亡国の王/虚空の暗殺者《前編》p.12
取った。
己の邪術を使ってライアットの背後へと瞬間移動したリーエンは、容赦なくライアットの首元へとナイフを振るう。
だが、そのナイフを振り切る直前、視界が歪み、急激な頭痛と嘔吐感が襲い、平衡感覚が狂う。
「……うっ!」
攻撃は歪み、ナイフはライアットの首元の手前を通過し、空振りに終わる。
「チッ!」
ライアットはリーエンに気づくと、横腹を蹴り上げ、無理矢理距離を取らせる。
「かはっ!」
空気の塊を吐き出し、リーエンは巨大な蔓の上を転がる。
すぐに体制を直そうと立ち上がるも、途端に膝から力が抜けて崩れ落ちた。
これは、毒?
視界の端に、蔓の上に生えた花を捉える。
花からは粒子のような花粉が飛んでいることが分かり、ライアットの周りにその花粉が大量に漂っていることに、今更ながら気づいた。
完全な自分の失敗だ。
作戦開始前にジークと話した時から、頭に血が上っていた。
そして先ほどライアットが国を滅亡に導いた一端を担いでいた発言を聞き、完全に我を失っていた。
己の失策に怒りを覚えるも、体の平衡感覚が完全に失われ、身体中を激痛が走って身動きが取れない。
「邪魔をしてんじゃねぇぞ!」
ライアットの怒号を合図に、花型の獣が伸ばした細い触手がリーエンを襲う。
ここまでか。
ふと、リーエンの脳裏に、姉のシュイの姿が思い浮かぶ。
『私は戦場であの人の傍にいられないから、貴方が支えてあげてね』
ごめん姉さん。約束、守れなかった。
飛来する触手は先端を槍のように鋭く変形し、空気を裂いてリーエンを狙う。
覚悟を決めて目を閉じるが、毒の痛み以外の激痛が未だ襲ってこない。
すると、熱い液体がリーエンの顔を撫でる。
ふと目を開けると、目の前に大男が立っていた。
ライオンのような金色の立髪と筋骨隆々な体格。
ジークだ。
三本の触手に腕、胴、足を貫かれ、返り血がリーエンに飛び散っていた。
「勝手に突っ込んでんじゃねぇぞ」
背中で語りかけるジークは、ライアットに対峙する。
だが、ジークの体を貫く触手は暴れ回り、流れ出る血を辺りへ飛び散らせる。
「ははは! 見立て通りだな! お前の破壊の邪術は万能に見えるが、つけ入る隙はある。破壊できる対象は一種のみ。毒が蔓延しているこの空間であればお前は毒と物理的な攻撃のどちらか一方を防いでも、もう一方は防げない」
笑い上げるライアットは懐から抜いた銃を乱射する。
ジークは腕をクロスに組み、致命傷となる箇所は防ぐが、弾丸は腕に食い込み、腹を裂き、足を射貫く。
「何をしている、反撃しろ!」
毒でうまく動けない中リーエンは必死にジークへ叫ぶ。
だが頭では分かっている。
破壊の邪術で体内に入り込んでくる毒を破壊しながら敵の攻撃も同時に破壊するほど、邪術を巧みに操ることが出来る者は少ない。
なら、敵の攻撃を数発食らってでもその場から動いて反撃に転じるべきだ。
それをしないのは、自分を敵の凶刃から守るため?
目の前の現状を捉え、リーエンは首を横に振る。
違う、お前はそんな人間じゃない。
私の姉を見殺しにし、復讐の道具のために私を生かしたに違いない。そうでなければ私だけが生き残った理由が説明つかない。
銃弾は次々と放たれ、ジークの身体がその度に震え、血が飛ぶ。
いくつもの弾丸を受けたジークはとうとう膝を地面に着く。




