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弟子になった俺だが4

 

「…………今、なんと?」


 俺は聞き間違いかと思った。もう一度問うと彼女は恥じらうように目を反らした。なんだ可愛いぞ。


「人間ではないと言ったでしょう?魔女として悪魔の王と契約して生まれた私は、莫大な魔力を抱えても耐えられる体を与えられた代わりに老いることはできなくなったの。おそらく寿命も人間より長いはずだわ」

「し、師匠……」


 自分を嘲るように不自然な笑みを浮かべて、彼女は俺の膝から起き上がると背を向けた。


「怖いでしょう、こんな得体の知れない女。自然の精霊の力を借りているのに、皮肉なことに私は自然の摂理から見放されたの………気味が、悪いでしょう?」

「師匠、今いくつでしたっけ?」

「23だけど?」


 そんなこと話すから一瞬数百歳超えかと思ったが、なんだ見た目とあまり変わらない年齢じゃないか。


 膝を抱えて視線を遠くへ向けるのは、まさかそれを恥じているのか。世の中の女が望むだろう、若く美しいままでいることがメディアレナには喜びではないのか。いや、これは恥じるというより……。


「…………それでは僕が成人しても、師匠はそのまま若いままだということですか?」

「ええ、いつかリトは私よりも大人になる時が来る」


 昔のお前は俺の正体を知った時も「だからどうしたと言うの?」と、あっけらかんとしていたのに、逆の立場になったら怖いのか?周りの奴らと違う自分が取り残されたようで……ああそうか。


 親しい者に気味悪がられるのが怖くて淋しいか?


「………ふっ」

「リト?」


 小さく息を漏らし肩を揺らす俺を、彼女が怪訝そうに見て眉をひそめた。


「そう、滑稽よね。笑いたければ笑いなさいな、ふふ」

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 俺がそんなこと気にするわけないだろうが、可愛い奴め。


「フハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 サディーン様さすがです!

 俺は前世でサディーン様に願いを乞うた時に、後でしまったと思っていた。次の世で彼女に会う時に年の差を考慮していなかったのだ。

 もしかしたら俺がヨボヨボのじい様になった時にほやほやの赤ちゃんの彼女に会うことも覚悟していた。

 だから実際は彼女が年上だと知り、それでも10程度の年の差ならありがたいと思っていた。俺はメディアレナがシワシワのおばあ様になっても心底愛せる自信と覚悟があったのだ。


「フハ、フハハハハハハハハハ」


 それなのに何この魔女、年取らないって俺の為なのか?そうとしか思えないぞ。

 なんて女だ、最高だな。


「フハハハハハ」

「………感覚魔法応用その1、痺れ」

「フハハハハハ」

『巡りたる時よ、その血の水を留めて流せよ』

「ハハハハハ、ぐっあ、あああ」


 可愛く頬を膨らましたメディアレナが、俺のふくらはぎに魔方陣を指で描いているのは気付いていたが、あまりの幸運に高笑いを続けていたら、突如足が痺れてうずくまった。


「あ、足が……い、いつの間にそんな魔法開発したんです?」

「リトの快感を開発……じゃなかった、リトで実験している時にできちゃったのよ。それより笑いすぎよ」


 おかしいな、なぜ擽られて痺れの魔法ができたんだ?地味な罰だが、効果は絶大だな。

 足を押さえながら顔を上げたら、ムッとした彼女がこちらを睨んでいた。


「ふんだ」

「ご、ごめんなさい師匠」


「ふんだ」ってなんだ、それで怒っているつもりか?可愛い拗ね方だな、おい。


「そんなに笑わなくてもいいじゃない」

「違うんです、嬉しくて笑ったんですよ」


 痺れながらも、這いずって彼女の背に近付く。再びそっぽを向いてしまった彼女の髪が右へと揺れた。


「嬉しい?」

「はい、だって………だって師匠と長く一緒にいられるってことでしょう?それにいつか俺より年下になった師匠といられるなんて面白そうだし楽しみです」


 迷ってから、彼女の背中に自分の背中を合わせて座った。すると驚いたのか、僅かに前へと体を曲げた。


「師匠……師匠は僕がおじいちゃんになったら嫌ですか?」

「そんなわけないでしょう?それがどうしたって言うの」


 ああ変わらないな。

 自分のことは気にするのに、俺のことは何者でもお前は気にせず受け入れるんだ。


 痺れが治まった俺は、背中にもたれたままで後頭部を彼女の肩に擦り寄せた。頬を黒髪が撫でるのに任せていたら、彼女がくすりと笑う声がした。


「リトは変わってるのね」

「そうかもしれません」

「…………ありがとう」


 そう言って、今度こそ体ごとこちらに向いたメディアレナは安心したらしく柔らかく微笑んだ。


 自分が異質だと自覚すれば、とても淋しいものだ。その孤独感は俺も覚えがある。前世の俺が人間に恋した時に感じたものが、まさにそれだからだ。

 だが今は違う。人間の俺は彼女に寄り添える。

 その幸運をどれほど願ったか、お前には分からないだろうな。


「ほら師匠、リンゴどうぞ」

「子どもじゃないのに、あーん」


 フォークに刺したリンゴを差し出せば、彼女は言葉では抵抗しつつも、素直に口を開けて頬張った。

 口許を隠しながら咀嚼する彼女の隣に寄ると、俺は微かに染まるメディアレナの頬を見つめていた。


 少しずつでいいから、この指が彼女に触れることを許されたいと思う。





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