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スリンガー -シングル・ショット-  作者: 速水ニキ
第4話 亡国の王/虚空の暗殺者《前編》
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亡国の王/虚空の暗殺者《前編》p.8

 夕暮れを背景に、リーエン達は目的の倉庫街から少し遠くに位置する丘の上にいた。


 そこには他のスリンガーも集まっており、およそ二十名ほどが勢揃いしていた。


 集まっている団員達を見渡していると、メリッサの腰に吊られたルーズが点滅する。


『おー、すげーな。こんな大勢でやる任務なんて初めてじゃねーの?』


 無邪気にルーズが声をあげた途端、周囲にいた団員達の視線が一気にメリッサへと向く。


『……ありゃ?』


 団員達全員がメリッサだけでなくリーエン達へも怪訝な視線を向けてきた。


「あれが噂の喋る銃を持った女か」

「他の面子も危ない奴らばっかだな」

一匹狼メリッサ暴走列車シャムサボり魔リーエンときて王様気取りジークか。関わりたくねぇな」


 ひそひそと声をあげ、その場にいた団員達がリーエン達から距離を取る。


 こんなこと珍しくもない、と感じたリーエンは他三人を視界の端で様子見するが、全員似た反応を示した。


『おいおいどんだけ避けられてんだよお前等』

「いやぁ、照れるなぁ」

『褒めてねぇぞ』


 たはは、頭を掻くシャムに、珍しくルーズがツッコミを入れる。


 そんなやりとりを、くだらないと思って眺めていたリーエンは背後に気配を感じ、振り向いた。


「やぁ諸君、よく集まってくれた」


 先程まではいなかったはずのレイゲートが、集団の中心に立っていた。

 その場にいる全員がレイゲートの挨拶が出るまで気づかず、一瞬のどよめきが上がる。


「皆、急遽集まった者同士で戸惑っているかもしれないが、目標が行方を眩ませる前に決着をつけたい。これから編成を伝えるが、作戦に合わせて班の編成も組み替えが発生する。協力してくれると嬉しい」


 レイゲートは周りが驚いている様子を観察しつつ、仮面で覆われた顔をリーエンに向ける。


 仮面の奥でどんな表情をしているのかは分からないが、自身に視線を送られている気がし、リーエンは嫌悪感を感じた。



「で、なんで俺様とテメェが後方待機なんだよ」


 集合地に取り残された形で、リーエンとジークは二人きりとなっていた。


 それはこちらのセリフだ、と声に出そうとしたが、リーエンはグッと堪えてレイゲートが下した指示を思い出す。


 数にものを言わせる制圧作戦でマフィア及び獣を討伐する段取りらしく、複数の敵を相手取るのが得意なジークは後詰として温存したいとのことだった。


 リーエンは切り札であるジークの護衛を担うことになっているが、正直メリッサやシャムと同じ前線で適当に参加し、隙を見て残りの仕事を他に丸投げしたかった。


「私がそれを知るはずないだろう。声がかかるまで黙っていればいい」


 リーエンはジークの愚痴をさらりと流すつもりだったが、どうしても言葉の端々に嫌味が混ざってしまう。


 早くこの空間から去りたい。

 そう心の中で吐露していると、それを察したのか、ジークが面倒そうに眉をひそめる。


「おいリーエン。ちょうど二人しかいないから言うが、テメェが俺様に向ける殺気、俺が気付いてないと思ってたか?」


 ピクリ、とリーエンは眉を潜める。


 遠くに見える倉庫街を眺め、今頃メリッサ達が潜入を開始している中、リーエンは背後で佇むジークへ振り向く。


「それがどうした」

「俺を恨んでいるんだろう」

「……」


 一瞬の沈黙が訪れ、リーエンは黙してジークを見据える。


 心なしか、ジークの眉間のシワがいつもより少し緩み、肩の力を抜いたように見えた。


「前にも言ったが、お前には俺様を殺す権利がある。恨みが晴れるならいつでもやれ」


 ジークの眼差しには一切の迷いがない。


 しかし、それすらもリーエンにとっては感に触れてしまう。 


「あぁ、今すぐ殺したい程度には恨んでるさ。だが私には姉さんとの約束がある。それがある限りお前に手出しはしない」


 ふつふつと胸の内から湧き上がる感情を抑えつつ、リーエンは務めて平静を装う。


「なぁリーエン、俺様は国民の無念を晴らすために組織にいる。お前はそれに付き合う必要はねぇ。テメェには普通の生活をする選択肢もある」


 そのジークのセリフに、リーエンは沸騰していた苛立ちが頂点に達するのを感じた。


「他にも救えた国民ではなく、よりにもよって私を生かすことにしたお前が、それを言うのか」


 震える手を伸ばし、リーエンはジークの胸ぐらを掴む。

 ジークは動じることも怒ることもなく、静かに見つめ返す。


「分かってるだろ。私は殺し以外の生き方を知らない」


 ジークの胸ぐらを掴む手により力を込め、リーエンは僅かに肩を震わせる。


「認めろ、王様。お前は選択を間違えた。お前は私と姉さん、どちらを救うか問われた時、一時的な感情に流されて私を生かすことを選んだ。復讐の道具として使うためだろう? 姉さんのような市民ではなく、お前達王族に絶対的忠誠を誓う暗殺者をだ。それを今更、普通の生活に戻れというのは無理な話しだ」


 リーエンは今にも体に仕込んでいるナイフを今すぐ目の前の男に突き立てたい衝動に駆られるが、どうしても頭の中に響く声がそれを遮る。


『私は戦場であの人の傍にいられないから、貴方が支えてあげてね』


 国が滅ぶと同じく命を落とした姉の声が、リーエンの衝動を阻む。


 奥歯を強く噛み締め、リーエンはジークを突き放す。


 いつもであれば既にジークの怒号と共に鉄拳の一つでも飛んでおかしくない。


 だが、ジークはそうするわけでもなく、ただリーエンを静かに見据える。


 驚くことに、ジークのいつもの険しい表情が、少しぎこちなく見えた。


「違う……俺は――」


 そうジークが言いかけた時、リーエンとジークの真上を音速を超える速さで黒い影が通り過ぎる。

 

 二人が空を見上げると、幾つもの獣の骨で作られた槍、避雷針リード・ランスが飛んでいく様子が見えた。


 避雷針リードランスが作戦区域の真ん中へ飛んでいくと、着地点から紫色の柱が立ち上る。

 

 空が紫色に染まり、異界の展開が発生し、作戦が開始されたことを告げた。


 すると、続け様に強大な爆発音が遠くの倉庫街から鳴り響いた。


 瞬時に反応した二人は倉庫街へ視線を移すと、中心部あたりが火の海となっている。


 作戦と大分展開が違う。


 本来であれば数に物を言わせた奇襲による制圧を行った後、後詰めとしてジークがトドメを刺すはずだ。


 ピピ、と間髪入れず、淡白な機械音が耳にかけていた通信機から鳴る。


 チッ、と舌打ちするジークが耳にかけていた通信機を開き、通信先からの声がリーエンにも繋がった。


『ターゲットへの奇襲が失敗。敵の反撃が開始され乱戦を強いられている。直ちにターゲットへの攻撃を開始しろ』


 通信が一方的に切られると同時、ジークとリーエンは作戦区域へと駆ける。


 あの爆発が発生した箇所には、メリッサとシャムが配置されていたはずだ。

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