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スリンガー -シングル・ショット-  作者: 速水ニキ
第3話 名無しの猫
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名無しの猫 p.8

 シャムは一連の話を、メリッサの後方を歩きながら伝えた。


「私と、他に拉致された子供皆、いつかは実験に失敗して命を落とすか、肉体のほとんどを獣に作り替えられて獣もどきになるか、心が壊れるのを待つしかなかった」


 下水路に流れる水と共に、シャムは淡々と話し、メリッサはそれを静かに聞き入る。


 シャムはメリッサの後ろを歩きながら、天井を仰ぐ。


「でも、イルマさんは私に名前をくれた後、毎日私の部屋に来てくれたんだ。私がシャムだって教えるために、何度も名前を呼んでくれた。最初は鬱陶しかったけど、段々とこの名前を受け入れるようになっていった」


 声色は決して暗くならず、シャムは過去の映像を眺めるように虚空を眺める。


「それからしばらく、スリンガーが機関を強襲して私達は助けられたけど、イルマさんは戦闘に巻き込まれて行方不明になったって聞いたんだ。まさか獣にされてたなんて……」


 一通りの事情を聞いたメリッサは足を止め、シャムへと振り返る。


「貴方はどうしたい? このままだとそのイルマさんと戦闘になる」


 もしシャムにとって重荷になるのであれば自分が手を下しても構わない。


 メリッサが言わんとしている事を汲み取ったシャムは、さきほどまで顔を俯かせていた時とは打って変り、きっぱりとした表情でメリッサを見つめ返す。


「やるよ。イルマさんを、私の手で止めたい」

「……そ」


 腹はくくった。


 シャムはそう自分自身に言い聞かせ、メリッサもそれを察したのか、それ以上何も言わずに、下水路の奥へと歩き出す。


 なんだ、思ったより人の気持ちを考える人なんだ。


 シャムはメリッサの些細な気遣いを感じると、自然と笑みがこぼれる。


「えへへ」 


 嬉しさのあまり、漏れ出てしまった笑い声がメリッサの耳に届いて振り向かれる。


「? なによ」

「いやーメリッサて意外と優しいんだなぁ、て」

「……行くわよ」


 困惑したような、なんとも言えぬ表情を一瞬だけ見せるが、メリッサはいつもの仏頂面に戻ると、再び進行方向へ向かってツインテールを揺らしながらずいずいと歩く。


「あ、待ってよー」


 含み笑いを浮かべながら、シャムはさきほどまでの暗い表情を置き去りにして走る。



「くそ、くそ、くそ!」


 白い壁に囲まれた部屋の中で、白衣を着た男が一人、台座に設置されたモニターを前に、机を叩く。


 モニター内にはメリッサとシャム、別のルートを走るリーエンと外で待機しているジークを映していた。


 男は携帯端末を取り出し、どこかへと通話をつなげる。


「おい、救援はまだか! アーセナルファミリーの連中はここに向かってるんだろうな!」

『いやぁ、すまない。ファミリーへは連絡入れたんだけど、急な襲撃だったからな』


 通話越しの相手は男にとって非常事態だというのに口調には余裕を感じるほどゆるやかに応答してくる。


「ふざけるな。こちらは異界を展開されて脱出が出来ない状況なんだぞ。あいつらが術を解くかこちらが相手を全滅させない限り私は異界から出られない!」

『まぁまぁ、そう慌てるなって。研究に使ってる獣を放して奴らにぶつければ多少の時間稼ぎは出来るはずだろ?』

「もうやったが獣を完全に操作出来ないのはお前も分かっているだろ! ほとんどの獣が敵の一人へ全員向かってしまった! 二人組がこちらに来つつあるんだ、早く助けに来い!」

『あはは、運が悪いなアンタ。もう少し我慢してくれ。俺も今そっちに向かってるから』


 それだけ言うと、通話越しの男との連絡が途絶えた。


 研究員の男は携帯端末を床にたたきつけ、モニターを睨む。


 そこにはメリッサとシャムが今まさに、男がいる施設のすぐ外に到着した場面がまざまざと映し出されていた。

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