亡国の王/虚空の暗殺者《後編》p.9
エンジンルームの前に立っていたマフィアのメンバーを、的確にナイフで急所を刺したのち船の外へと空間跳躍させ、リーエンはついに目的地にたどり着く。
ここに来るまでリーエンが鉢合わせた敵は全員始末したが、そろそろ異変に気づかれる頃だ。
だが、その前にエンジンさえ止めることが出来れば作戦自体はほぼ成功したと言っても良い。
扉をこじ開け、部屋の中央に設置されているエンジンに、懐にしまっていた粘土爆弾を投げつける。
「レイゲート、そちらはどうだ?」
『ちょうど私も到着した。流石だリーエン、君の実力は組織の中で群を抜いていると言っても過言ではない』
「御託は良い、早く済ませるぞ」
再びエンジンルームの外に出たリーエンは、腕に巻いていた端末を操作し、起爆準備に入る。
「カウントファイブ。五、四、三、二……」
リーエンのカウントに合わせ、もう一方の船に侵入していたレイゲートも起爆スイッチを押す。
両輸送船が同時に爆発を起こし、船は停止に追い込まれた。
船が衝撃と共にサイレンを鳴らし、ルストの体をわずかに揺らす。
「おっと」
特に慌てる様子もなく、現在いる操舵室に設置されたモニターに目を落とす。
船後方にあるエンジンに異常をきたしているらしい。
すると、もう一方の船に乗っているライアットから通信が入ってきた。
『ルスト! 聞こえるか! こちらは敵の奇襲でエンジンをやられた!』
「あぁ落ち着いてライアットさん。こっちも同じようにエンジンをやられた。はは、奴さんやるねぇ。すぐに体制を持ち直したどころか、こちらに一切気づかれることなく二箇所同時に奇襲を仕掛けてきた」
『笑っている場合か! すぐに獣をコンテナから出して応戦だ、もう一度あいつらを返り討ちにする!』
ぶつりと一方的に通信が切られ、ルストはやれやれと首を横に振って操舵室の外を見る。
大量のコンテナが積まれた甲板の上に、スリンガーが一人立っていた。
そのスリンガーはフルフェイスのマスクを被り表情は隠されているが、その視線は心なしかルストがいる操舵室を真っ直ぐに捉えているように見える。
「は、貧乏くじはこっちか。バレッツ相手に雑魚の獣だけで太刀打ちできるかっての」
ボヤきつつルストが近くのパネルのスイッチを押すと、甲板に置いていたコンテナが一斉に開き、中から大量の獣が飛び出してくる。
次々と湧いてくる獣に臆することなく、スリンガーが駆け出すと、その姿は一瞬にして消え、同時に獣達が尋常ではないスピードでその頭に風穴を開けられていく。
「はい、それじゃあ俺はこの辺りで退散させて頂こうかな」
貴重な戦力がやられているにも関わらず、ルストは他人事として捉え、慌てるマフィアの構成員達を放って操舵室を去る。
外に出たルストは、少し遠くで停止しているライアットの船を視界に捉え、空から何かが降って来ているのが見えた。
「王子と金髪女はあっちに行ったか、惜しいねぇ」
ルストが見る先に、上空から飛来してくるスリンガー達が次々とライアットがいる船へと突撃していた。
『ゴーゴーゴー!』
ヴィクセントの合図と共に、続々と団員達が輸送機から飛び降りていく。
シャムは少しだけ遅く飛び降り、空から落下しながら輸送機へと振り向く。
全員が飛び降りたのち、もう二人の陰が輸送機から飛び出る。
『……ん? おい、待て、最後に誰か出て行かなかったか?』
ヴィクセントの震える声が通信越しに聞こえてくる。
メリッサ、シャム、ジークの順番でヴィクセントへと通信が繋がる。
「ごめんなさい、ヴィン」
「ヴィン、ごめん!」
「わりーなヴィン」
『ふざけてんじゃねーぞテメェらぁ!』
今日何度目と分からぬヴィクセントの悲痛な叫びをバックに、三人はリーエンが先行した船へと飛ぶ。




