! あと、あんたが紹介してくれた店……すんごいブラックなんだけどぉ?」


「当たり前だろ、“罰”なんだから」


 いつものいたずらっぽい顔しながらそう返したクロに、リーデルは「ぐぬぬ」と唇を噛んだ。


「ブラックだなんて人聞きの悪い。確かに、入手困難な鉱石を取りに、ちょっとだけ危ないエリアに行ったり行かなかったりはしてるけど」


「あの、店長……それがブラックだって話なんですけどぉ……」


「うるさい娘だね。そのぶん、うちの厨房で好きに“研究”させてるだろ? それに、危険なエリアでしかお目にかかれないアイテムやモンスターに、あんたも目を輝かせてたじゃないか」


「それは……そうですけどぉ」


 店長であるリタの言葉に、リーデルが恥ずかしそうに同意する。


 あの地下牢での会話の後、クロたちはギルド当局と交渉し、その結果、リーデルをクロたちとリタの監視下に置き、かつ、めちゃくちゃこき使うという条件のもとに“リーデルの釈放”を勝ち取った。


「なんだ、うまくいってるみてぇだな。てか、お前の釈放案を通すの大変だったんだぞ? 『お前の過去』や『罪状のショボさ』を、《盗賊》特有の口の上手さでこの俺が、上手く言いくるめてだな」


「まぁ、最終的な決め手は『アンヌの家柄』だったんですけどね」


 オーレンが鼻で笑いながら、クロの説明に被せる。クロは一瞬「ぐっ」と唸ったが、すぐに首を横にふって、再びリーデルに突っ掛かった。


「と、とにかくあれだ、お前は俺やアンヌには感謝してもしきれない立場にあんだよ。そこんとこ、よく分かってんだろうなぁ?」


 そう言いながら、クロがリーデルに詰め寄る。リーデルはというと、顔を背けつつも、アンヌの方を目だけで見て、小さく、


「……ありがと、アンヌ」


 と、呟き、そのまま、そそくさと店の中へと消えてしまった。アンヌはそれに答えるように、


「こちらこそ、修理ありがと!」


と、満面の笑みで手を振った。


「え、俺は? おい、待て……。チッ、この恩義を使って修理費を値切ろうと思ってたんだが……」


「こらそこの盗賊、店長がここにいるのに何言ってるのさ」


 リタが別の武器で、クロの頭をチョップした。


 声にならない唸り声を上げながら地面を転がるクロを放置して、リタはアンヌに言った。


「ほんと、アンヌの家柄はこういう時、便利だね。この町の警護団どころか、ギルドまで言いくるめられちゃうんだから」


「そうかなぁ? 私の家系なんて、ただの《魔法騎士》ばかり生み出してる貴族に過ぎないんだけど」


「そこだけはチートな経歴なのに、なんで……いや、やっぱりなんでもない」


「リタちゃん?」


「なんでもない」


 リタは適当に流すと、今度は優しい顔で、フィルとオーレンに言った。


「フィル、オーレン。アンヌを頼んだよ」


「「はい」」


「ねぇ、リタちゃん?」


 何かを訴えようとするアンヌに畳み掛けるように、リタはアンヌの背中を押すと、


「ほら、店の前にいられると商売にならなくなる! 武器も直ったんだからもう行きな!」


 そう言って、強引にアンヌたちを送り出した。


「なーんかうまいこと誤魔化されたような……?」


 腑に落ちないまま歩くアンヌに、フィルとオーレンは顔を見合わせると、お互いにクスっと笑った。


「……さて、うちも店に戻るか……ってあれ、まだいたのかい」


 リタが店に入ろうとすると、地面に転がったままのクロを見つけた。


「お前に叩かれて悶絶してたんだよ暴力ロリババア!」


 クロが、鏡餅のようになったたんこぶを擦りながら、立ち上がる。しかしリタは特に悪びれる様子なく、土汚れを叩いていたクロに言った。


「リーデルは、よくやってくれてるよ。この町の人間たちも、「アンヌ様の仲間なら仕方ない!」ってあの娘を受け入れてるみたいでね」


「いくらなんでもうちの町民チョロ過ぎじゃね? 百歩譲って悪事には目をつむってくれたとして、一応リーデルが《モンスターテイマー》なのも公表済みだったはずだけど?」


「リーデルの過去が過去だからね。みんな同情の方が大きいみたいよ。それに、荒くれ者が多い町だからねぇ。今さら《モンスターテイマー》程度じゃ、何も思わないんじゃないかい?」


