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スリンガー -シングル・ショット-  作者: 速水ニキ
第5話 亡国の王/虚空の暗殺者《後編》
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亡国の王/虚空の暗殺者《後編》p.4

 ヴィクセントに呼ばれたメリッサとシャムは、呼び出し人の執務室にて両手を後ろに組んで静聴の体制を取る。


 ヴィクセントはボリボリと後頭部をかきながら組織のナンバーツーとは思えないズボラな態度で


「あー、先の任務については完全に俺の監督不行き届きでお前達を無駄に危険な目に合わせちまった。悪かったな」

「それはあの時に重症を負わされた団員に言って。それよりもあのレイゲートとかいう奴、すぐにでも除名するべきよ」

「そうしたいのも山々だが、あいつのこれまでの功績や現状の人手不足を考えるとそう簡単にはいかん。だが次の任務では俺が直接指揮を取ってあいつの手綱を握る」

「次の任務……アーセナルファミリーのライアットを追うのね?」

「あぁ。それについてなんだが、その任務にはシャムとリーエンについてもらいたいんだ」


 どこか言いづらそうにするヴィクセントに、メリッサはゆっくりと目を座らせ、「私は?」といつもより声のトーンを一つ下げて伺う。


「……ジークの見張りを頼みたい」

「……は?」

「しょうがねーだろ。今回のターゲットがあいつの国の仇の一人だったと判明したんだ。あいつは重体だろうが絶対に体を引きずってでも仇討ちに行くに決まってる」


 メリッサの反応を事前に予測していたのだろう。

 ヴィクセントは頬杖をついて面倒そうにメリッサに説明を続ける。


「次の任務は潜入工作後の強襲作戦を想定している。リーエンは潜入任務には必須でシャムは敵の不意な反撃へ対処が得意。だったらお前が得意な一対一の状況が起こりにくい本任務では留守番をしてもらった方が良い」

「嫌。私も出る」

『はは、子供かよメリッサ』


 陽気に茶化すが、今回ばかりはルーズが正しい。


 不機嫌な表情をするメリッサに、まぁまぁとシャムはすかさず宥める。


「命令だ。お前はジークの護衛。以上、解散」


 にべもなくそう言われ、メリッサとシャムは執務室から半ば追い出された。


 廊下を歩いている間、メリッサの表情はいつも通りだが眉をピクピクとひくつかせる。


「だ、大丈夫だよメリッサ! 次は敵に作戦がバレないように動くし、ヴィンが直接指揮を取ってくれるし、」


 あわあわとシャムは両手をパタパタさせ、メリッサの熱を冷まそうと試みる。


 そんな彼女を見てメリッサは逡巡したのち、はぁ、と大きなため息を出す。


「まぁ、さっきはあぁ言ったけれど……ヴィンの人員配置に筋は通っているわ。不満だけど」


 もう一度ため息をつき、メリッサはシャムとは違う曲がり角へと向かう。


「あれ、メリッサどこ行くの?」

「ジークの様子を見にいくわ。そっちは作戦の準備があるでしょ?」


 足取りは重いが、任務と言い渡された以上、仕方ない。


 メリッサはひらひらとシャムに手を振り、ジークの病室へと向かった。



 メリッサはジークの病室前にたどり着き、ドアノブに手をかけたところで中から声が響いてきた。


「……どうしてあの時私を庇った?」


 リーエンの声だ。


 咄嗟に扉にかけた手を離し、中の様子を伺う。


「私はお前達王族の道具でしかないはずだろ、なぜ見捨てなかった」

「何度も言わせんじゃねぇ。俺様のエゴだ」


 珍しく苛立たしげに言うリーエンに対し、ジークは怪我もあるせいかいつもの威圧感が少しだけ和らいでいる。


「訳が分からないんだよ! お前は私にどうして欲しいんだ! 私はお前達王族のために暗殺の道具として育てられた、私は姉さんが幸せになれるならなんでも良かった! 姉さんがいない今殺し以外に何もない私から、お前はそれすらもやめろと言うのか!」

「違う……俺は、ただお前、にーー」


 リーエンは抑えていた感情をぶちまけるが、ジークの声は途中で途切れた。


 無理もない。未だ傷は塞がっておらず、話すだけでも大分体力を消耗してしまうのだろう。


 リーエンは答えを得られないまま、病室の出口へと歩み寄ってくる。


「いいさ。お前はそこで寝ていろ。姉さんの仇は、私が討つ」


 病室を出たリーエンはジークに一切目をくれずその場を去っていった。



 リーエンの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、メリッサは病室の廊下の曲がり角で腕を組んで立っていた。


『うわぁ、メリッサちゃん盗み聞きとは良い趣味してんじゃねーの』

「茶化さないでルーズ。入るタイミングを失っただけよ」

『ただのお目付役だろ。わざわざ部屋に入らなくても適当に近くにいれば良いんじゃねぇの?』

「……」


 しばらく無言で何かを考えたメリッサは不意に歩き出す。


『んあ? どこ行くんだよ』

「ちょっと忘れ物を取りに」


 疑問を浮かべるルーズを放り、メリッサはどこかへと歩き出した。

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