亡国の王/虚空の暗殺者《後編》p.7
作戦内容を伝えるヴィクセントの話を、リーエンと他の団員達が静聴する。
ヴィクセントの立ち姿がホログラムで映し出され、当の本人は組織の本部にある司令室から指示を言い渡す。
『もう一度、作戦内容のおさらいだ。アーセナルファミリーは現在、奴らが所有している船に乗り込んで海外への移動を企んでいる。奴らを逃すことで獣の闇取引が他の国でより活発化してしまう。我々組織はそれを見過ごさない』
ヴィクセントの隣に、輸送機の眼下を漂う船二隻が映された。
『ニ隻中一隻はレイゲートのみが単独潜入し、乗組員全員の排除を担当する。残り一隻については小隊を一隊船に潜入させ、船の駆動周りを破壊。のちに強襲部隊を送らせてファミリーの殲滅を遂行する』
バレッツほどの実力者であるレイゲートを一方に放り、もう一方に潜入小隊を宛てるのは悪くない作戦だ。だが……
リーエンは作戦内容について考え込んでいると、いつの間に隣に誰かが立っている気配がした。
視線をそこに向けると、レイゲートが音もなく、さもしばらく前からいたぞとでも良いたげに立っていた。
「この作戦について、君はどう思うかな?」
挨拶も無しに突然の質問をされ、リーエンはレイゲートの意図を汲めず戸惑うが、作戦内容と現場の状況を改めて精査する。
「成功率は八割。現状集められる団員とこの作戦内容であれば、上々だろう」
「あぁ、だが不安要素は残る。そうだろう」
「……この作戦は、各船に潜入したそれぞれの団員が互いに足並みを揃えて潜入、工作をする必要がある。どちらか一方の対応が遅ければ、敵に見つかる可能性はあがり、もう一方も危険に晒される」
「そうだね。それから?」
「お前の実力と小隊の練度を鑑みると、お前が力をセーブして小隊側のスピードに合わせる必要がある。成功率を下げる起因はそれだろう」
「だが、君はこの作戦を確実な成功に導く方法を知っている。違うかな?」
「……」
リーエンの視線とレイゲートの下面の奥に潜む瞳がぶつかった気がした。
ライアットは何を捨ておいてでもここで確実に仕留めたい。
煮え滾るような感情を抑え、リーエンはレイゲートに黙って頷く。
「クク。それでは、また後で」
そう言ってレイゲートは輸送機の隅へと歩き去った。
リーエンはホログラムに映る船を睨み、心の中で覚悟を決める。
『総員、作戦開始準備!』
ヴィクセントの命に従い、輸送機のハッチが開かれる。
空圧により輸送機内に突風が発生し、機材や団員達の衣類が激しく揺れる。
先行して船に潜入する分隊計八名とレイゲートがスタンバイしていた。
全員が渦による肉体強化をし、支えなしで風圧に耐えて直立することが出来ている。
シャムや他の後続部隊は座席に着席し、その光景を眺めていた。
リーエンはチラリとシャムがいる方へ向くと、シャムはまたしても二の腕を振り上げて「大丈夫!」と口パクで応援のエールを送っていた。
どう応えて良いか分からず、リーエンは戸惑いながら視線を外す。
輸送機は船の上空、真上の位置に辿り着き、オペレーターからの通信が入る。
『カウントを始めます。十、九……』
作戦開始のタイミングが近づき、リーエンは耳にかけた通信機をそっと撫でる。
それはヴィクセントへと回線が繋がり、急に通信が入ってきた向こう側では『ん? なんだ?』と素っ頓狂な声が響いた。
「すまない、ヴィン。悪いようにはしない」
リーエンはそれだけ言うと、隊列を無視して走り出す。
同時に、少し遠くにいたレイゲートも駆ける。
突然の行動に、団員達がどよめくのを無視し、二人は同時に輸送機から飛び降りた。
『六……、え、ちょ、待ってください! レイゲート、リーエンが先行しました!』
『なんだとぉ!』
通信先でヴィクセントとオペレーターの悲鳴が聞こえるが、リーエンは自由落下を始めた体を制御し、頭を真下に向けて落下先を確認する。
眼下の船がみるみると接近し、リーエンは右眼の邪眼を発動する。
すると、レイゲートとリーエンの眼前に黒い空洞が一つずつ出現し、それはあっという間に二人を飲み込む。
空間跳躍の穴は二人をそれぞれの目的地である敵マフィア船の屋根へ転送することに成功する。
体を転がし、屋根に一人到着したリーエンの耳に早速連絡が入った。
『こちらも到着した。では、踊ろうか、リーエン』
「遅れるなよ、レイゲート」
リーエンは屋根から船内へと侵入し、駆ける。




