銃士達の邂逅 p.8
緑色の触手が何本も振られ、周辺の木々を切り裂きなぎ倒すが、メリッサはその一つ一つを躱し、握っている銃で撃ち返す。
メリッサは森を走っていた所、目の前の獣と会敵し、戦闘が始まった。
激しい戦いを繰り広げながらも現状把握に努め、ブリーフィングの情報と目の前の敵との齟齬について思案する。
「話がいろいろと違う上に、埒が開かないわね」
何発もたたき込んだ弾丸も、アメーバ型の液体に吸収された途端に溶解されてしまい、なかなか頭まで届かない。
攻めあぐねる中、触手の鞭は振られ続け、メリッサは避ける度に返す刀で弾丸をお見舞いする。
両勢力の戦況は拮抗するが、マガジン内の弾丸を撃ち尽くすと攻撃が止まってしまうメリッサがどうしても不利になる。
銃からマガジンが飛び出し、メリッサの攻撃が止み、アメーバ型は鞭を一斉にメリッサへと振るう。
メリッサを囲うように襲い来る無数の鞭を前に、メリッサは左拳を真下に向ける。
「ふっ!」
息を短く吐くと、メリッサの爆炎の邪術が起動。
拳に邪術発動を模す五芒星が浮かび、メリッサを中心に爆炎が地面を揺るがし、周囲の鞭を焼き払う。
突然の土煙を前に前方の視界を奪われたアメーバ型の獣は警戒するが、煙が晴れるとそこにはメリッサの姿は無くなっていた。
「が……っ……ぎぃ?」
アメーバ型の頭が不思議そうに声を漏らしてメリッサの行方を完全に見失うが、バタバタとコートが風ではためく音が、上空に響く。
『ぎゃはは! 大ジャンプじゃねぇか!』
「黙ってなさいルーズ」
爆炎の衝撃で遙か上空へ飛び上がったメリッサは、ルーズの茶々と扱え切れていない邪術の反動で焦がした左腕の痛みに耐えて苦渋の表情を浮かべる。
痛む腕を押してマガジンを再装填し、真下へ落下しながら銃口をアメーバ型に向ける。
弾丸を円上に連発すると、銃弾は頭を中心に着弾していく。
不意の攻撃が真上から飛来し、アメーバ型の視線がメリッサを捉えるが、遅かった。
降り注ぐ弾丸を避けようと液体内を動く頭目がけ、メリッサは再び左腕から邪術を発動。
炎の拳はアメーバの液体を蒸発させ、落下していく中、頭を鷲掴みする。
メリッサは捕まえたアメーバ型の頭を液体から引き剥がし、地面に叩きつけた。
地面に埋め込まれた頭は身動きが取れず、メリッサを見上げ目玉を震わせる。
「何見てるのよ」
僅かに眉を潜ませて嫌悪感を表し、メリッサは引き金を引いた。
銃声が一つ鳴り、頭の額に弾丸が命中する。
メリッサは躊躇なく頭を蹴り、物言わぬ亡骸になったことを確認するとルーズを腰のホルダーに戻した。
残心するも束の間、メリッサの左腕に激痛が走る。
「チッ」
舌打ちし、己の左手を見ると、コートの裾を大きく焼き払い、左手全体から肘のあたりまで大きな火傷が出来ていた。
『慣れてねぇ邪術無理矢理使うからだなぁ』
「うるさいって言ってるでしょ」
『んで、アレはターゲットじゃねぇんだよな?』
結局黙らないのかこいつは、と諦めたメリッサは痛む左手を庇いながら訓練所がある方角へ向く。
「えぇ。何か予定外の事が起きてるみたい。戻って警告を――」
そうルーズと話し込んでいると、足下に散った液体周りから、ガサリと、草が揺れ動く音がした。
『ん? あ――』
ルーズもそれに気づいたが、時既に遅かった。
メリッサの周りに広がっていたアメーバ型の液体が形状を変え、鋭い針となってメリッサを襲う。
完全なる不意打ちはメリッサに回避の猶予も与えない。
が、液状の刃がメリッサに届く直前、メリッサの前に人影が飛び込み、メリッサを突き飛ばす。
メリッサは突き飛ばされた中、飛び込んできた者の背中が見えた。
ライオンを彷彿させる髪と筋骨隆々な体格、ジークで間違いなかった。
「ラァッ!」
気合い一閃。ジークは雄叫びと共に腕を振るうと、ジークの破壊の邪術が起動する。
メリッサとジークを囲うアメーバの液体に稲妻のような光が走り抜けると同時に、それら全てが強烈な衝撃とともに四散していく。
「――っ! ジーク」
地面に倒れ、間一髪助けられたメリッサ。
ジークはそんなメリッサを、眉間に皺を寄せて睨む。
「退くぞ」
ジークはそう言うとメリッサを軽々と拾い、肩に担いでその場から走り始める。
「な、ちょっと!」
強制的に運ばれ始め、メリッサは暴れて引き剥がそうとするが、視界の端にさきほど撃ち抜いたはずの獣の頭が見えた。
頭の額にある穴からメリッサが放った弾丸が吐き出され、頭がにんまりと笑った。




