表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

【プロローグ】有能パーティ、出陣

 冒険物語における“森の中”とは、いつだってどこか鬱蒼(うっそう)としている。


 大抵の場合、やたら人を迷わせる森だったり、入ってはいけない禁忌の場所だったり……。“森”というフィールドには、なにかと危険なイメージが付きまとう。


 事実、そんな森の中にて、まさに今、危険と隣合わせの青年が一人。


「____はぁっ、はぁっ」


 青年は、一定のリズムに沿って、息を吐いては再び、体内に空気を入れていた。それに合わせて、地面の枝を割り、砂利を蹴飛ばしていく。


 切迫した状況による駆け足であることは、誰の目から見ても明らかだった。


 その切迫した事態の原因が、彼のすぐ後ろにつく。“それ”は、青年から一時も目を離さず、まるでケモノのような眼差しで_____



「__グルァアァアアッッ!!」


 ……の、ようなではなく、三メートルはくだらない、巨大な体躯の熊のようなケモノが、青年の細い首をかっ切る好機を、今か今かとその巨大な手を構えながら、追いかけ回していた。


 森の中に、軽やかな足取りで駆ける音と、大地を抉るような重厚な音の二種類が響き渡る。


 そんな、命懸けの追いかけっこの道の先に、また、別の登場人物が待ち構えていた。


 その人物____“少女”は、こちらに向かってくる青年と大型モンスターの逃走劇を、少し怯えた表情で見据えながら、


「……クロ、準備……できたよ」


 と、小さく呟いた。


「はぁっ、はぁっ……。さすが魔法学園首席のフィルちゃん。魔法の展開はえーな」


 少女に対し、からかうように返す“クロ”と呼ばれた青年は、その少女__“フィル”に、続けてアイコンタクトをとった。


 それに合わせ、少女は小さく頷き、横へと退()ける。再び、導線上にクロとモンスターだけが残った。


「……さぁて、アンヌはうまくやれるかな」


 息を切らしながら、クロは独り言を呟いた。それに構うことなく、モンスターが少しずつ、クロとの距離を詰めていく。


 やがて、ほぼ攻撃が通るくらいの距離に達した。このままモンスターが手を振り降ろせば、がら空きのクロの背中に、間違いなく致命傷となる爪痕が刻まれることとなる。


 当然、そのような状況で攻撃しないほど、野生の生き物は甘くない。理性なく、躊躇(ちゅうちょ)なく、対象を仕留めるだけのひと振りが、クロに迫った。


 その直前____


「っっと、危ねっ!」


 クロは身を屈め、その場でスライディングをした。そのすぐ後ろ……先ほどまでクロの背中が存在した位置を、間一髪でモンスターの大爪が空を切る。


 そんな、それぞれが息の詰まる一連の動作をしたのち、さらにそこから想定外の事態が発生した。


「ッガァ!?」


 なんと、その場でモンスターの巨体が()()()()のだ。


 対し、クロはそのまま体勢を立て直し、直ぐ様、背後のモンスターへと向き直った。その顔には、どこか(あざけ)るような笑みが浮かんでいる。


「……ま、あんな巨体で爆走してりゃ、衝撃も半端じゃねぇだろうよ」


 言葉も分からないであろうモンスターに、クロはそう吐き捨てると、身に付いた土汚れを軽く撫で払い、


「これが《リフレクター》ってやつか。壁にぶつかるだけでも痛ぇのに“反射作用”まで働いたら、さすがにのびちまうよな」


 どこかニヤついたトーンでそう呟きながら、モンスターと自分を(へだ)てている、うっすらと青みがかった《魔法の壁》を軽く叩いた。


それに(ともな)い、腕がバチン、と逆方向へ投げ出される。クロは苦笑いしながら「いちち……」と患部を擦った。


フィルが発動した《リフレクター》の下を直前で潜り抜け、モンスターだけが弾き飛ばされる……。それが、クロの考えた作戦の要領だった。


「さすがクロ……。『リフレクターで弾いたモンスターがもがいてるうちに簡単に倒しちゃおう作戦』、上手くいったね」


 横からフィルが小さく笑いながら、クロに言う。対し、クロはジト目で、


「いやなんだその長い上にクソダサな作戦名は。ガリ勉首席ちゃん、センス無さすぎじゃない?」


 と、ツッコんだ。フィルは「あぅ」と声にならないか細い音を喉から鳴らすと、うつ向いたまま、ゆるいボブの髪をもふもふと撫でた。


 ……と、そうこうしているうちに、モンスターが自力で立ち上がろうとし始めた。髪を触るのをやめたフィルが、今度はその手を口に当て、アワアワとした表情でクロに言葉を投げ掛けようとする。……が、言葉になっていない。


 そんな慌てふためく仲間の《魔法使い》と、再起寸前の大型モンスターを交互に見ながら、クロは「やれやれ」とわざとらしく首を振ると____


「__今だ、アンヌ」


 先ほどの独り言にも表れた人物の名前__“アンヌ”を、今度は、はっきりとした口調で呼び出した。


 そして、その刹那。


「__まかせて」


 モンスター近くの茂みの中から、女性の透き通った声色が響いた。いや、というよりも()()()()()、と表現するのが正しい。


 それほどに、その音は繊細で、知的な風味を含んでいたからだ。その声色だけで、その人物の人となりを想像できてしまうほど、それはそれは聞き心地の良い『音色』だった。


 しかし、それだけには留まらない。


 発声と同時、その(ぬし)が茂みから素早く、高く上空へ翔び出した。そこに映る光景は……。


 一言で言えば、“天界(てんかい)からの使者(ししゃ)”だった。細い身体を包む白銀の鎧は、その色合いと質感から、まるでオーロラを身に(まと)っているのかと見紛(みまが)ほどに美しい。


 そして、そのオーロラの光に遜色(そんしょく)ないほどの顔立ち。全てを見透かすかのような、(あわ)(あお)の瞳に、綺麗に通った鼻筋。軽く閉じられた唇は、桜の花びらのように小さく、しかし(こころざし)の高さを表すかの如く、一文字に結ばれている。


 その、“天界からの使者”が空を舞うと同時、一つに(たば)ねられた、瞳と同じ『蒼』で(いろど)られた(つや)やか髪が、彼女の軌跡(きせき)を残すかのように後へと続いた。


 ひとつひとつの動作、そして完成された容姿が、高貴かつ気高さの表現として強く発せられる。その姿は、まるで美術品のそれに近い__もはや“絵画”そのものであった。


 その気品の象徴であり、この場面における絶対的な主役にして、《魔法騎士》の称を持つ少女__“アンヌ”が、自由落下の勢いのまま、もがくモンスターの頭上へと舞い降りていく。


そして、その右手に構えた、細く、美しい____






「……あ、やばっ、これ《ひのきの棒》じゃん!」






 ___細く、(もろ)い《ひのきの棒》で、モンスターの頭をぺちん、と叩いたのであった。

一話目を読んで下さり、ありがとうございます。


息抜きに書いてくので、わりと短いかも。続けようと思ったら続けるので、どうか生暖かい目で見て下さいまし。


感想や評価を頂くと泣いて喜ぶタイプです。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