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スリンガー -シングル・ショット-  作者: 速水ニキ
第5話 亡国の王/虚空の暗殺者《後編》
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亡国の王/虚空の暗殺者《後編》p.10

 船上の甲板には獣で溢れかえっており、上空から飛来してくるスリンガー達を迎え撃つ。


 甲板に置かれていたコンテナを突き破って出てきた植物型の獣達は、頭に相当する花びらを包み込み、それを開く勢いで人間の頭一つ分の大きさの種子を打ち出す。


 種子の弾丸は落ちてくるスリンガー達目掛けて放たれるが、スリンガー達はそれを各々の銃撃で撃ち落としていく。


 落下中であればある程度の回避は容易だが、パラシュートを開いてからでは被弾率が上がる。


 リーエンはそれを察し、高台にいる獣を順番に排除しにかかる。


 空間跳躍の穴を開き、そこに飛び込むと、船の一番高い屋根を獣が一体陣取っていた。


 突然現れたリーエンに気づき、植物型の獣の蔦が複雑な軌道を描いて襲いかかる。


 だが、リーエンは後ろ手に持っていた黒い球を床に叩きつけると、それは一気に黒い煙を辺り一面に撒き散らし、ただでさえ暗い空間をさらに闇色に染め上げる。


 視界を奪われた獣は必死に蔦を振り回すが、一向に空を切るばかりだった。


 リーエンは右目の邪眼によって暗がりだろうと煙の中であろうと鮮明に状況を観察することが出来る。


 無闇に放たれる攻撃は障害になるはずもなく、容易く獣の背後を取り、銃を取り出すと躊躇なく獣の頭に弾丸をお見舞いした。


 すぐに次の獣を撃たねば。


 次の標的を探すためにリーエンは辺りを見渡そうとした時、船全体が大きく揺れる。


 甲板が何本もの巨大な蔦によって突き破られ、大量のコンテナが海へと投げ出されていく。


 コンテナの群れを押しのけて現れたのは、先日倉庫街で戦った巨大な花型の獣だ。


 蔦の一本に、以前のように白いスーツを着た男が一人立っていた。


 男はリーエンを捕捉すると、忌々しげに睨んでくる。


「やぁ、お前はあの王子といた付き添いか。この船に潜入したのもお前だな?」

「ライアット!」


 リーエンはマガジンに入った銃弾を全てライアット目掛けて放つ。


 だが、その全てが花型の獣が操る蔦によって一蹴される。


「エンジンをやられるまで一度も気付かれず、且つ単独でここまでやる技量。お前、ルオ家の生き残りか?」


 ライアットは苛立たしげに眉を潜ませ、リーエンの出方を探ってきている。


「それがどうした?」

「は、大層な忠誠心だ。国が滅んでなお、王族ですらない奴の元でせかせかと働くとは。流石殺戮の機械と化した一族だ」

「言いたいことはそれだけか」


 リーエンは右目を見開くと、ライアットを守る巨大な蔦が、ぐにゃりと湾曲する。


 途端、空間跳躍がピンポイントに蔦の一部にのみ発生し、蔦の一部が真四角に切り取られ、切られた部分が消え去る。


 痛みが獣に伝わったのか、花型の獣が叫ぶ。


 リーエンは間髪入れず銃弾をライアットに放つが、別の蔦によってそれは塞がれる。


「チィ!」


 火力が足りず、トドメを刺しきれない。


 元々潜入と暗殺が専門のリーエンでは、火力を要する状況は不向きだ。


 上空から降ってくる増援が来るまで時間を稼ぐしかないか。


 そう見積もるも、ライアットはニヤリと笑う。


「甘いなスリンガー。この獣は見ての通り、大量の人間を殺して“深化“し続けた最上級の獣だ。そう簡単にやられはしない!」


 花型の獣が叫び、船の側面部から更に蔦が追加で飛び出る。


 それは上空から降ってくるスリンガー達へと伸び、空にいる団員をはたき落としにかかる。


 各々が邪術で対処し、攻撃を塞ぎ、応戦するも、全員が対処できるわけもなく、数名が海へと落とされていく。


 数名は船に乗り込むことに成功するも、待ち構えていた別の植物型の獣に襲われ、リーエンが相手取っているライアットと巨大な大型の花型の獣まで対処ができない。


「次はお前の番だ、忠犬!」


 ライアットがリーエンを指差し、追加で現れた蔦がリーエンを四方八方から襲う。


「くっ!」


 すぐさま空間跳躍をし、敵の蔦に飛び移るも、次々と別の蔦がリーエンを襲い、防戦一方を強いられる。



 勢いに乗って落ちていくメリッサ、シャム、ジークは、眼下に広がる戦場を見て警戒の汽笛を鳴らす。


「あの蔦まずいって!」

「パラシュートを開いて減速した瞬間、敵の餌食になるわね」


 焦るシャムとは裏腹にメリッサは冷静に状況を分析する。


 すると、両腕を組んだまま真っ逆さまに落ちるジークが二人の先をいく。


「俺様は限界まで“溜め”に入る、それまで邪術は発動できねぇ。テメェらで俺様のフォローをしろ」


 なんであいつはこんな状況でも偉そうなんだ。


 メリッサは心の中でツッコミつつ、船上を観察する。


「シャム、接近してくる蔦を対象して。私は着陸の衝撃を和らげる。二人ともパラシュートは使わずに降下するわよ」

了解コピー!」


 メリッサの指示に従い、三人は一塊に集まって空中落下を続ける。


 船に接近すると巨大な蔦の群れが三人を襲ってくる。


「とりゃあああ!」


 シャムが叫び、邪術で取り出した獣の心臓を握り潰す。


 心臓の持ち主だった獣の邪術が発動し、襲いかかってくる蔦に雷撃を落とし、全てを消し炭にしていく。


「降下準備! 私から離れないで!」


 叫ぶメリッサの背中を、シャムが抱きしめ、ジークはシャムの背中に己の背中を乗せる。


「ん? メリッサもしかしてこれって……」


 今更メリッサの意図と己の危機を察したシャムだが、遅かった。


 船の甲板へ接近直前、メリッサは左手を前にかざし、全力の爆炎の邪術を発動。


 降下してくるメリッサ達の進行方向にいた蔦が一気に焼き焦がされていく。


 爆炎の衝撃はメリッサ達にも反動し、降下してきた勢いを相殺する。


 メリッサとジークに挟まれたシャムには相当な負荷がかかり、内臓及び全身が衝撃と共に尋常ではない勢いで圧迫され、思わず空中で嘔吐する。


「いた! リーエン!」


 視界の端でリーエンの姿を捉え、メリッサは叫ぶ。


 落下の勢いを殺し切り、三人は分散して船の甲板へと着地にかかった。

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