亡国の王/虚空の暗殺者《前編》p.4
白い光が瞼を貫き、リーエンは無理やり意識を覚醒させられた。
重い瞼をこじ開け、身を起こす。
ベッドのすぐ隣にある窓ガラスに反射する自分自身が視界に入り、それを無意識に睨み返した。
いつもは一つに結っている髪も寝ている際はほどいているため、毎朝起きるたびに寝ぐせが少しついていた。
起きる直前まで見ていた過去の夢を思い出し、リーエンは右目を抑えて歯噛みする。
「……最悪の目覚めだ」
誰に聞かれるわけもなく、ぼそりと声を漏らす。
すると、外からバタン、と車のドアを閉める音が聞こえてきた。
リーエンが寝ている二階の窓から下をのぞくと、建物の前にフードトラックを停めたジークがトラックから荷物を下ろしている様子が見えた。
リーエンは両手で握ったままだったブランケットをさらに強く握りしめ、眼下で仕事をしているジークへ殺意の籠った視線を送る。
メリッサとシャムは朝のルーティーン通り、喫茶店の開店準備のため、メリッサはテーブルの清掃を、シャムはキッチンで食べ物の下準備をしていた。
開店前の扉を開き、ジークがフードトラックから下ろしてきた荷物を抱えて店に入ってくる。
「たく、リーエンの野郎、まだ寝てんのか」
ジークは苛立たし気に言い、店の奥へ荷物を運ぶ。
「しょうがないよ、昨日はリーエン一人だけで敵地に侵入したんだよ。気が張って疲れちゃったんだよ」
シャムは優しくフォローを入れるが、ジークはフン、と鼻息一つでそれを一蹴する。
メリッサはちらりと天井を見てすぐに視線を戻す。
「それにしても全く降りてこないわね。少し前に起きたような音がしたけれど」
仕事柄どうしても気配には敏感であるメリッサはそう零し、同じく気づいていたシャムは苦笑いする。
「またサボってやがるな。いい加減手伝いに来やがれ」
ジークは忌々し気に二階にいるであろうリーエンを睨んだ。
「そういえば二人は付き合い長いんだよね? リーエンて昔からあまり人となじまないの?」
車から下ろした荷物の検品をしているジークへ、シャムが気兼ねなく聞く。
ジークは品物を取り出す手を止め、昔を思い出しているのか宙を眺めた後、また手を動かす。
「……無口な奴だが仕事はこなしてた方だ。今じゃ見ての通りサボり魔になったがな」
にべもなくジークは答えて黙々と作業を進めていく。
リーエンは起床後、普段着に着替え終えると、店の準備に参加せず、建物の屋根に上っていた。
リーエン達が拠点としている物件は、一階が喫茶店となっており、二階に各々の部屋が用意されている。
二階建ての屋根からでも街をある程度見渡すことが出来、そんな光景を眺めながらリーエンはナイフの手入れをしていた。
今メリッサ達が店の開店準備のために下の階で作業をしているのは知っているが、手を貸すつもりはない。
基本的に必要最低限の義務だけは全うし、他には一切手も貸さないし干渉しないのがリーエンのスタンスだ。
木綿につけたオイルをナイフの刃先に黙々と塗り、刃の艶が増していく。
手入れを終えたナイフを太陽の光に当てて眺めると、刃に反射してリーエンの後方に人影が映った。
途端、何の躊躇いもなくリーエンは後ろへ振り向きざまにナイフを全力で投擲。
空を切り、怒濤の勢いで飛んだナイフは後方の人影へと吸い込まれていく。
だが、その人物はナイフの柄を素手でキャッチし、リーエンの攻撃を防いだ。
「これは驚いた、手荒い歓迎だ」
その人物から声が漏れ、リーエンは無言で立ち上がり、その者と対峙する。




