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スリンガー -シングル・ショット-  作者: 速水ニキ
第4話 亡国の王/虚空の暗殺者《前編》
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亡国の王/虚空の暗殺者《前編》p.3

 気がついた時には、白い壁と天井に囲われた部屋に横たわっていた。


 体中を包帯で巻かれ、ほぼ動けない状態のリーエンは、欠損していたはずの右目の視界が戻っていることに気づいた。


「ここ……は?」


 まだ身体中が痛みで悲鳴を上げている、だがその現象こそリーエンに矛盾を知らせる。


 四肢はもがれ、内臓器官の大半を失い、五感のほとんどが機能していなかったはずだ。


「どうなっている……」


 意識がまだ朦朧としていると、ふと隣に人の気配を感じた。


「目が覚めたか」


 声が降ってくる。

 リーエンが寝ている横で、ジークが椅子に座っていた。


 いつも身に纏っていた王族の服装ではなく、深い緑色のロングコートに袖を通している。


 あれは確か、“組織”とやらに所属する者が着用している団服。


 いや、そんなことはどうでもいい。


 頭を振って余計な思考を寸断する。


「王子! エルランドは……姉はどこに!」


 いつもの冷静さなどなく、リーエンは無礼も構わずジークへ体を乗り出す。


 しかし、ジークはその非礼を咎めるわけでもなく、険しい顔をしてリーエンを見つめる。


 すると、リーエンを背後から引き止める者の手が伸びる。


 取り乱していたからか、白衣を着た医者に気付くのが遅れた。


 年老いた医者はリーエンの肩を掴む。


「落ち着きなさい。まだ体は万全に安定していないんだ」

「安定?」


 そう言われ、リーエンは己の体を見下ろす。


 両手両足は包帯で巻かれた状態だが、それぞれの感覚は僅かにある。


 だが、妙な違和感を禁じえなかった。


 体の細胞が己に訴えかけてくる。“これは私の体ではない”

 手足だけではない。


 体内に流れる血も、それを巡らせる内臓器官全てから違和感を感じ、一種の嫌悪感に襲われる。


 リーエンが抱いた懸念に気づいた医者は、何処か申し訳なさそうに顔を伏せる。


「落ち着いて聞いてほしい。君はここ一ヶ月気を失っていた」


 一ヶ月……

 想像以上に時間が経過していたことに、リーエンは驚くも、思考が追いつかない。


「君はエルランドのクーデターの日、死の際に立たされていた。あの場で早急な手術が必要になり、私が施術した」


 淡々と医者が説明するが、リーエンはなぜかその話の続きを聞きたくなかった。


「時間も、環境も整っていない中で、君の命を繋ぎ止めるのに、多くの血液と移植に使える新鮮な臓器が必要だった」


 これ以上何も言うな。

 すぐにでも医者の口を塞ぎたいが、体が思うように動かず、リーエンはただ首を横に振ることしか出来ない。


「両手両足、内臓九箇所、眼球と三半規管の手術だ。あんな悲惨な現場の中で、人道を守りながらやれる事はほぼなかった」


 震える唇をどうにか動かし、リーエンは脳裏に浮かぶ嫌な予感を言葉へ変換する。


「あの場で死んだ、国民の体を使って、私に移植したのか」


 医者は黙して頭を縦に振る。


 あまりの出来事の連続に今にも卒倒しそうだが、まだ聞かなければならない事がある。

 リーエンは視線をもう一度ジークへ戻す。


「……もう一度聞きます。国は、姉さんはどうなったんですか?」


 一貫して沈黙を保っていたジークは、ゆっくりと口を開く。


「国は、滅んだ。国を守るために戦った者も、王家に仕えた者も、国民も、全員クーデターと獣の群れに飲まれた」

「姉さんは……あの時、まだ息はあった。重症だった私が生き残っている、それじゃあ姉さんは……」

「死んだ。お前かあいつ、どちらを生かすか、選ぶ必要があった」


 ギッ、と歯の奥を噛み、リーエンはまだ自由に動かせないはずの右腕を無理矢理に動かし、ジークの胸ぐらを掴む。


「なぜだ! 姉を助けてくれと、頼んだ! 姉は貴方の婚約者だろ!」


 他人の肉体で縫合されたばかりの体が悲鳴をあげる。


 だがリーエンは構わずジークの胸板へ拳を振り下ろす。


 拳を振るう度に、意識は遠のいていく。


 体力はあっという間に尽き、起こしていた上半身がベッドへ沈む。


 ジークはそんなリーエンを見下ろす。


「お前を生かしたのは、俺様のエゴだ」


 今すぐにでもこの男を殴り倒したい。


 だが、体の力は意識とともに抜けていく。


「ふざ、けるな……」


 意識はまたしても微睡へと溶けていく。


 だが、そんな一幕も過去の出来事であることはリーエンは知っていた。

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