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スリンガー -シングル・ショット-  作者: 速水ニキ
第5話 亡国の王/虚空の暗殺者《後編》
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亡国の王/虚空の暗殺者《後編》p.13

 私は本当に何をしているんだ。


 店のすぐ外に立ったリーエンは呆然としながら箒をはく。


 こんなものが何になる。


 そう言ってリーエンは箒を店の壁に立てかけ、自分も壁に寄りかかると、ナイフと砥石を取り出し、それを研ぎ始める。


「おいおい、テメェ店の前で物騒なもん出すんじゃねぇよ」


 ふと聞き覚えのある声がし、リーエンは嫌そうな表情を浮かべて声の主を見る。


 ジークは塞ぎつつある傷を未だ包帯で巻いている状態だが、両足でしっかり歩くまでは回復していた。


「お前、今までそんなことしてサボってたのか?」

「……悪いか?」


 リーエンはおずおずとナイフと砥石を懐にしまう。


 その様子を見てジークはぼりぼりと頭をかいた。


「ハァ、サボり方がなっちゃいねぇ。まさかお前が暗殺術以外はてんで不器用だとは思わなかった」


 癪に触る言い方にリーエンは眉をひそめるが、ジークはいつもの偉そうな態度で両腕を組む。


「シュイとの約束だ。テメェは日常生活を満喫する術を身につける必要がある。まずは俺様が直々に有意義なサボりを伝授してやる」

「は?」

「こい、ガキ共!」


 ジークの声が響くと、ぴょこりと少し遠くの曲がり角から子供が数名現れる。


 たまに保護者と店に訪れる子達だ。確かシャムともボール蹴りをしていたのも何度か見かけた。


「王サマー、早く遊ぼー」

「あれ、この人も王サマのシヨウニン? 喫茶店の人だよね?」


 子供達はワラワラとジークの周りに集まりつつ、物珍しげにリーエンを眺める。


「こいつはリーエン、俺様の唯一の国民だ。使用人はメリッサとシャムの方だと言っただろ」


 子供達は、そうなんだー、とジークの言うことを真に受け、次にリーエンへと関心を移す。


「お兄……お姉ちゃん? 一緒にサッカーしよう!」


 人懐っこいのか、少年の一人がリーエンの手を取り、近くの広場へと引っ張ろうとする。


「ま、待て。私は遊ぶとは一言もーー」

「王の命令だ。ガキどもの遊びに付き合え」


 どうにかその場から逃げようとするが、子供達の非力な手がそれを阻み、ジークも珍しく威圧的ではなくどこか落ち着いた雰囲気で命を下す。


 根負けしたリーエンはため息を吐き、子供達に引かれるままついていく。



 子供達との遊びはほんの一時間ほどで終わった。


 リーエンは終始戸惑いながらジークと子供達と共に、加減しながらサッカーを付き合った。


 この遊びの何が面白いのか分からなかったが、遊んでいる中子供達がひたすら笑い、ボールを蹴るのに夢中な姿をずっと眺めた。


 日は沈み始め、子供達は満足げに笑ってリーエンに手を振る。


「リーエンの兄ちゃん、また遊ぼうな!」

「違うよ、お姉ちゃんだよ」

「え? えーっと。じゃあ、リーエン! ありがとう!」


 無邪気に笑う子供達はそれぞれリーエンに礼を言って去っていく。


 リーエンは両目を見開き、思わず小さく手を振り返していた。


「礼なんて、言われるほどのものなのか」

「こんなことも知らんのか。こりゃ本格的に教えこまねぇとな」


 未だ戸惑うリーエンにジークはいつものように眉間にシワを寄せるも、穏やかだった。


「こういうのを積み重ねていくぞ。テメェは国民らしく俺様についてこい」

「……ふん。せいぜい私に愛想を尽かされて寝首をかかれないことだ、王様」


 何故か胸の中の憑き物が消えたような気がし、リーエンは無表情ながらもその声色はどこか明るい。


 すると、二人の肩に背後からそれぞれ手が置かれた。


 そこには、いつもの仏頂面ながらも凍え切った目をしたメリッサと、大粒の涙を浮かべたシャムが立っていた。


「それで、十分サボれたかしら?」

「今月生活費やばいんだよー、私達頑張らないと餓死しちゃうかもなんだよー!」


 二人とも口調は違えど本気で店の経営に必死になっている。


 これも私の知らない世界の一端か、とリーエンはメリッサとシャムに襟首を掴まれて店に引き戻されつつ、そう思いに耽った。

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