亡国の王/虚空の暗殺者《前編》p.7
街から離れた倉庫街の一室にて、白いスーツを着た男がノートパソコンを開いて作業をしていた。
男はどこか苛立たしげにモニターを睨みつけ、キーボードを叩く。
すると、部屋の扉がノックされ、男の集中力が音の先へと削がれた。
「……誰だ?」
「やぁライアットさん。また来たよ」
男、ライアットの許可を待たずして、扉が開かれた。
「ルスト、貴様よくその面を下げて来れたな」
部屋に入ってきたのはレザーコートとピアスが特徴的な男、ルストだった。
何が面白いのか、ルストの口角はつねにつり上がっており、本人の軽薄さがにじみ出ている。
「あはは。苛立っているねぇ、ちゃんと休んでいるかい?」
「ここ最近、我々が保有していた研究施設や獣の保管所を片っ端からスリンガーとやらに破壊され続けているんだ。挙句に誰かさんの報告が毎度遅いがために後手に回り続けている」
ぎろりとライアットはルストを睨むが、男は大袈裟に両手を上げる。
「まぁまぁ、そう殺気を立てないで。良い話を持ってきたから」
ルストはヘラヘラと怪しい笑いを浮かべて、携帯端末をライアットの机に置く。
「スリンガーについてもう少し深く分かってきたよ。あいつらは“組織“というグループに所属して集団で行動している。アンタも分かっての通り、あいつらは獣を殺すことができる」
「獣は通常兵器で殺すことは不可能なんだろ。奴らのタネは掴めたのか?」
「あぁ、それがやべーんだよあいつら。獣が獣を殺せるのを利用して、生捕にした獣の身体を銃に改造して武器にしてんだよ」
ライアットの許可なくソファに深々と座ったルストは、手を銃に見立てて人差し指をライアットに向ける。
不服そうに顔を顰め、ライアットはノートパソコンを閉じる。
「ふぅ……良い話をしに来たのではないのか?」
「まぁまぁ、話はここからだ。そのスリンガーの集団がこちらに近々強襲をかけてくる」
「……なんだと。どうしてそれが分かる」
「奴さんも一枚岩じゃないってことさ。内通者からおおよその作戦をもらっている。ついでに陣形や人員もな」
ルストはポケットから携帯端末を取り出し、それをいじる。
「奴らの手の内は分かっているんだ。返り討ちに出来る可能性は十分にある。それと、強襲作戦に参加する奴らの中に面白いのもいるんだよ」
ルストがテーブルに置いた端末には、獅子を思わせる金色の髪をたなびかせた、ジークの姿が映し出されていた。
「こいつは……エルランドの王子? 生きていたのか」
「その通り。こいつは敵さんが詰めの時に使われる想定だが、これを撃退できれば一旦は相手を退けることができるさ。その後“教団”と合流してトンズラする寸法よ」
「そうそううまく行くかは知らんが……ふん、なるほど。まだエルランドの生き残りがいたとはな」
「悪い話じゃないだろ?」
不敵に笑うルストにつられ、ライアットはギラリと歯を覗かせて画面に映ったジークに怨嗟のこもった視線を送る。
「あぁ。かつて私を国から追い出した恨み、もう一度晴らさせてもらおう」




