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誓いを立てる俺だが

 


 地下室に薬材を運び入れた俺は、メディアレナの作業を傍から見ていた。

 今日は年に一度の『奇跡の美容液』を作るのだ。


 あれから二週間が過ぎ、体力の回復した彼女は、いつも通り魔女の仕事に勤しんでいる。


 以前より変わったことは、夜にしていた地下室での作業を日中にするようになったこと。俺の地下室への出入りが自由になったこと。ランスロットの肉体を甦らせることを辞めたことで俺への『実験』が無くなったことだ。


「瓶に、この粉をいれたらいいのか?」

「そう、これを3袋入れて」


 ああ、俺が魔女の弟子ではなくなって、敬語を止めて素のままで接するようになったことも変わったことだな。対する彼女も俺を『リト』として、子供扱いしなくなった。


 俺と彼女は、互いに触れ合ってキスをして、毎晩一緒に眠る関係だ。それ以上でも以下でもない……………以上ではないんだ。


 特殊な精製水に貴重な薬草を半年以上漬け込んで得られたエキスを、メディアレナが硝子瓶に入れて火で炙る。一定の温度まで暖めたら、そこに白水晶の粉末と花や果物の皮を乾燥させて砕いた物を定められた量入れて混ぜこむ。


「だんだん粘っこくなってきたぞ」


 大きな銀のボウルに入れ換えて、俺は杓子のような器具で混ぜるのを手伝った。

 液体からクリームのようになってきたエキスは、泥のような灰色の見た目だ。

 きつい香水のような薫りが漂い、部屋に充満する。


「これで完成か?」


 内心こんなものが肌を若返らすとは、と思いつつ聞くと、彼女は悪戯っぽい顔をして首を振った。


「仕上げをしたらね」


 クリームに指が触れるかどうかの位置で魔方陣を描いたメディアレナが、ぶつぶつと詠唱を唱える。

 するとクリームから水気が分離していき、上に滲み出てきて二層になった。


 それを()すと、水気の部分だけを水色の小さな瓶に詰めていく。


「これだけ?」

「ええ、一滴でも肌に劇的な効果をもたらすエキスが凝縮されているのよ」


 完成したのは、人差し指ぐらいの瓶に30本程度。ボウルには、クリームの残骸がパサパサに乾いて岩のようにこびりついている。


「作業が大変なのに、この量と数では割りに合わないんじゃないか?」

「そう?あ、落とさないように気を付けてね、一本で家が建つぐらいの値段だから」

「い、家が建つだと?のああ…………」


 瓶に二人で『メディアレナの特製美容液』なるラベルを貼り終えた。

 良かった、値段聞いてから手元が震えていたが落とさなかった。庶民感覚が染み付いた俺には、大変なプレッシャーだったぞ。


「レナ、もしかして魔女の仕事は趣味か何かなのか?」

「趣味?どうしてそう思うの?」

「いや、稼ぐ必要ないような…………」


 さすがに聞けないが、恐らく彼女は一生遊んで暮らせるぐらいには裕福なのではないだろうか。


「お金を稼ぐだけが仕事なの?仕事が楽しいからしてるのよ」

「羨ましいぞ」

「魔女の仕事は、私の生活の一部なの。切っても切り離せない。リトの剣がそうであるのと同じ」


 そう言ったメディアレナが、俺を正面から見つめた。


「シェルマージには、いつ行くの?」


 言葉に詰まる俺に畳み掛けるように、彼女は話す。


「気持ちは決まっているのでしょう?いつ言い出すのかと待っていたのよ」

「……………………だが、レナを一人にしてしまう」

「リトに手伝ってもらって一番大変な大仕事の美容液もできたから、あとはのんびりやっていくわ」

「悪夢を見るんじゃないのか?」

「もう見ないわ。リトがいる今が私の現実だもの。以前のように過去の悪夢なんかに捕らわれている謂れはないから、例え見ても今なら克服できる。だから…………私を言い訳にしないで」


「……………レナ」


 唇を噛み、彼女が顔を俯けた。


「心配しないで。私は今までと同じように一人でやっていくから」


「お疲れ様、休憩しましょう」と瓶を入れた箱を抱えて、地下室を去る彼女を見送り、俺は溜め息をついた。


 ***********************


 ベッドに座って、魔法に関する本を静かに読んでいる彼女を、俺は突っ立って見ていた。

 日中は食事時にも言葉少なく、ぎこちなく過ごした俺達だったが、メディアレナは待っていて、俺はずっと考えていた。

 いや、俺は心の中で、離れたくないとふらつく気持ちを鼓舞していたに過ぎない。


「……………明日、ここを発つ」

「分かった」


 本を膝に置いて、メディアレナが見上げる。


「転送魔方陣は設置しないわ」

「それで…………いい」

「私のことは心配しないでいいから、ちゃんと地盤を固めるまでは帰ってこないで」


 厳しい眼差しで、突き放すように言われて、胸に刃が刺さるようだった。『お前は、俺がいなくて平気なのか!?』と叫びたくなるのを噛み殺す。


 ランスロットを甦らせようと泣いていた魔女の姿を見ていなければ、俺は疑っていただろう。

 だが、分かってしまったから。


 メディアレナが、俺が思うよりもずっと俺を愛していること。

 この言葉が、俺の為を思って発していることなんてお見通しだ。

 転送魔方陣を設置しないのは、俺の決意と彼女自身が揺らがない為だ。


「レナ、ちゃんと自分の足で立てるぐらい自立した大人になったら、いつか帰ってくるから」

「ええ、楽しみにしてる」


 ベッドの傍に膝をついて言えば、ようやく表情を和らげた彼女が強く頷いた。


「待っていてくれるか?」

「ええ。あなたのお陰で待つのは慣れっこなの。だから少し待つぐらいどうってことないわ」


 前世からの時を冗談にしてしまう言葉に、皮肉や恨みは感じられなかった。

 彼女は否定するかもしれないが、俺には目の前にいる女性ほど強くて愛情深い存在を知らない。


「リト、あなたは人間として自分の道を正しく歩んで」


 身を乗り出したメディアレナが、俺の首に腕を回した。


「過去に捕らわれずに、あなたらしい幸せを掴んで欲しい」

「レナ」


「リト、大好きよ」


 恥ずかしげに囁いた彼女の唇が、俺の唇を塞ぐ。気の利いた言葉の一つも出なくて、俺は応えて彼女の頭を引き寄せて目を閉じた。




















 


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