「悪い意味で懐が広すぎる」


 と、ツッコミつつもクロは内心、思った通りだな、と思いながら、数日前のある会話を思い出していた。



*    *    *



 地下牢で“罰”についての話をした後、クロたちがその場を去ろうとしていた時だった。


 アンヌ、フィル、オーレンが階段をかけ上がっていき、クロが後についていく直前、リーデルがうつむいたまま、クロだけに聞こえる声で呟いた。


「……私、人間と仲よくできるかしら」


 かつて同族に追放された存在が、再び人間に歩み寄ろうとしている____そんな彼女の“第一歩”に、クロは、茶化さず、けれど《盗賊》らしく、ニッ、と笑って。


「お前、アンヌと仲良く話してたろ? じゃあ大丈夫だよ。この町の人間は、みんなあいつみたいな頭してる奴ばっかだから____」



*    *    *



「我ながらひでぇ説得だぜ」


 そんな独り言を呟いたクロは、改まったように「こほん」と咳払いをすると、リーデルの再出発を現実の物としてくれた、目の前の小さな店主に言った。


「……ありがとな、リーデルを受け入れてくれて」


 盗賊によるまさかの“お礼”に、リタの丸眼鏡がずり落ちた。


 やがて、リタは一呼吸置いたのち、眼鏡の位置を直すと、乱れた長い髪をワシャワシャとしながら__


「……急に素直になるなよ」


 と、うつ向きながら言った。


 その様子を見たクロは当然、彼の性格通り、最高の笑顔を見せてリタをからかおうとしてぶん殴られるわけだが、割愛する。


 クロは、もはや何個あるのか分からないたんこぶを擦りながら、仕切り直した。


「ま、研究好きなら、お前んとこで役立つと思ってたしな」


 クロがさりげなく言うのに対し、リタは少しだけ笑うと、ぽそっと呟いた。


「優しいねぇ、クロは」


 先ほどのからかいが効いたのか、今度は形勢逆転と言わんばかりに、リタが楽しそうに言う。


「そんなんじゃねぇよ」


 クロはぷいっ、と顔を背けると、歯痒そうに言った。


「魔王の支配下でもない奴を地下牢に入れてたところで、何か聞き出せるわけでもねえしな。だったら有効活用してやろうと思っただけだ」


「さて、それは本音かねぇ?」


「言ってろ」


 楽しそうなリタを後に、クロはアンヌたちの元へと歩き出した。


 その後ろ姿に、リタが声をかける。


「そういやさ」


「まだなんかあんのかよ」


 クロが不機嫌そうに振り向くのもお構い無しに、リタは言った。


「前に、アンヌを追放しない理由の八割は『面白いから』とか言ってただろ?」


「そんなことも言ったかな」


「じゃあ、残りの二割は____」


 そう聞きかけた時、店からリーデルが、“綺麗な飾り”を手にしながら飛び出してきた。


「店長! この前採ってきた鉱石で、アンヌにブローチを作って……みた……のだけど……」


 と、リーデルがそこまで言いかけた時に、外にいたクロと目が合った。


 リーデルは一瞬固まり、やがて真っ赤に頬を染めると、またそそくさと店に戻っていった。


 そんな新人店員の、いろいろと初々しい姿を見届けていたリタとクロだったが、やがてクロの方がニヤっと笑い__


「残り二割は、聞く必要ねえだろ」


 そう言って、また歩き始めた。


「……ほんと、アンヌは人たらしだね」


 リタはやれやれ、とため息を吐きながら、店へと戻っていった。

今回はこれで、一応完結となります。ストックが無くなったので……。


『実は有能』ではなく『本当に無能』、『追放される』ではなく『追放しない』など、逆張りも逆張りの作品ですが、書いていて楽しかったです。ここまで読んで下さった読者の皆様、本当にありがとうございました!


追記:高評価をつけてくださった皆様、重ねてお礼申し上げまする……! この溢れんばかりの感謝の念をどうしてもお伝えしたく、この場を借りて書かせて頂きました。改めて、この作品の読者様、評価してくださった神々に感謝を!

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