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スリンガー -シングル・ショット-  作者: 速水ニキ
第4話 亡国の王/虚空の暗殺者《前編》
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亡国の王/虚空の暗殺者《前編》p.13

 リーエンとジークが作戦区域に駆けつける数刻前、メリッサとシャムはレイゲートと対峙し、彼の持つ銃からは硝煙が上っていた。


「レイゲート。どういうつもり」


 メリッサが警戒して問うと、レイゲートは無言で銃口を向けてくる。


 メリッサとシャムも咄嗟に銃を向けるが、レイゲートはその照準を彼の真横へと向け発砲した。


 すると、建物の陰に隠れていたスリンガー数名が飛び出し、レイゲートの攻撃から難を逃れる。


「クソが、どうして分かった!」


 スリンガーの一人がそう叫び、銃を抜いてレイゲートへと向けた。


「ふむ。聴取のために数名は生かす必要があるが……」


 レイゲートは言い終わる前に、その姿を一瞬にして消す。


 その動きはメリッサの動体視力ですら、レイゲートを捉えることは出来なかった。


 瞬き一つした時にはレイゲートはスリンガー達の背後に現れる。


 レイゲートの腕が残像を残して動くと、数発の発砲音が響いてスリンガー達が倒れる。

 レイゲートは倒れた者達をしげしげと見下した。


「初めから目安は付けていたよ。マフィア連中はこちらの襲撃をあらかじめ私たち組織の離反者から聞かされていた。作戦通り素直に建物へ突入した者は白、突入するフリをして退避した君たちは、黒だ」


 呑気にそんなセリフを漏らすレイゲートに、メリッサはツカツカと歩み寄ると、その胸ぐらを乱暴に掴む。


 いつもの冷淡な表情は保ってはいるものの、瞳の奥には煮え上がるほどの怒りの色を宿す。


「ふざけないで。貴方は敵の罠を知っていて私達を突入させたの?」

「今ここで言い争っている場合かな」

「話しを逸らすな」

「いやいや、君たちのチームメンバーが危機に陥っているようだ。私個人としてもそれは不本意な事態でね。すぐに駆けつけるべきでは?」


 レイゲートはメリッサに胸ぐらを掴まれたまま、遠くを指さす。


 メリッサがそこに視線を移すと、少し遠くで大型の獣が出現し始めたのが見えた。


「……話しは後。シャム、行くわよ!」

「うん!」

「私も同行しよう」


 レイゲートも後に続き、三人はリーエンとジークの元へと駆けた。



「良い光景だ、王が跪いてくださった」


 ライアットが高笑いを上げ、膝立ちのジークを見下ろしながら銃の装填を始めた。


 ジークは数発の弾丸をその身に受け、さらに花型の獣が振るった触手が腕、胴、足にそれぞれ一本ずつ貫かれ、身動きが取れずにいた。


 身体の中のエネルギーである渦は身体強化に回すことも可能だが、流石にこれほどの損傷があるとまともに戦闘を継続させることはできない。


 リーエンは毒によって痺れる体を必死に動かし、喉の奥から声を無理やりひねり出す。


「どういうつもりだ! 私は捨て置け! 私はお前の道具に過ぎないのだろう!」

「……違う、お前は、俺の……」


 何かを言いかけたジークだが、血反吐を吐いてしまいその後の言葉が続かない。


「は、思ったよりあっけなかったが、もう終いにしよう」


 ライアットが指を鳴らすと、花型の獣が蔦に生えた幾つもの花から、種子の弾丸を雨のように降らす。


 こんな終わり方があってたまるか。


 そうリーエンの頭をよぎった途端、飛来してきた種子全てが破裂した。


 なんだ?


 疑問の答えはすぐに訪れた。


「リーエン! ジーク!」


 シャムの声が少し遠くからする。


 巨大な獣の眼下に、シャムが右手を輝かせて走ってきていた。


 シャムが手に持った獣の心臓を潰すと、邪術が発動し、音の波が追加で射出された種子を先ほどと同様に破裂させていく。


「チィ、邪魔をするな!」


 ライアットが忌々しげに叫ぶと花型の獣は蔦を二本振りかぶり、それをリーエンとジークへと落とす。


 だが、蔦は突然発生した炎の爆発により燃え盛り、花型の獣が大きくのけぞった。


 爆炎により生まれた風圧は偶然にも宙を漂う毒の花粉を吹き飛ばし、リーエンの呼吸が少しだけ安定を取り戻す。


 すると、リーエンの隣に、爆炎の邪術を発動させたメリッサが宙から着地し、同じようにレイゲートも現れた。


 メリッサは邪術の反動により、またしても左手を大きく火傷させ、苦悶の表情を浮かべていた。


「メリッサ、レイゲート。何がどうなっているんだ」


 リーエンは先ほど邪ノ眼で見た光景を思い出す。


 確かにレイゲートはメリッサに銃口を向けていたはずだ。


 すると、メリッサは珍しく嫌悪感を露骨に表してレイゲートを睨む。


「こいつ、私たちを餌に組織の離反者を炙り出していたのよ」


 メリッサの言葉に、リーエンはこれまでの経緯をなんとなく察することが出来た。


 だが、レイゲートは悪びれる様子もなく、目の前のターゲットを見据える。


「アーセナルファミリーのリーダー、ライアットか。早々に討たせてもらおう」


 途端、リーエンの背筋に尋常ならざる寒気が走る。


 それは隣に立つレイゲートによるものだった。


 ライアットもそれを感じたのか、目を大きく開いた。


「防御体制! 撤退するぞ!」


 その一言で花型の獣はその大きな花びらを素早く閉じ、ライアットを包み込む。


「ふむ」


 レイゲートはすかさず銃を取り出し、発砲するが、銃弾は次々と現れる蔦と花びらの壁によって防がれていく。


 花型の獣はツボミの形態になると、蔦のほとんどを地面へと突き刺し、もぐらのように地中へとその身を沈めていった。


「待て、ライアット!」


 リーエンは逃すまいと立ち上がるが、毒がまだ体の中を巡っており、すぐに足をもつれさせて倒れる。


 紫色に染まっている空に亀裂が走り、異界の崩壊が始まった。


 おそらく敵の誰かが避雷針リードランスの破壊に成功し、異界を解除させたのだろう。


 異界の崩壊により、戦場は元の空間へと戻り始める中、遠くではライアットが連れていたマフィアの部下達や獣が撤退を始める。


 異界展開中に破壊された倉庫や建物は元通りに修復され、戦闘により命を落とした亡骸は異界の崩壊と共に消滅していく。


 一瞬にして空間に静けさが戻り、メリッサ、シャム、リーエン、ジーク、レイゲートの五人と、各配置で生き延びたスリンガー達が現実空間に戻ってきた。


 逃げられた……


 リーエンは状況を認識し、姉の仇を逃し怒りが込み上るのも束の間、近くに立っていたジークがうつ伏せに倒れた。


「ジーク! ジーク!」


 シャムが大声で叫んでジークに駆け寄り、流石のメリッサも血相を変えて通信機を開く。


「衛生班を至急こちらに! 重傷者一名!」


 周りが慌てる中、リーエンは気を失って倒れているジークをただ眺めるしかなかった。



 その日、メリッサ達は初の任務失敗という敗北を味わった。

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