お決まりのプロローグ
俺、猪勢海人は享年三十歳にて、さっき死んだ――はずだった。
「なんで生きているんだ? というかさっきまで……」
気付くとそこは、宇宙に浮かぶ神殿のような空間で、この世の人間とは思えないほど美しい女性が立っていた。
「初めまして、猪勢海人さん」
「あ、あなたは……?」
「申し遅れました。私は、女神アメリアというものです」
「本当に人間じゃなかったー! ならここって――」
「神の住む地とでもいいましょうか」
「ということは、やはり僕は……」
「残念ながら……過労死によるものでした」
そう。俺の記憶が正しければ、俺は数分前に死んだはずなのだ。いわゆるブラック企業に勤めていた俺は、意識が朦朧とする中、つい信号を見ずに道を横切ってしまったのだ。
「――ってあれ? 僕の死因は交通事故ではないのですか?」
「はい、過労死の直後で車に轢かれたようです」
どんだけ運悪いんだ俺。しかしこのどこかで見たようなテンプレ展開、まさか……な。
「あのぅアメリア様、これから僕はどうなるんでしょうか?」
「海人さんには、ご自身の潜在意識の希望を基に、地球とは別の星に転生していただこうかと思っていますがよろし――」
「異世界キター! あ……急に叫んじゃってすみません」
やっぱり、最近のラノベお決まりのプロローグだ。しかしまだ俺TSUEEEできることが決まったわけじゃない。これからもらえる転生特典選びは慎重を期すぞ。
「いえいえ、ただでさえ突然の死で混乱しているのですから。しかし、拒否や驚嘆による大声ではないようですね。なぜか最近の地球出身者さんは実に物分かりがよく、すぐにご快諾いただけるので説明の手間が省けています」
それは間違いなくラノベの影響ですよ、アメリア様。あの世界のエンタメは面白かったが、世界自体にはなんの未練もない。
てかラノベの影響すごいな~。いや、ラノベ通りの設定なら、ここに来るのは若くして短い生涯を終えた若者ばかりだから、大体が知ってるのか。
「僕の転生先の異世界には、やはり日本人もいるのですか?」
「異世界というのは、転生先の惑星のことでしょうか? それでしたら海人さんが初めてですよ! 生物が存在する星は無数にあるので、これからも地球出身者が転生することはないかと――」
俺が最初で最後の地球人というわけか。
――って、思った以上に規模の大きい話になってるな。これはいわゆる電脳世界に吸い込まれるのではなく、本当に他の星で転生しちゃうパターンか。
ま、そりゃそうだよね。VRMMOプレイしてたんじゃなくて、現実世界で亡くなってるわけですから……。
しかし元地球人がいないというのは、ライバルがいないと思えばありがたい話だけど、地球の思い出を共感できる相手もいないってことだよね。ちょっと複雑な気分。
それにしても、宇宙人って沢山いるんだな……。さり気なくすごいことを聞いてしまった。
さて、質問したいこともし終えたところで、転生特典選びとしゃれこみますか!