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四年後の俺だが

 

「かかってこい、エリオット!」

「行きますよ」


 大きく踏み出したと同時に、振りかぶった互いの剣が打ち合って硬質な音を立てた。


「団長、しっかり!」

「エリオットさん、やれ!」


 相変わらず応援と野次が賑やかだな。


 騎士団長ランディの馬鹿力を受け後退する俺だが、足に力を込めて踏みとどまると横に剣を流した。


「いつまでも力で勝つと思わないで下さいよ」

「むうっ!」


 こちらから攻撃を仕掛けると、ランディが素早く受ける。一撃は予想通りで、そこから次の攻撃に移ると慌てて受け止められる。


 打ち合う音が繰り返されて、俺の剣撃の速さに押され気味になったランディの腰の辺りが僅かに空いた。そこを見逃さずに打ち込むとランディが膝を付いて呻いた。

 大丈夫だ、峰打ちだ。死にはしない。いきなり真剣勝負だと言われて殺しちゃわないかとビビったが、良かった死んでないな。


「ぐっ、さすがだ。エリオット……………殿」

「あなたもなかなか腕を上げましたね」


 負ける度、なぜ俺を『殿』付けなんだ?


 手を差し出して団長を助け起こしていたら、観ていた仲間が拍手する。


「エリオット君、スゴイー!!」

「かわいい!」


 一部高い声がするのは、王宮勤めの女性陣だ。俺を14の時から見守る内にファンになってくれたおばさんやお姉さん方だ。

 だが可愛いはやめてくれ、そこはカッコいいだろ!

 俺はもう18だ。やっと成人になったんだ。ところで俺は年上の女性に人気があるんだが、なぜなんだ?


「なあ、団長とエリオットさんのセリフって普通は逆の立場じゃね?」

「ひょほほほほ、うちの騎士団は力量よりも年功序列ですかね?」

「それも変えていく方針だ」


 騎士達に割って入ったのは、王宮魔法師とお付き合い中の王様だ。

 腕組みをしたイサルがランディを見る。


「どうだった?」

「は!合格かと」


 大仰に頷いたイサルが顎を上げる。


「お前達、やれ」


 命じられたランディが部下達に視線を向けると、ニヤニヤしながら彼らが一斉に示し合わせていたらしく俺を取り囲んだ。


「何だ?」

「………………エリオットさん、じっとしてな。大人しくしてれば痛いことはないから」

「は?!あ、ぎゃ、やめ、いや」


 あれよあれよと言う間に、汗と埃にまみれた服を、いきなり引き剥がされた。


「きゃああ、エリオット君の裸!」

「引き締まってるう!」


 しっかり見るな、女性陣!最近増えた女性騎士達も一緒になって喜んでいるし!


 上半身を剥かれたと思ったら、すぐに違う服を着せられる。


「はなせ、なっ?」

「下は脱がせますか?公衆の面前なんで暗がりにでも引きずり込みましょうか?ひひひ」

「いやだあああ」

「形だけだし下はいいだろ。どうせ急ぐんだ」

「やめ、俺の大事なアレコレはっ、レナの為に取っているんだ!」

「分かってるって、はいはい」


 男達総出で襟を正され顔を拭かれ髪を整わされる。ナニコレ?キモいよ。

 おい剣返せよ、反撃させてくれ。


「用意はできたか?私は忙しいんだが」


 憮然とした態度で俺に近付いたイサルが、手にした剣を抜いた。

 殺る気か!?


 反射的に仲間の手にある自分の剣を掴もうとしたが、視界に映った着せられた服の袖のきらびやかさに動きを止めた。

 見覚えのある正騎士の服だと気付いたのだ。


「エリオットさん、そこに膝付いて」


 クラウに促されて、訳知り顔で見守る周りを見渡し従った。


 イサルが抜いた剣が、俺の肩に軽く置かれた。


「エリオット、貴殿を我が国の正騎士に叙任する。またその能力の高さ故、副騎士団長に任命する。末長くこの国に尽くせ…………ふん、ハビアルの騎士団長には悪いことをしたな」


 俺が最初はハビアルにアプローチされていたことを知っているイサルは、剣を両肩に触れさせるとそれを鞘に入れた状態で俺に渡した。


「私………エリオットは、ここにシェルマージ国と陛下に忠誠を誓い末長く尽くすことを約束致します…………こういうのって練習場じゃなくて、もっとちゃんとした所で普通しますよね?なんで日取りとか教えてくれなかったんですか?」


 サプライズのつもりか?皆知ってたな。


 俺は両手に剣を捧げ持ち、とにかく忠誠を誓ったが、正直やったぜ!と思っていた。

 ランディが腹を擦りながら、得意気に唇を上げた。


「お前夏に18になっただろ?正騎士になるのは成年になってからだから見習いのままですまなかったな。急ぐと思ったから毎年春にする叙任式をお前だけ早めたんだ。驚いたか?」

「いや、新手のイジメかと」

「大きくなったな、エリオット。俺にもお前ぐらいの年の子が」

「それもういいから」


 感慨深げに目に光るものを滲ませた騎士団長に、冷たく返す。


「急ぐのではないのか?」


 イサルが偉そうに問われるまでもなく、俺は立ち上がってカトリナさんから荷物を受け取りながら答えた。


「急ぎます!だから感謝しています。それで休暇もいただきたいんですが」

「どのくらいだ?」


 騎士団長に問われた時には、クラウが牽いてきた馬の鞍に跨がっていた。何て気が利く奴等め。


「そうですね、行き帰りに時間が掛かるので一ヶ月ほどもらいたいです!」

「確か魔女様の転送魔方陣使えば…………う、いや分かった。一ヶ月だぞ!」

「了解!」


 返事をしながら鐙を蹴った。


「魔女様によろしく!」

「くう、羨ましい!」

「後で詳しく聞かせて下さいよ!」


 道を開ける仲間達の冷やかしを受けながら、俺は馬を走らせて王宮から出た。


 四年間、恋しくなって何も手がつかなくなりそうで、手紙のやり取りさえしていない。それでも彼女の気持ちを信じて過ごしてきた。

 俺も彼女も想いは筋金入りだからな。


 ただ、遠く離れていても、彼女の噂は風の便りに聞こえてきていた。

 おそらくは随分前から、魔女は仕事で得た金銭の大半で世界中の苦しむ人々を救っていた。

 身寄りのない子供を保護して育てる施設を造り、女性の就労支援や貧困家庭の援助、病院への医薬品の提供もしているらしい。


 特にここ数年間大規模な援助を続けているのは、ランスロットを甦らせるために使っていた金銭をそちらへ回すようになったからだと思う。

 一緒に住んでいる時は知らず、遠くにいるからこそ知り得た魔女の姿。

 俺は懐かしくて、彼女らしいと思ったものだ。


 そして、これからも彼女の新たな一面に驚かされるのだろうと思う。この世で『メディアレナ』と過ごした年月は短い。だからこれからずっと共にいれば、彼女のことを更にたくさん知るはずだ。

 同時にそんなメディアレナを益々好きになっていくだろう。

 きっといつか俺は、転生した理由も忘れるぐらい『メディアレナ』だけを愛せる。

 俺は、胸が高鳴って口元が弛むのを抑えられなかった。
















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