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スリンガー -シングル・ショット-  作者: 速水ニキ
第4話 亡国の王/虚空の暗殺者《前編》
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亡国の王/虚空の暗殺者《前編》p.9

 リーエンとジークが一触即発する少し前、メリッサとシャムが配置された班は敵拠点への接近が開始されていた。


 全員が指定された配置に着いた時点で強襲をかけ、一気に敵を制圧する作戦だ。 


 メリッサは周りにいる団員達を眺め、小さくため息をつく。


 すると、先ほどからキョロキョロとあたりを見渡していたシャムがメリッサの肩を叩く。


「ねぇねぇメリッサ。私たちの配置、人少なすぎない?」

「えぇ、私もそう思う。ここが戦場の真っ只中になるなら、人手を多くするべきだけど」


 メリッサ達が配置されたのは倉庫街のほぼ中心の建物。


 そこに獣が特に多く収容されていることから人数を割くべきだが、配置された団員の数が明らかに少ない。


 残りの小隊は三々五々に分けられ、他の小さな倉庫で待機し、万全の体制だ。


 対し敵陣営は、見張りはほぼ立てず、マフィアのメンバーらしき人影の多くがメリッサ達が張っている建物の中でうろついている姿を窓越しで確認できた。


 ただし、ターゲットであるマフィアのリーダー、ライアットは見当たらない。


 メリッサを含め全員が倉庫の屋根で待機し、合図と共にラペリングで窓から倉庫内へと侵入する算段だ。


 作戦の段取りとしては手堅い。だが、中途半端に小隊を散らすくらいなら、全人員をこの巨大拠点に割り当て、徹底的にターゲットを取り押さえるべきではと思う。


 その僅かな懸念がメリッサの中で警戒の鐘を鳴らし始めた。


「シャム。邪術の発動準備をして。何か嫌な予感がする」


 メリッサの指示に、シャムは一瞬だけキョトンとした表情をするが、すぐに頷く。


「分かった。よくわかんないけど、すぐに出せるようにするね」


 そう言ってシャムの近くに九つの炎の球体が出現する。


 鼓動を不規則に刻み続ける心臓は、シャムの周りを浮遊して待機する。


 すると、計ったかのように通信機が開かれ、レイゲートの声が漏れてきた。


『作戦開始まで十秒。カウントを開始する』


 十、九、八、と通信越しでレイゲートの秒読みが進み、メリッサを含めた他の団員達が屋根の端に立ち、腰に巻きつけたザイルを握る。


『三、二……作戦開始』


 合図が上がると、少し遠くから光の柱が天へと登り、空を紫色に染める。


 空間湾曲による空間移動が発生し、倉庫街一帯が別次元の空間、異界へと置き換えられていく。


 同時に、メリッサ含む団員全員が倉庫の屋根を飛び降りた。


 屋根の縁に固定したザイルを支点に、倉庫側面に設置された窓へ吸い込まれるように体が大きく振られる。


 メリッサとシャムは勢いをつけたまま窓を突き破って倉庫へと侵入。


 二人は倉庫二階の通路に降り立ち、視線の先は吹き抜けとなっており、一階に置かれた大量のコンテナが見えた。


 他の団員達も次々と倉庫内へと入っていく中、メリッサはすぐに異変に気づいた。


 ガスの匂い?


 嫌な予感と共に、一階で見回りをしているマフィアのメンバーを警戒する。


 すると、見張り達は騒音を立てて入ってきたスリンガー達に反応するわけでもなく、虚空を眺めて立ち尽くしていた。


 アレは獣へ変身する前の予兆。


 メリッサは敵の意図を察し、一階のコンテナへ飛び降りようとする団員達へ手を伸ばす。


「待って! これは敵の――」


 言いかけるも、遅い。


 カチリ、と金属同士が擦れる音が虚しく響き、豪炎が下の階から巻き上がる。


 爆風はメリッサの静止ごと焼き、一階へと飛び降りかけていた団員達が飲まれる。


「メリッサ!」


 炎がメリッサにも襲いかかるが、数瞬前にシャムが間に立ち、右手に持った獣の心臓を床へ叩きつける。


 水流の球体がメリッサとシャムを包み、爆発の衝撃から二人を守る。


 だが、衝撃までは完全に吸収できず、二人は水の球体ごと倉庫の外へと吐き出された。


 水の守りを突き破り、メリッサとシャムは地面を転がる。


『うおぉぉ! 今の危なかったな!』


 今まで空気を読んで黙っていたルーズも、流石に声を上げた。


 メリッサはルーズを握ったまま地面に伏し、顔をあげて爆発した倉庫を睨む。


 倉庫の壁のほとんどが吹き飛び、燃え盛る炎は爆発に巻き込まれた団員が全滅したことを告げる。 


「――っ!」


 声は上げずとも胃が煮えくり返るほどの怒りと1人も助けられなかった後悔からメリッサは歯を食いしばり、地面を拳で叩く。


「奇襲が読まれていた……?」


 燃える倉庫を見て呆然と立ち尽くしていたシャムが思わず呟く。。


 すると、炎の中からヨタヨタと人影が歩いて出てきた。


「チッ。さっきの見張りはフェイク。初めから獣を立たせていたのね」


 迫り来る脅威にメリッサはすぐに立ち上がり、戦闘態勢に入る。


 だが、炎の中から人型の獣が二十、三十、と現れ、その数は増していく。


「コンテナの中に潜んでた獣全部出てきたよ、どうするメリッサ?」

「……」


 数で押し通すはずが、ほとんどの団員がやられた今、その前提は既に覆されている。


 撤退するべきだ。


 そう結論づけようとした時、遠くから走ってくる音がした。


「おい! 大丈夫か!」


 それはメリッサ達と同時に突入するはずの団員達だった。


 あの爆風の中、どうやって。


 頭に浮かんだ疑問を口にする前に、シャムが無邪気に手を振る。


「よかった! 何人か無事だったんだね!」


 だが、その陽気さも、一発の銃弾がかき消す。


 どこかから飛来した弾丸は、メリッサ達へ向かっていた団員の一人の胸を撃ち抜き、地面へ崩れ落ちた。


 銃声の方向に振り向くと、そこにはフルフェイスのヘルメットを被った男が立っていた。


「……へ?」


 目の前で倒れた味方を見て、シャムは気の抜けた声を出す。


 その場にいた全員が驚くも、銃声は止まらず、二発、三発、と矢継ぎ早に銃弾が放たれ、メリッサ達の前にいた団員が倒れ伏す。


『おいおいおい、何がどうなってんだよ!』


 ルーズが叫ぶ。

 いつもなら黙らせるメリッサだが、流石に目の前の光景にそれすら忘れる。


「レイゲート。どういうつもり」

「……」


 メリッサの問いかけに、仮面の男は無言で応える。

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