亡国の王/虚空の暗殺者《前編》p.6
リーエン、メリッサ、ジーク、シャムの四人は喫茶店の窓を閉め切り、喫茶店の客用に用意したテーブルに囲んで座り、テーブルの真ん中に置いた端末からホログラムを照射させていた。
ホログラムにはヴィクセントがリーエン達と回線を繋げ、テーブルの上にヴィクセントの全身が映し出されている。
『あー、レイゲートの奴め。なんで俺が説明する前に先にそっち行くかね』
ボリボリと後頭部をかき、ヴィクセントは面倒そうに言う。
勧誘のために無断で先行したのだろうと、リーエンはレイゲートの行動を推察するが、この話を今しても話がややこしくなると察し、傍観する。
『ともかく、奴の依頼とこちらで継続している任務の目的は同じだ。リーエン、あいつに渡された端末を』
リーエンはヴィクセントに言われた通りにテーブル中央にそれを置くと、ホログラム状のヴィクセントの隣に別のホログラムが浮かび上がる。
そこには複数人の男達を引き連れた、白いスーツを着た男が立っている。
『作戦内容は、いよいよお前達が間接的に戦っていたマフィア、アーセナルファミリーの取り押さえとライアット・キルステンの討伐だ』
ヴィクセントのブリーフィング内容に合わせてホログラムは切り替わり、今度はマフィアのアジトである倉庫街の衛星写真が写される。
『組織宛に何者かからアーセナルファミリーについてのタレコミがあった。ファミリーは長年、この街の倉庫街を拠点に、獣の売買を行ってはライバルマフィアや警察らを淘汰し続けてきた。お前達も知っての通り、リーエンに現地へ単独潜入を遂行してもらった時にこの情報の裏取りはできた。
あとはアーセナルファミリーさえ叩けばこれ以上この街に獣が増えることもないはずだ』
テーブルに腰掛けていたメリッサが、ゆっくりと手を上げてヴィクセントの説明を止める。
「一つ、確認を」
『なんだ?』
「このアーセナルファミリーは全員人間なの?」
『あぁ、その通りだ。獣の存在はほぼ知られていないはずだが、こいつらは獣の習性をよく理解して利用してやがる』
ヴィクセントの説明に合わせてホログラム上にさきほどのマフィア達が映し出され、ファミリーのボス、ライアットと幹部数名が契約者候補者としてリストアップされた。
『普段なら獣複数体が相手になるが、今回はそれに合わせてマフィア集団も加算される。敵の数も多いと想定され、合同で他のチームと組む必要がある。レイゲートの指揮の下、お前達を含めて計五班で敵を掃討する作戦だ』
作戦内容を映し出していたホログラムが閉じ、残ったホログラム上のヴィクセントがメリッサ達を見渡す。
『今回の敵は人間もいる。やれるか?』
つまりは人の命を奪うことになる。
暗にそう説明するヴィクセントだが、メリッサは背もたれに身を委ねて事も無しげにコーヒーを飲む。
「保護者じゃあるまいし、余計な心配をしないで。組織に入った時から覚悟は決まってる」
シャムはうんうんと頷き、ジークは当然だと言いたげに黙して両腕を組む。
そんな三人を眺め、リーエンは己の手のひらへ視線を落とす。
一瞬だけ、手に大量の血がこびりついているように見えたが、それはすぐに消えた。




