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転生したら魔女の夫になった俺だが

 

「……………っ」


 頭痛い。


 天窓からの光が眩しくて、俺は目覚めた。目を開けて最初に見たのは、うつ伏せのまま顔だけ俺の方へ向いて、こちらを見つめているメディアレナだった。


「……………………おはよう」

「アア………………オバヨウ、レナ」


 髪を乱して気だるげな様子の彼女の色気に当てられ、俺は身を起こすとキスをしようと顔を寄せた。


「ぐっ」


 ヤバいぞ、頭が痛いし腰も痛い。おまけに身体の虚脱感が半端ない。声も嗄れているぞ。散々俺が喘いだからな。

 呻いて動きを止めた俺を不思議そうに見て、焦れた彼女が軽やかに身を起こして俺へと唇を重ねた。


「どうしたの?」


 綺麗な澄んだ声で問われる。

 何だか俺ばかり鳴かされたような………


「れ、レナは平気なのか?」

「え………………ええ」


 一瞬何のことだろうという表情をした彼女が、意味が分かると頬を染めてシーツで顔を隠した。

 え、平気なの?俺、結構頑張りすぎた感じなんだけど?

 魔女、最強。それに最高。


「レナ……………ぐは」


 思い出したかのように恥じらう彼女を見ていたら、再び乱れる様を見たいと欲望が湧くが……………身体が言うことを聞かずに俺はあえなくベッドに沈んだ。

 そうか、人間の体って最初はこうなるんだ。精霊の時は事後も変わらない体だったのだがな。なぜかメディアレナよりも俺の体の方が消耗している気がするんだが。


 ところで今は朝なのか昼なのか?

 夢中になって互いを貪っていたようで、今日がいつなのかもよく分からない。


「あ……………こんなところに」


 俺の肩や胸や腹に情熱の証のように赤いキスマークが散っている。


「ご、ごめんなさい。つい…………」


 それを見たメディアレナが、嬉しそうに謝った。


 彼女の色々を頂くつもりだが、俺が色々搾り取ら…………いや、吸い付くされ奪われて喪った気がするんだが。こういうのって普通は逆じゃないのか。何か俺って凄い愛されてるじゃないか。

 あれ、俺って前世何だったっけ?


「身体が辛いの?薬持って来るわ」


 顔をしかめる俺に察しがついた彼女が、今度こそ身体を起こした。

 薬って、そういう用途のってあるの?


 そんなことを思っていた俺の目の前に、落ちたシーツから溢れた白い肌や豊かな膨らみを露にした彼女がいて、思わずその手首を掴んだ。


「まだここにいて、その内治るから」


 何もしなければだがな。

 俺が熱っぽい視線を向けると、メディアレナが目を泳がせる。


「ねえリト」

「ん?」


 聞きながら彼女の腹に手を回して引き寄せた。


「ギュッ、てして…………」

「もうしてる」



 言い終わる前に彼女を抱き込む。


 そうやって可愛いことを言ったりして………俺は………お、俺は………!


 彼女が嬉しそうに俺の首元に頬を擦り寄せてくる。


「リト、幸せ」

「れ、レナ……………レナ!」

「好き」

「レナあああ」

「あ…………」


 ピタリと肌を密着させて足を絡めてくる魔女の誘惑に、俺は自らの身体に鞭打って覆い被さって、我を忘れてしまった。

 …………………まあ俺、若いから。



 *****************************



「副団長ぉ!お助け…………うわあ」


 強風に煽られて飛んで行く仲間を横目に、俺は気配を殺して建物の陰から駆け出した。

 許せ、お前達。あとで拾ってやる。


「ひょほほほほおおお!私の臓物はあ、綺麗なピンクっ」


 また一人囮の仲間が飛んでいった。

 あいつはいつもあんな感じだが、一体何が言いたかったんだ?


 まあ死にはしないはずだ。背後に網を張っているから受け止めてもらえるぞ。


 そうこうしている間に、風魔法を繰り出す魔女の背後に回り込んだ俺は、彼女の手首を後ろにするや縄を掛けた。


「ぎゃあ!何すんのさ!」

「はい、捕縛。学長に連絡はしたか?」


 網に掛かった部下が、くたりと小さく頷く。


「ひょほ…………ほほ」

「……………全員怪我はないな」


 バタバタと暴れる魔女の縄を片手に持ち点呼していたら、セレーヌが俺の部下に案内されて走ってきた。


「エリオット、すまない」


 一年前に学長になったセレーヌは、目尻を釣り上げてまだ幼さの残る魔女を睨み付けた。


「リリス!いくら勉強が嫌だからって逃げた挙げ句、追って来た先生方を吹き飛ばし、街中を魔法で混乱させるとは!」

「だ、だって薬草学なんてつまらないんだもの!家に帰りたいんです!」

「帰る?そんな態度で、魔法を正しく使えない魔女である内は許されない!」


 頬を膨らませる少女に呆れつつ、セレーヌに縄を渡そうとすれば、それを見た少女が目を光らせた。


「大気に溶ける風よ、巻き上が」

「やれやれ、そこまでだ」


 リリスが魔法を使うより早く、俺は剣に仕込んだ魔法石に触れた。


「わぶっ」


 少女の顔面を集中的に強風が打ち付けて、金の巻き髪が一斉に後ろに撫で付けられるようになった。


「い、息」

「ちゃんと勉強しないと、俺の奥さんみたいな素敵な魔女になれないぞ」

「ふが!?」


 リリスが目を大きく開けてこちらを見ている内に、魔法石の効力が消えて風が落ち着いてきた。


「もしかして、メディアレナ様の?」


「ああ、レナの旦那様だぞ」


 セレーヌが俺の肩を軽く叩く。

 実は俺とメディアレナは、彼女にだけは前世の話を打ち明けていた。メディアレナのことを良く理解していて、親友である彼女なら信じてくれると思ったからだ。セレーヌは、話を黙って聞くと、疑うことなく笑って「前世がどうあれ、互いが好き合っていれば十分だ。お幸せに」と祝福してくれた。


 俺も今が一番大事だから、前世のことは遠いことのようになっている。これからは振り返らず、メディアレナと一緒に前を見ていればいい。


 驚いた顔をして俺を見ていたリリスが、次第に目を輝かせる。


「ひゃあああ!メディアレナ様の、うっそおお!こ、今度サインもらえますか!えええホントに?え、旦那様?!」

「良い子にしていたらサインは貰ってきてやるが、また悪いことをするならレナに報告してやるぞ」

「はいい!もう悪いことしません!ごめんなさい!」


 態度の違い凄いな。


「手間を取らせてしまった。申し訳ない。逃がしてしまった学園にも責任があるから、損害の請求はこちらに頼む」


 セレーヌが俺に詫び、ご機嫌になった少女を引っ張りながら学園に戻るのを見送る。

 セレーヌにも新しい恋が見つかればいいな、なんて思いながら俺は網に絡まった仲間を解放した。


「奥様効果凄いですね」

「まあな、レナは全世界の魔女の憧れだからな」

「はいはい…………ちっ、また自慢かよ」

「聴こえてるぞ、自慢してどこが悪いんだ。レナに言いつけるまでもない俺が稽古でも付けて」

「ごめんなさい」

「まあいい。帰るから後は頼んだぞ」


 部下に今回の報告書を書かせる指示を出すと、俺は馬に乗って帰路を急いだ。


 今夜は新月だ。





















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