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スリンガー -シングル・ショット-  作者: 速水ニキ
第6話 生け贄の賛美歌
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生け贄の賛美歌 p.1

 とある地下深くの空洞に、人の手により整備された礼拝堂が作られていた。


 暗い地下とは違い、そこの構造物は白を基調としたデザインとなっており、神聖な空間を作ることを意識していたのが見てとれる。


 その広めの礼拝堂を埋め尽くす限りの人々が集まっていた。


 全員が白いローブで身を包み、同じく白いフードで顔を隠していた。


 すると、礼拝堂の中央に設置された演台に、一人の男が立つ。


 男は集まった人々と同じ白いローブの上から豪奢なケープをかけており、金の装飾をつけた祭司帽を被っている。


 男が演台の前に現れると、人々は歓喜の声をあげ、あるものは叫び、あるものは嗚咽を漏らす。


「あぁ、司教様! 司教様ぁ!」


「ステラ様、お声をお聞かせください!」


「獣神教に光あれ!」


 ステラと呼ばれた司教は人々に手を振り、その度に集まっていた者全員が狂ったように叫ぶ。


 三十代後半と見受けられるステラは高い鼻と魚のように見開いた目で礼拝堂内の人々を見渡し、満面の笑みを浮かべる。


「ステラ・ルーチ・ダンジェロ四世だ。今日という日を皆で迎えられることを、私はとても嬉しく思います!」


 血走った目はどこか焦点があっておらず、だが確かな意志を込めてステラは声を上げる。


 再度湧き上がる歓声に両手を広げて静め、演説を続ける。


「私達は長年、息を潜め、獣神じゅうしん様に祈りを捧げてきた。組織とやらのスリンガーどもから隠れ続け、獣神様の安否を願い続けた。だが、そんな日々も、今日、ここで終わるのです!」


 握り拳を高らかに上げ、ステラの想いに答え、信者達も拳を上げる。


「さぁ、我々の神を迎えましょう!」


 高揚した様子でステラがそう叫び、演台の足元が開く。


 中から、一匹の獣が現れた。


 その獣は人間とほぼ同じ大きさの蛇のような姿をしている。


 頭部の周りには触手を幾つも生やしてたてがみを思わせ、触手の先端には鋭利な牙を剥いた口角がギラリと光る。


 獣は体表からぬるりとした液体を漏らしながら、ゆっくりと人々が群がる中心へと這い、獣が通った後には水溜りが出来上がる。


 信者達は跪き、獣へ祈りを捧げ、涙を流す。


「皆、お分かりですね? 今世界中で同じ儀式が行われています。これも全て、死の淵アビス様と十傑(じっけつ)の皆様を迎えるため!」


 礼拝堂を灯していた巨大な焚き火台の炎が揺らぎ、そこに邪術を施された遠隔映像が表示される。


 表示された映像は合わせて九つ。


 それぞれの映像にも似たように大量の信者が集まり、それぞれ別の姿を模した獣を讃えていた。


「皆、今日、この日をもって神の一部となるのです!」


 ステラが叫ぶと同時、獣達が吠えた。


 ステラがいる礼拝堂の獣、映像の先に映る獣達が、信者達へ襲い掛かる。


 獣達の牙と触手は容易く人間達を引きちぎり、血の雨を降らす。


 だが、その光景を見ても誰も恐怖の声を上げず、むしろ歓声が場を包みこんでいく。


 獣達は集まった人間達の間を駆け回り、触手と牙を縦横無尽に振り回し、血肉をぶちまけていく。


「あぁ、あぁ! 来る、帰ってくる! 我らの死の淵アビス様が!」


 ステラは膝から崩れ落ち、感極まって大粒の涙を流しながら、目の前の地獄絵図に愛を持って歓喜する。


 すると、ステラの少し後ろから、ぱちぱちと拍手をしながら男が一人歩み寄る。


「いやぁ、これはすごい。皆嬉しそうに散っていくね」


 くせ毛の黒髪とピアスを揺らし、軽薄そうな薄笑いを浮かべて現れたのはルストだった。


「ルスト、私は嬉しさと悲しさが今、同居しています。私もあの中に加われないのが悲しい、だが、これから獣神様に仕えることの出来る名誉に幸せを感じずにはいられない!」


「よかったねぇ、ずっと段取り頑張ってたもんなぁ」


 ルストは地面に崩れ落ちているステラの背中をさすると、ステラが勢いよく立ち上がり、ルストを指差す。


「ルストぉ! 貴方はこれからも教団の代理者エージェントとして支え続けなさい! これからが本番なのです!」


 これ以上ないほど盛り上がっているステラとは裏腹に、ルストは「あー、はいはい」と面倒そうにステラから一歩後ろへ距離を取る。


「儀式が始まったのはいいけど、もうちっと時間がかかるんだろ? 一応時間稼ぎの策はあるから、俺はちょっと地上に戻る。スリンガーの皆様も流石に何かしら嗅ぎつけてそうだし」


「良い、良い心がけ、良い忠誠心ですぞルスト! 私達はこれから二人三脚で獣神様を支えていくのです!」


 ステラはルストに抱きつき、嗚咽を漏らしながら叫ぶ。


 ルストは「いや気持ち悪いな」と小さく呟きつつ、目の前でまだ繰り返される殺戮の嵐を眺める。


「さぁ、ここからがお楽しみだ、スリンガーの皆さん」

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