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四年後の俺だが2

 

 地面から張り出した岩を、ヒョイと飛び越える。四年前初めてこの山を登った時は、何度か転んで足を擦りむいたものだ。

 あの時の少年だった俺は、今やそれなりに足も長くなり、身長も伸びて体力もついた。


 麓の町の預かり所に馬を任せて、俺は山を登る。あんなに苦労していたのが、楽とは言えなくても思ったよりも早く登れて自分の成長を感じた。

 まあ、気が急いているのかもしれない。


 帰ったら最初に何を話そう。彼女は何て言うだろう。喜んでくれるだろうか。遅いと怒っていたらどうしよう。忘れられていたら………それは無いよな?


 ヒラヒラと赤や黄色や橙色の落ち葉が上から降って、山肌を柔らかく包み、踏みしめる地面は敷き詰められたそれらで少し弾力を持っている。


 晩秋の山。

 鮮やかな色彩は、昔メディアレナがいずれ一緒に見に行こうと誘ってくれたものだ。


「レナ………………」


 俺はどうやって4年間耐えてきたっけ?

 逢えると思ったら(たが)が外れたのか、もう苦しいぐらい逢いたくて堪らなかった。


 斜面を手も使わずに上がった所に、見慣れた家があった。息切れもせずに頂上に着いたのに、視界に入れた瞬間、心臓が大きく跳ねた。 


 急く気持ちと微かな不安が交差する中、早足で家の戸口の前に辿り着く。

 ノックをしようか迷い、結局ノブに手を掛けると、予想通りすんなり開いてしまった。

 不用心だな。

 彼女のトラップ魔法のせいで、ここに絶対に行きたいという強い意思がないと魔女の家には辿り着けないから、鍵を開けていられるのだ。

 そう、俺のような者だけが招かれることを許される。


 戸口を開けて、中へと入る。

 シン、と静かだった。微かに清涼な薬草の匂いがして、家の中の家具の配置も壁紙も変わらないままだった。


 テーブルには、やっぱり手紙の束。ただ酒瓶は無くなり、部屋はそこそこ整頓され掃除もなされていた。


「レナ?」


 台所を横目で見るが、人の気配はしない。

 籠に溢れたキノコと栗と柿などの旬物が無造作に流しの傍に置かれていた。

 メディアレナが楽しげに採ってきた様子が容易に想像できて、思わず笑ってしまう。

 そして、身動ぎする気配を奥のソファーの辺りから感じて、大股で回り込む。


 溜め息が漏れた。


 眠る彼女は、あの頃と年齢的に変わっていない。いや、こんなにも美しかったのか。


 絹糸のような黒髪をソファーに広げて、白い肌に頬は薔薇色。長い睫毛を伏せて、整って美麗ながら生気に彩られ優しい顔。


 こんなに可愛かったのか。

 俺が成長したからだろう。俺には彼女が以前よりも小さく思えた。

 今なら俺の腕で彼女をすっぽり包み込めるだろう。


「ただいま、レナ」


 しばらく寝顔に見惚れていたが、その間にもじんわりと胸に温かいものが湧き上がり、俺はソファーの背に手をつくと身を屈めた。

 既視感を覚えたが、あの頃のようにトラップ魔法に捕らわれることは無かった。

 それに唇を触れ合わせることもできた。


 夢にまで見たメディアレナの唇は、覚えていたはずなのにずっと柔らかく暖かい。小さな息吹きを吸った瞬間は、クラクラするほど魅力的で離れがたく、俺の熱を呼び覚ますようだった。


 やがて彼女の唇が震えるように動き、俺は唇を放して彼女を見下ろした。

 深い青が、俺を捉えていた。


 目を細めた彼女が、両手を伸ばして俺の肩に触れた。浮いた背中に手を回して支えて、上半身を起こした彼女を抱き締めた。


「お帰り、リト」


 ようやく腕の中に満足に彼女を収めることができて、嬉しさを噛み締める。


「ただいま、レナ。待たせてごめん」


 俺の胸に顔を引っ付けて、彼女は「大人になったのね」と微笑んだ。



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